大丈夫だってー!
坂下真紀は、ごく普通の明るい人である。
毎日笑いが止まらなくなり、毎日悩みがなさそうでうらやましいと言われる、齢17の明るい人である。
今日も今日とて、購買部で買ったエビサンドになぜか白身魚フライがはさまっていた件で下校時間ぎりぎりまで盛り上がったあと、行きつけのコンビニで黒っぽいハンドタオルと甘ったるいミルクティーを買って家路についていた―――のだが。
キキ~!!キュイ――――イイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!
ぐわしゃぁああ!!
ぶちゅ。
真っ白な空間。
坂下真紀の魂と…、女神が対面している。
「坂下真紀さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます」
「はへ!!」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください」
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坂下真紀(17)
レベル22
称号:転生者
保有スキル:大丈夫だってー!
HP:12
MP:100
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「というわけで、いきなり草原だー!すご、こういう事ってホントにあるんだー!!おもしろ、アハハ…!!!」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が…明るい人の前に現れた!
「スライムだ!ねーねー、あたし異世界初心者なんだー!お手柔らかに頼んでもいい?お願い!!あ、これ…あたしの大好きなハイチュル!!友好の証にあげるね!」
非常にフレンドリーな、明るい人。
「ねえねえ、保有スキルの《大丈夫だってー!》ってなにかなあ?なんか知ってる?あたしここでのんきに生きて行きたいんだー、良かったらさ、協力して欲しいな!!もちろんあたしにできることは何でもするよ、えへ!!」
スライムはなんだかとっても好印象を持った!!
一粒もらった異世界のお菓子、ウマー!!
「あ、気に入った?じゃあね、最後の一個もあげる!あたしはほら、日本でしょっちゅう食べてたからだいじょーぶだよっ!うふふ!!」
この子…やさしい!!
スライムはなんだかほっぺたがポカポカした!
「まずは衣食住…そうだなあ、村を探してみよっか。スキルがあれば多分大丈夫だよね、前向きに行こ―!!」
スライムと明るい人は連れ立って草原の端っこにある村を目指した。
おしゃべり(ただしわりと一方的)を楽しみながら村に到着した明るい人は、持ち前の明るさで村長をはじめとした村民たちに受け入れられたが、嫉妬深い一人のおばさんに嫌われてあっさり毒殺されてしまった。
悲しみに暮れたスライムは明るい人の亡骸を捕食した。
姿かたち気質その他もろもろを受け継いだスライムは、世界各国に笑いと前向きな考え方を届けながら、性根の腐ったド陰キャたちをバックバックと食い散らかしているらしい。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
明るい人は時間を巻き戻されて、コンビニの入り口に立っていた。
コンビニの入り口のところで立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが…、それに気づく様子はない。
明るい人はコンビニで黒っぽいハンドタオルと甘ったるいミルクティーを買って家路についた。
家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「ヒャア!! もうちょっと早く通りかかってたらヤバかった系?!でも多分助かってたと思うよ、あたし運いいもん!!」
明るい人は、あらゆるところにポジティブを撒き散らしながら元気に暮らしていましたが、たまたま市民祭りで隣り合わせた偏屈爺さんに粘着されて地元を離れざるを得なくなった事件以降、とりあえず様子見をしてから声をかける慎重さを身に着け、落ち着いた雰囲気を纏うようになってモテ散らかしている時にちょっと影のある青年と恋に落ちて温かい家庭を築き、くじけそうになっている旦那や子どもに友達親戚ご近所さんなどなど多くの人を明るく励まし続け、底抜けに明るいお笑い芸人のひ孫に思い切り笑わせてもらった翌日に、微笑んだまま硬直しているのをヘルパーさんに発見されたという事です。