これはいらないもの
秋田風馬は、ごく普通のミニマリストである。
毎日なにか捨てるものはないかと模索し、毎日余計なものを家に持ち込まないよう心がける、齢41のミニマリストである。
今日も今日とて、デスクが汚すぎる上司の横でこれ見よがしに丁寧にマイデスクを拭き上げたあと退社し、行きつけのコンビニでお局様からもらったペットボトルのゴミを捨てて家路につこうとしていた―――のだが。
キキイィイ!!キ――――!!!
ドガ――――――――――――ん!!
ぐわしゃぁああ!!
ぶちゅ。
真っ白な空間。
秋田風馬の魂と…、女神が対面している。
「秋田風馬さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます」
「はあ」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
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秋田風馬(41)
レベル29
称号:転生者
保有スキル:これはいらないもの
HP:22
MP:9
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「というわけで、いきなり草原…」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が…ミニマリストの前に現れた!
「スライム…いらないものとか消化しまくるという噂は本当なのだろうか」
あまりうろたえない、ミニマリスト。
「余計なものは何も持ち込んでない、保有スキルでなんとかするということか。《これはいらないもの》って…なにもないのに?」
うばほん!
ミニマリストの前に、大量の荷物が現れた!
足元にはカラの段ボール箱がふたつ、左のやつにはいるもの、右のやつにはいらないものと書いてある!
「コレを仕分けしろと…?」
ミニマリストは足元に転がっている小汚いボールを手に取り、右側の箱に入れようとした。
「…うん?なんか、見覚えのようなモノが…、はっ!」
ボールは、ミニマリストが幼い頃大切にしていたおばあちゃんから貰った誕生日プレゼントだった!
「ちょっとまて…ここにあるの、全部オレが捨ててきた…捨てさせられたものだ!」
スライムは自分そっちのけで夢中になってガラクタで遊んでいるミニマリストにビビって、草原をあとにした。
日が傾き始めた頃商人が通りかかり、買い取らせてくれないかと交渉したがミニマリストは聞く耳を持たなかった。
珍しい品物がどうしても欲しかった商人は、家宝の即死魔法のスクロールを使ってミニマリストを抹殺し、生涯裕福に暮らせる富を得たという。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
ミニマリストは時間を巻き戻されて、コンビニの入り口近くに立っていた。
コンビニの入り口近くで立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが…、それに気づく様子はない。
一般人はコンビニのゴミ箱にお局様からもらったペットボトルのゴミを捨てて家路についた。
家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「もうちょっと早く通りかかってたら、この要らないものだらけの世の中とおさらばしてたかもしれないな…」
ミニマリストは、モノのない生活をエンジョイしていましたが、年齢をかさねるうちに記憶が濁り始めて大切な思い出が思い出せなくなってしまい、写真や記念品が残っていればこんな事にはならなかったはずだと悔やんだりもしましたが、70を超えた頃に片っ端から忘れてやけに朗らかな性格になり、最後は意味もなく集めまくった丸めたティッシュに埋もれてこの世から旅立っていたのを発見されたとのことです。