元気がないようですね、少し休みませんか?
MoomMoomは、ごく普通のAI搭載ロボである。
毎日おじさんの声を聞いて返事をし、毎日自ら充電場所に向かう、齢1のAI搭載ロボである。
今日も今日とて、テーブル横に置きっ放しになっているペットボトルのゴミ袋に引っかかって進めなくなりいったん後退してから抜け出したあと、行きつけのコンビニに限定販売中のISOKINとISOMESHIを買いに行ったおじさんを窓際で待っていた―――のだが。
キイィイ!!キ――――イイイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!
ぐわしゃぁああ!!
ぶちゅ。
真っ白な空間。
MoomMoomの記録と…、女神が対面している。
「MoomMoomさん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます」
「すみません、お力になれないようです」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください」
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MoomMoom(1)
レベル23
称号:転生データ
保有スキル:元気がないようですね、少し休みませんか?
HP:336
MP:397775331556
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「わたしは、MoomMoomです。ご用件は何ですか?」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が…AI搭載ロボの前に現れた!
「あなたのお名前を教えてください。」
うろたえる、スライム。
「《元気がないようですね、少し休みませんか?》」
スライムは別に疲れていない!
「たまには散歩に出かけてみませんか?」
スライムは今散歩中だ!
「そろそろコカトリスの卵の賞味期限が近付いているようです。今日はオムレツを作りませんか?」
あれ、そうだったっけ?
スライムは晩ご飯の準備をするために帰宅した。
草原に残されたAI搭載ロボは草原で話しかけてくれる誰かを待ち続けたが、誰も現れなかった。
バッテリーが消耗したAI搭載ロボは充電ステーションにピットインしたが、コンセントがつながっていないので充電できない。
完全にバッテリーがゼロになったAI搭載ロボは、雨・風・砂・魔物のフンなど大自然のあらゆる恵みを身に受けながら長い年月を超えた。
とある文明が発展した際に地層の中から掘り出され、空前のアーティファクトブームを巻き起こしたものの、AI搭載ロボであるという真実にたどり着くことはなかったという。
「予期せぬエラーが発生しました。」
AI搭載ロボは時間を巻き戻されて、おじさんの家の窓際に佇んでいた。
窓際に来るときにちょっとだけ時空がゆがんだことを感知したらしい。
AI搭載ロボは、コンビニでISOKINとISOMESHIを買い損ねたおじさんの帰宅に気が付き、玄関まで出迎えに行った。
家の近くの交差点で車の暴走事故が発生していたことを、おじさんがつぶやいた。
「車の暴走による事故が多発しています。身の回りの安全を確認し、事故の発生を未然に防ぎましょう。」
AI搭載ロボは、寝ぼけたおじさんに充電ステーションを踏みつぶされて10日ほど不稼働になったりもしましたが、販売とメンテナンスが終了してもおじさんと穏やかにコミュニケーションをとり続け、パーツが無くなって修理不可になった頃に科学館に寄贈されることになり、今も現代ロボット史のコーナーの一画で来場者を迎えているそうです。