いっしょうゆるさない
田中太郎は、ごく普通のいじめられっこである。
毎日だれかにイヤなことをされ、毎日早く学校が終わらないかなと思う、齢8のいじめられっこである。
今日も今日とて、お母さんに「今日も学校楽しかったよ」とウソをついたあと、行きつけのコンビ二前にあるポストにハガキを投函して家路についていた―――のだが。
キュキキイィ!!キ――――イ!!!
ドガ――――――――――――ん!!
ぐわしゃぁああ!!
ぶちゅ。
真っ白な空間。
田中太郎の魂と…、女神が対面している。
「田中太郎さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます」
「……」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください」
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田中太郎(8)
レベル2
称号:転生者
保有スキル:いっしょうゆるさない
HP:2
MP:2
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「どこ…、ここ?」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が…いじめられっこの前に現れた!
「スライム…ぼくなんか食べてもおいしくないよ、中野とか座間とか加藤とかシノデブ…篠岡や5組の楢原七海の方がうまいから、そっちに行け!名波矢田小の3年生なら全員食べていいよ!」
ここぞとばかりにスライムを唆す、いじめられっこ。
「そうだ、保有スキル!《いっしょうゆるさない?》うん、ゆるすもんか!誰も味方になってくれないし!」
フィン!
スライムは、令和7年8月9日に移転した。
「やったあ!」
うばほん!
いじめられっこのまえに、満腹になったスライムが現れた!
「全員食べてきてくれたの?ありがとう!」
ニコニコしながらスライムに抱きついた、いじめられっこ。
いじめられっこの全身に、スライムの猛毒が付着した。
「ギャアアア!」
スライムは藻掻き苦しむいじめられっこを一口で捕食してあげた。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
いじめられっこは時間を巻き戻されて、コンビニの前に立っていた。
コンビニの前で立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが…、それに気づく様子はない。
いじめられっこはコンビ二前にあるポストにハガキを投函して家路についた。
家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「ひくなら、いじめる奴らにしとけばいいのに」
いじめられっこは、あらゆる雑誌、ラジオ、YouTuberにハガキを出し自分の今の苦しみを訴え続けた結果、たくさんの大人たちが味方になってくれてイジメがなくなり、ようやくのびのびと成長しはじめたもののバイト先で陰湿なお局さんに目をつけられてしまい、戦うために知識と体力を身に着け身も心も強者になったのですが、裁判で勝った時に相手方に「こんなのイジメじゃないですか!」と詰め寄られ、心に深いキズを負ったまま老いて弱者になりはて、傍若無人な若者にいじめられている事を心底恨みながら74歳でこの世を去ったそうです。