職業:内臓
坂田雄二は、ごく普通のくまである。
毎日ショッピングモールのイベントコーナーで子供たちに手を振り、毎日そろそろきつくなってきたなあと弱音を吐く、齢55のくまである。
今日も今日とて、新装開店のスーパーの入り口で愛嬌を振り撒いたあと、行きつけのコンビニでリラックスママのうちわとボケもんカードのスターターパックをワンパック買って家路についていた―――のだが。
キッィイ!!キ――――イイイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!
ぐわしゃぁああ!!
ぶちゅ。
真っ白な空間。
坂田雄二の魂と…、女神が対面している。
「坂田雄二さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます」
「はあ」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください」
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坂田雄二(55)
レベル18
称号:転生者
保有スキル:職業:内臓
HP:108
MP:50
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「というわけで、いきなり草原…空気が美味いなあ、癒されるわー」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が…くま(未装備状態)の前に現れた!
「スライム!すごい透明感だ!うーん、武器も何もないけど、戦うパターン??だがしかし…」
微妙にうろたえる、くま(未装備状態)。
「そうだ、そういえば保有スキルが…《職業:内臓》ってwww まあそうだけどwww」
うばほん!
草原のど真ん中に、やや目の虚ろなくまが現れた!!
スライムは突然目の前に現れた不思議な物体にソワソワしている!
くまはつられて動きたくなるようなダンスを踊り始めた!
微妙な縦揺れとおかしなステップ、絶妙に頑張ってる感を出しているキレの鈍いターン!
スライムは思わずつられてしまい、一緒に動き始めた!
草原のど真ん中に怪しい動きをする物体が二つ!!
その様子を空の上から見ていたガルーダが、子供たちへのお土産に良さそうだと判断して急降下し、鋭い爪でガッツリくまを捕らえた!
…うちゅっ!!
軽快にふるえるスライムの横で、なんかやな音がした!
くたっとしたくまは、ガルーダの巣に持ち帰られた。
ヒナたちにつつかれまくったくまはボロボロになって内蔵を引っ張り出され、三兄弟に仲良くついばまれた。
薄汚れたくまの皮はいつしか巣の一部になったという。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
くまは時間を巻き戻されて、コンビニの入り口に立っていた。
コンビニの入り口のところで立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが…、それに気づく様子はない。
くまはコンビニでリラックスママのうちわとボケもんカードのスターターパックをワンパック買って家路についた。
家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「うへえ、もうちょっと早く通りかかってたら明日のステージがショボくなるところだったよ!!」
くまは、体力の限界をひしひしと感じながらも己の気力を奮い立たせ内臓業に精を出していましたが、お得意の土下座ポーズを決めようとした瞬間に腰の痛みで身動きが取れなくなり、外皮をはがされて緊急搬送されたのち長期休養をすることになって引退を余儀なくされはしたものの、退院後はやけにキレがあるようになったくまの横でサポート役を勤め、78歳でこの世を去る三日前まで子どもたちの笑顔に囲まれていたとのことです。