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真剣勝負

立木克は、ごく普通の棋士である。


毎日将棋を指し、毎日棋譜を望む、齢27の棋士である。


今日も今日とて、指導対局をした後、行きつけのコンビニでアーモンドチョコレートとキャラメルを買って家路についていた―――のだが。



キイィ!!キイ――――イイイイイイ!!!


ドガ――――――――――――ん!!


ぐわしゃぁああ!!


ぶちゅ。




真っ白な空間。

立木克の魂と…、女神が対面している。


「立木克さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます」

「はあ」


「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください」


────────

立木克(27)

レベル29


称号:転生者


保有スキル:真剣勝負


HP:36

MP:100

────────




「というわけで…、いきなり、草原…、この展開は先が読みにくいなあ」


べよん、べよん。


水色の、ぶよぶよした丸い塊が…棋士の前に現れた!


「スライム!武器も何もないけど、立ち向かうべき…なのか?」


冷静にうろたえる、棋士。


「そうだ、保有スキルを試して様子を見よう。《真剣勝負》…まさか、将棋を指せと…?」


うばほん!


草原のど真ん中に、対局するための和室(ただし壁は北方向と西方向にしかない)が現れた!!

本榧脚付将棋盤、ふかふかのザブトン、肘置きにおやつまで準備されてるぞ!


「では、お願いします」


棋士はザブトンに座って、頭を下げた。


スライムは戸惑っている!

何をしていいのかわからないので、とりあえずでっかいザブトンに乗っかって、小脇に置いてあるサルッゾ(マンドラゴラの根っこのフリッター)をつまんだ!!


「…え、ルール知らないの?うんとね、この王ってやつを守るんだけど…歩はこの縦線の上に一個しか並べられなくて、桂馬って言うんだけど、これは…」


将棋のルールが難しすぎて、スライムは全く理解ができない!


「うーん、じゃあ、将棋崩しでもやる?」


棋士は、触手を自由自在に伸ばせるスライムにあっさり負けた。


「君強いねえ…、この世界の将棋崩し王になれるよ」


ほめられたスライムは照れた!

嬉しくてもじもじしてたら波打った体表の粘液が飛んで、ぽちょんと棋士のほっぺたについた。


「ぎゃあああああああああああああ!!!」


猛毒が付着した棋士は絶命した。


スライムは証拠隠滅のために棋士を捕食したが、将棋のルールはおろか知略のカケラも拾得することができなかったという。


なお、草原のど真ん中に残された対局室は、魔力が暴走したダークメイジが放った火球に巻き込まれて燃え尽きた模様。



「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」


棋士は時間を巻き戻されて、コンビニの入り口前に立っていた。

コンビニの入り口のところで立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが…、それに気づく様子はない。


棋士はコンビニでアーモンドチョコレートとキャラメルを買って家路についた。


家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。


「こわ…、もうちょっと早く通りかかってたら来月の新人王戦、ヤバかった…」


棋士は、感想戦に重きを置く姿勢を貫き順当に段位をあげて後進の育成に力を注ぎ続けていたある日、孫に将棋を教えて対戦し未だかつて感じたことのない胸のざわめきを感じて将棋界に新しい風を吹かせる棋士になるに違いないと踏んだのですが、本人はチェスに興味津々でめきめきと頭角を現して世界大会で入賞し、インタビュアーに尊敬する人は誰ですかと聞かれておじいちゃんですと言ってもらえたことを誇りに思いながら80歳でこの世を去ったとのことです。

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