べよん、べよん
ぷにぷには、ごく普通のスライムである。
毎日光の当たらない場所で人知れずぷよぷよし、毎日下水道のくぼみのところで肥沃アメーバを捕食する、齢98のスライムである。
今日も今日とて、ドブに溜まった枯れ葉の影で昼寝をしたあと、行きつけのコンビニの外蛇口に取り付けられているくたびれたホースの中に入って細長くなって遊んでいた―――のだが。
キイィイ!!キ――――イイイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!
ぐわしゃぁああ!!
ぶちゅ。
真っ白な空間。
ぷにぷにの魂と…、女神が対面している。
「ぷにぷにさん、あなたは気の毒ですがモンスター生を終えてしまいました。転生してもらいます」
「?」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください」
────────
ぷにぷに(98)
レベル185
称号:転生モンスター
保有スキル:べよん、べよん
HP:8996
MP:0
────────
「……ぷる、ぷる」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が…ぷにぷにの前に現れた!
「……!」
うろたえる、スライム。
《べよん、べよん》
二匹のスライムが、草原のど真ん中で各々ぶよぶよと揺れはじめた。
バラバラに揺れていたが…、だんだんと動きがシンクロしてきたぞ!
べよんべよん!
べべべよん!
揺れるスピードが…みるみる加速していく!
スライムたちは、草原のど真ん中で…激しく入り乱れはじめた!
右に行ったりジャンプしたり伸びたり縮んだり震えたり揺れたり変形したり…、どっちがどっちのスライムなんだか、さっぱりわからない!
じゅじゅ、じゅわー!
ブクブク…じゅるっ!!
激しい動きを長く続けていたせいで、スライムたちの体表の粘液があぶく立ってきて…見た目がヤバくなっている!
一刻も早く動きを止めなければ…、真夏のグールも真っ青のキモさに仕上がってしまう!!
可愛さが売りなのに…これはマズい!!
だがしかし、相手が動き続けているので辞めるわけには…!!!
お互いに牽制し合いながら猛毒の泡を撒き散らしていたその時、野生の野良勇者が現れて自慢の次元断ソードで真っ二つにした。
つまらないモノを切ってしまったとカッコつけた勇者は、剣についたヌルヌルを指で拭ったせいで全身に毒がまわり、あっさり息絶えたという。
「……???」
スライムは時間を巻き戻されて、コンビニの入り口前のグレーチングの下にいた。
コンビニの入り口の前のグレーチングの下で丸まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが…、それに気づく様子はない。
スライムはコンビニ外蛇口に取り付けられているくたびれたホースの中に入って細長くなって遊んだあと家路についた。
家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「…(ガソリンが流れ込むと、アメーバが減っちゃうな…)」
スライムは、ごくごくまれにアメーバ以外のものも啜りながらその身を着実に肥やし、地球上で一番の大きさを誇る生命体にまで成り上がったのですが、大きな飛来物を全力で受け止めた際に28億45万2699個に分裂したことがきっかけとなって個々が意識を持ち始め、自由に繁殖するようになったせいで確固たる自分というものを失いつつも、そういう事もあるさと特に気にせず命を堪能し続け、今もなお地球上でもっとも長寿な存在になるべくジメジメとした場所でショボい捕食を続けているという事です。