これ使えそう!
嘉納いゆは、ごく普通のハンドメイド作家である。
毎日UVレジンを固め、毎日心をこめて作った品物を丁寧に梱包して発送する、齢26のハンドメイド作家である。
今日も今日とて、これは売れるに違いないと踏んで大量生産したピアスの閲覧数が伸びないことにがっかりしたあと、行きつけのコンビニで両面テープとスコーラを買って家路についていた―――のだが。
キィイイ!!キイ――――イイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!
ぐわしゃぁああ!!
ぶちゅ。
真っ白な空間。
嘉納いゆの魂と…、女神が対面している。
「嘉納いゆさん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます」
「は…」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください」
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嘉納いゆ(26)
レベル5
称号:転生者
保有スキル:これ使えそう!
HP:3
MP:29
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「というわけで、いきなり草原に放り出されてるよ、私っ!!…ねえ、ヤダっ!!」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が…ハンドメイド作家の前に現れた!
「ス、スライム?!武器も何もないのにー!」
うろたえる、ハンドメイド作家。
「あっ、保有スキルを試せばタスカルんでわっ!!《これ使えそう》って…もしかして、材料になるってこと?!」
うばほん!!
いつもハンドメイド作家が一日8時間座って制作に勤しんでいるデスクが現れた!
パーツ棚の中身はフル補充済み、使い慣れた機材もすべてそろっているぞ!
「確かに…、この目に鮮やか過ぎず見ているだけで心地よくなるようなちょうどイイ青み、向こう側が見通せる極上の透明度…ステキ!」
スライムは褒められて舞い上がっている!
「ワイヤーではなびらを作ったら…、キューブにカットしても…、モールドに流し込むだけで…、絶対に…売れる!!レジン液っぽいから固まる?アクリルパーツ化できないかな?」
スライムの身体がハンドメイド作家の希望通りに変化する!
スライム色のレジン液アクリルパーツ、スライム色のビーズにテグス、ルース、その他もろもろが棚に収納された!
ハンドメイド作家はスライムパーツを使ってアクセサリーを作り始めた!
「…あれー、なんか色うっす!思ってたのとちがーう!ショボくない?これじゃあ無料配布用のおまけにしかなんないよ、でもまあ…タダで手に入ったし、適当に使うかな」
カッチーン!!
自分がゴージャスな宝飾品になれることを信じていたスライムは激昂した!
スライムレジンにラメパウダーをぶち込んでまぜまぜしていたハンドメイド作家は、まる飲みされた。
草原に放置されていた作業デスクを見つけた原住民は、お宝の山だと歓喜し、レジン液を不老不死の薬に違いないと思い込んだ。
後年、とある部族が滅んだのだが、因果関係ははっきりしていないという。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
ハンドメイド作家は時間を巻き戻されて、コンビニの入り口前に立っていた。
コンビニの入り口前で立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが…、それに気づく様子はない。
ハンドメイド作家はコンビニで両面テープとスコーラを買って家路についた。
家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「やだなあ、もう少し早く通りかかってたら、200個のブローチが作り損になるとこだったじゃないの…」
ハンドメイド作家は、毎日精力的に作品作りに精を出していたものの、40を過ぎたあたりから手元を見るのがきつくなりはじめ、50になる頃には繊細で丁寧な作業を血反吐をはく思いで続けるよりも薄利多売の量産体制の方が楽だと考えるようになり、せっかく積み上げてきた信頼と実績を自らつぶしてしまったのですが、センスはそこそこよかったのでモノ作りに興味を持った孫娘とタッグを組み新しいブランドを立ち上げ、ボチボチ売り上げが出始めてパーツづくりに追われている最中、無理がたたって78歳でこの世を去ったという事です。