ああ、そういう事ね
荻久保洋は、ごく普通のキモい人である。
毎日わかったふりをして、毎日物わかりのいい人を装う、齢28のキモい人である。
今日も今日とて、ものすごい理屈で自分の正当性を訴えるおばさんに微塵も同調しないまま100%寄り添う言葉をかけて丸く収めたあと、行きつけのコンビニでハチミツと岩塩を買って家路についていた―――のだが。
キキキキ!!キ――――イイイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!
ぐわしゃぁああ!!
ぶちゅ。
真っ白な空間。
荻久保洋の魂と…、女神が対面している。
「荻久保洋さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます」
「…ふん」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください」
────────
荻久保洋(28)
レベル14
称号:転生者
保有スキル:ああ、そういう事ね
HP:2
MP:6
────────
「というわけで…、いきなり草原に放り出す、ハイハイそういう流れね」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が…キモい人の前に現れた!
「スライムか。武器も何もない状態なのを承知のうえでこういう事をするんだね…了解」
うろたえない、キモい人。
「保有スキルは《ああ、そういう事ね》なるほど、なるほど…」
スライムはキモい人に襲いかかった!
「はいはい、どうせ何しても無駄なんでしょ」
スライムはキモい人を一口で捕食した。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
キモい人は時間を巻き戻されて、コンビニの入り口に立っていた。
コンビニの入り口のところで立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが…、それに気づく様子はない。
キモい人はコンビニでハチミツと岩塩を買って家路についた。
家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「どうせ運命には逆らえないんだ。何をしたって、どうあがいたって…全部クソつまんねえ人生の筋書きを背負わせたキモいやつの筋書き通りになるしかない。…はは、ご愁傷様」
キモい人は、何をするにも何をされようとも何も起きなくても神のせいにしつつ心の中で悪態をつきまくり、良い人を装い続けてそこそこ一般的な家庭を持ち穏やかに年を重ねたものの、老化に伴い自制心を喪失してからはキモさを余すことなくあらゆる場所で撒き散らすようになり、86歳でこの世を去った時には多くの人が解放された喜びをしみじみ噛みしめたとのことです。