じゃぶじゃぶ
桑名晃之は、ごく普通のコインランドリー経営者である。
毎日洗剤を補充し、毎日百円玉を回収する、齢38のコインランドリー経営者である。
今日も今日とて、乾燥機の中の忘れモノを整頓したあと、行きつけのコンビニでピンセットと眼鏡拭きを買って家路についていた―――のだが。
キギギイ!!キギギ――――イイイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!
ぐわしゃぁああ!!
ぶちゅ。
真っ白な空間。
桑名晃之の魂と…、女神が対面している。
「桑名晃之さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます」
「はあ」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください」
────────
桑名晃之(38)
レベル21
称号:転生者
保有スキル:じゃぶじゃぶ
HP:36
MP:18
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「というわけで…、いきなり草原…、スゴイ絶景だな…」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が…コインランドリー経営者の前に現れた!
「スライム…武器も何もないけど、どうしたものか?」
少々うろたえる、コインランドリー経営者。
「そうだ、保有スキルがあるな。《じゃぶじゃぶ?》もしかして…洗うの?毛もないのに?」
うばほん!
最新型の全自動洗濯乾燥機がでてきたぞ!
スライムは、洗ってもらう気満々だ!
よく見ると…めっちゃ汚れてる!
「おしゃれ着…という感じじゃないな、汚れ物にしよう。乾燥は…高温でいいかな」
ごうん、ごうん!
スライムはじゃぶじゃぶ洗われている。
んごぉおおおおー!
スライムはグルングルン回って乾かされている。
ぴー!
乾燥がおわった!
コインランドリー経営者は、全自動洗濯乾燥機の扉を開け、スライムを取り出した!
ピカピカのつやつや、ホクホク!
だがしかし…めっちゃ縮んでる!
あっちんちんのスライムは、気力を振り絞ってコインランドリー経営者をまるのみした。
ほんの少し元気を取り戻したスライムは、近くのオアシスに身を浸し元の大きさに戻ったという。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
コインランドリー経営者は、時間を巻き戻されてコンビニの入り口に立っていた。
コンビニの入り口のところで立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが…、それに気づく様子はない。
コインランドリー経営者は、コンビニでピンセットと眼鏡拭きを買って家路についた。
家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「うわあ、もうちょっと早く通りかかってたらひかれてただろうね、ヒャ〜!」
コインランドリー経営者は、近所に新しいコインランドリー店がオープンするたびにヒヤヒヤしていましたが、住居の下で経営している強みできめ細かなメンテナンスができ、売り上げを落とすことなく地域の便利なお店として親しまれ続け、記憶がヤバくなり始めた70代を孫のサポートで乗り切り、87歳でこの世を去った以降も毎日のように近隣住民が洗濯物を乾かしに来るそうです。