爽やかなのどごし、キリッと刺激的な強炭酸水
湯河亮は、ごく普通の清涼飲料水メーカー勤務である。
毎日炭酸水を飲み、毎日SNSで自社製品の評判をチェックする、齢28の清涼飲料水メーカー勤務である。
今日も今日とて、フードテックイベントで自社キャラの着ぐるみの内臓役を勤めたあと、行きつけのコンビニで毒々しい色のサイダーとミネラルウォーターを買って家路についていた―――のだが。
キイイ!!キギュイイイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!
ぐわしゃぁああ!!
ぶちゅ。
真っ白な空間。
湯河亮の魂と…、女神が対面している。
「湯河亮さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます」
「はあ」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください」
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湯河亮(28)
レベル15
称号:転生者
保有スキル:爽やかなのどごし、キリッと刺激的な強炭酸水
HP:36
MP:12
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「というわけで、いきなり…草原?!どこにも…自販機が、無い!」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が…清涼飲料水メーカー勤務の前に現れた!
「スライムだ…!武器も何もない状態でどう立ち向かう?いや、戦わない選択も…」
うろたえる、清涼飲料水メーカー勤務。
「そうだ、まずは保有スキルを…《爽やかなのどごし、キリッと刺激的な強炭酸水?》」
プブッシャアアアアア!
突然目の前のくぼみから強炭酸水が噴き出した!
強炭酸水を浴びたスライムは、痺れている!
ナニコレ、なんかちょ~キモチいい!
スライムの体表の猛毒が、強炭酸水の泡で剥がされていく!
そうこうしているうちに、見る見る強炭酸水がたまって…シュワシュワした池になった。
池の真ん中には、炭酸の粒がびっしりついたスライムがぷかぷか浮いている。
「うん、キリリとしたいい炭酸の粒だ!」
清涼飲料水メーカー勤務は薄水色の池に指を入れ、炭酸の刺激を…
「すごいな、このピリピリ感が…、いや、へっ?!ヤダ、痛い?!骨ッ?!ぎ、ぎゃああああ!」
強炭酸水に溶け込んだスライムの猛毒が、清涼飲料水メーカー勤務に勢いよく染み込む!
じゅじゅ、じゅわー!
あっちゅーまに清涼飲料水メーカー勤務は骨までとけてしまった。
恐ろしい殺人炭酸池が生まれてしまった…とスライムは独りごちたが、炭酸は夕暮れまでにすっかり抜け、ただの毒の池になった。
モンスターが数匹毒の餌食にはなったものの、10日ほどで池は干上がり、またもとの草原に戻ったらしい。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
清涼飲料水メーカー勤務は時間を巻き戻されて、コンビニの入り口に立っていた。
コンビニの入り口のところで立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが…、それに気づく様子はない。
清涼飲料水メーカー勤務はコンビニで毒々しい色のサイダーとミネラルウォーターを買って家路についた。
家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「あ、アレはうちの新作サイダー…、もうちょっと慎重に運転してたら、最後まで飲めたのに…」
清涼飲料水メーカー勤務は、サイダー愛をあらゆるメディアに天真爛漫に振りまき、広くその存在を知らしめながら自社製品のPRに努め順調に出世していたのですが、ある時お調子者YouTuberにそそのかされてサイダー風呂に入ったことで人気に陰りが見え始め、潔く表舞台から身を引き、炭酸水をたしなみながら大人しくのどを潤す日々を過ごすようになり、59歳でこの世を去るまでに38099本のペットボトルのラベルをはがし正しく廃棄し続けたとのことです。