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ふとんがふっとんだ

小坂始は、ごく普通の布団屋である。


毎日寝具を押し入れにきちんとしまい、毎日まくらカバーを取り替える、齢33の布団屋である。


今日も今日とて、大学生が強化合宿で使うレンタルの布団を配達したあと、行きつけのコンビニでミニコロコロテープと軍手を買って家路についていた―――のだが。



キー!!キキ――――イイイイイイイ!!!


ドガ――――――――――――ん!!


ぐわしゃぁああ!!


ぶちゅ。




真っ白な空間。

小坂始の魂と…、女神が対面している。


「小坂始さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます」

「はあ」


「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください」


────────

小坂始(33)

レベル16


称号:転生者


保有スキル:ふとんがふっとんだ


HP:55

MP:3

────────




「というわけで、うーん、草原に放り出されたー!わりかしいいにおいだー」


べよん、べよん。


水色の、ぶよぶよした丸い塊が…布団屋の前に現れた!


「スライムだ!うーん、ちょっとかわいい気がしないでもないな〜、やっつけんの?やだな〜」


うろたえない、布団屋。


「平和的な解決はできんもんかね、あ、保有スキル使えるかも…《ふとんがふっとんだ?》アハハ、もう一億回くらい言ってんな、ハハハ…」


うばほん!


高級羽毛布団のセットが現れたぞ!


スライムは、ふこふこのふとんに潜り込んだ!


なに、コレ…めっちゃキモチいい!

暖かい、ヌクヌク、フワフワ、スベスベ、太陽のいいにおい!


スライムは秒で深い眠りに落ちた!


「幸せそうにまあ…布団屋冥利に尽きるますなあ」


布団屋が満足気に腕組みをしたその時、空から鳳凰が勢いよく舞い降りた!

どうやら自分もふとんが欲しいと思った模様!


スライムと布団屋は、風圧でふっとんだ!


極上の眠りを邪魔されたスライムは、怒り心頭で限界まで巨大化し、ふとんと布団屋、草原ごと鳳凰をのみこんだ。


草木一本生えない荒れ果てた土地には、【寝た子は起こすべからず】という言い伝えが広く知られているらしい。



「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」


布団屋は時間を巻き戻されて、コンビニの入り口に立っていた。

コンビニの入り口のところで立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが…、それに気づく様子はない。


布団屋はコンビニでミニコロコロテープと軍手を買って家路についた。


家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。


「ちょお、もうちょっと早く通りかかってたら二万八千円もしたオーダーメイド枕、使わずに永遠に眠る羽目になってたかも!」


布団屋は、万年床になっていた布団を回収する時に床板を踏み抜いて理不尽な損害賠償を請求された事で廃業を考えたりもしましたが、長年お世話になっているお寺さんや旅館、お得意様達に支えてもらいながら笑顔で仕事を続け、98歳になっても毎日布団を干せるくらい元気なのが自慢だと語った翌朝この世を去っていたそうです。

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