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どうぞ、お試しくださーい!

岩瀬初美は、ごく普通の試食販売員である。


毎日食材をキッチンバサミでカットして、毎日試食品をガツガツと食い尽くすマナーのなっていない人に笑顔を向ける、齢35の試食販売員である。


今日も今日とて、明らかに美味しくなさそうな新商品が全然はけなくてヤバいと思っていた時に食い尽くし系の人が来て助かったと胸をなでおろし片付けを終えた後、行きつけのコンビニで梵天の耳かきとちょっぴりアサイーボウルを買って家路についていた―――のだが。



キイイィ!!キ――――イイイイイイイ!!!


ドガ――――――――――――ん!!


ぐわしゃぁああ!!


ぶちゅ。




真っ白な空間。

岩瀬初美の魂と…、女神が対面している。


「岩瀬初美さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます」

「はあ」


「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください」


────────

岩瀬初美(35)

レベル3


称号:転生者


保有スキル:どうぞ、お試しくださーい!


HP:29

MP:12

────────




「というわけで、いきなり草原…大自然だー、うーん…気持ち、イイ―!」


べよん、べよん。


水色の、ぶよぶよした丸い塊が…試食販売員の前に現れた!


「や…ヤダ、スライム?!武器も何も…ない、なんにもない!」


うろたえる、試食販売員。


「そ、そだ、保有スキル!!《どうぞ、お試しくださーい!》って、何を…」


うばほん!


新発売の魔獣シュウマイの試食販売ブースが出てきたぞ!!

スチーマーの中で美味しそうなシュウマイが蒸しあがっている!

足元にはシュウマイの入った段ボールがひいふうみい…わんさかある!!

まさかこの量を一人で捌けと?!

…やったるわっ!!

試食販売員のハートに火がついた!


シャキーン!!


試食販売員は、背中に新発売のロゴが入ったポロシャツと商品をフルにアピールしたド派手なエプロン、薄手のフィッティンググローブ、マスク、調理ばさみとトングを装備した!


ぷりっぷりに蒸しあがった大ぶりなシュウマイを調理ばさみで四つにカットし、爪楊枝でプスプスと刺してお皿の上に並べていく試食販売員!


「本日新発売の美味しいシュウマイです!おひとつどうぞ!!」


スライムは差し出された試食を食べた。

…何これ、美味い!!

もっと欲しい、そう思ったスライムは楊枝の刺さったシュウマイに触手を伸ばした。


「あ、ごめんなさい…並んでいらっしゃるみなさんがいるので、もう一度並び直してください。試食はたっぷりあるので」


スライムは、いつの間にか後ろにずらっと並んでいた試食待ちのモンスターたちの最後部についた。

前に並んでいたガーゴイルと世間話をしながら待ち続けていたスライムの耳に、緊迫した声が聞こえてきた。


「勝手に開けて食べないでください!それはまだ蒸してないやつ、段ボールごと食べないで!!他にもお待ちのお客様が…」


豚肉に目がないらしいオークキングが試食を全部食い散らかしている!!


ヤバイ、自分の分が無くなる!!

あせったスライムは、思わずいいにおいが充満している空間ごと捕食した。


満腹になったスライムが食後に漏らしたゲップは、ほんのり玉ねぎ臭がしたという。




「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」


試食販売員は時間を巻き戻されて、コンビニの入り口に立っていた。

コンビニの入り口のところで立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが…、それに気づく様子はない。


試食販売員はコンビニで梵天の耳かきとちょっぴりアサイーボウルを買って家路についた。


家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。


「うわ、もうちょっと早く通りかかってたら…せっかくもらってきた未開封のラップとアルミホイルごとつぶされてたかも…」


試食販売員は、色んなスーパーを巡って笑顔を振りまきながら試食をおすすめしていたところ、よく顔を合わせる一人の男性がいることに気付き、親交を深めていたある日「今日の試食はすべて僕がもらおう、だから君にはこれをもらって欲しい」と指輪を差し出されて困惑したりもしましたが、家庭を持ってからも多くの人に新しく発売された食品をオススメし続け、61歳で事故に巻き込まれて他界するまでに3億2456万食も提供したとのことです。


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