裸芸一筋
安芸秋吉は、ごく普通のコメディアンである。
毎日身体を張って仕事をし、毎日裸になってゆっくり薬湯に浸かり心身をねぎらう、齢44のコメディアンである。
今日も今日とて、ここ数年で仲間が倍増したことによる利点と問題についてSPPN組合の仲間たちと白熱した論議を重ねたあと、行きつけのコンビニでダメージ肌用化粧水と毛抜きを買って家路についていた―――のだが。
キイィイ!!キ――――イイイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!
ぐわしゃぁああ!!
ぶちゅ。
真っ白な空間。
安芸秋吉の魂と…、女神が対面している。
「安芸秋吉さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます」
「は…、あわわのすけっ!!」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
────────
安芸秋吉(44)
レベル59
称号:転生者
保有スキル:裸芸一筋
HP:100
MP:110
────────
「というわけで、いきなり草原に放り出されてみた件っ!!」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が…コメディアンの前に現れた!
「ひゅぉわぱっ?!すすすすらいむ!!マッタリとした粘液ではない固形タイプ?!」
うろたえる、コメディアン。
「これはどうするのが正解?!話し合う、魅せてみる、逃げ…いや、ここは保有スキルを…《裸芸一筋》って…って脱ぐんかい!!脱いだるわ!!」
二秒ですっぽんぽんになったコメディアンから…スライムは目が離せない!!
なんという堂々とした姿!!
神々しいのは、太陽を背にして股間あたりからその光が輝いているから…だけでは無い!!
「はい、それでは24億89万飛んで679人が見惚れた奇跡のショートコント…レッツ出しまるぅ☆彡」
~♪
どこからか軽快なミュージックが流れてきたぞ!!
「丸出しなのに○○シリーズ!!その1、色んなもんを丸出しにして丸く収まったワンシーン!」
「その2、丸出しだからこそ感動が際立つワンシーン!」
「その3、丸出しである事を一瞬忘れてしまう感動のワンシーン!」
コメディアンの渾身の裸芸に腹を抱えて笑い転げるスライム!!
30分に及ぶショートコントが終わり…おお、このSEはトークコーナーが始まるらしいぞ!
「いかがでしたか?ふんふん、芸もさることながら肌艶の良さに感動した?それはうれしい!!実はね、僕すごくいいボディクリーム使ってるの、ジョンキで売ってるやつにめっちゃ高い美容液混ぜてね…」
うばほん!!
コメディアンお手製の1リットル入り黒豆化粧水ボトルが出てきた!!
「これ、お客さんにプレゼント♡」
うわぁ~♡
いいもんもらったー!!
嬉しくなったスライムは、ス印のプルるん保湿液(スライム界の美容番長が製作した1ヶ月に60本しか製造されないウルトラ高級品)をプレゼントした!
「こんなすごいもの貰っていいの?!お礼の…人体モデルポーズ!!!…早速塗ってみよ♡」
じゅじゅ、じゅー!!
「ぎゃあああああああ!!!」
コメディアンは股間にふりかけた猛毒が全身に回って絶命した。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
コメディアンは時間を巻き戻されて、コンビニの入り口前に立っていた。
コンビニの入り口で立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが…、それに気づく様子はない。
コメディアンはコンビニでダメージ肌用化粧水と毛抜きを買って家路についた。
家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「誰か!救急車電話して!!くっ…がんばれ、もうちょっとで…助けが来るから!!」
コメディアンは、その芸風とは裏腹に実に人情と男気および優しさを兼ね備えていたため多くの仲間やファンに愛され続けましたが、老化のせいで自慢のツルッと出ちゃった芸ができなくなったことをきっかけに着衣でのメディア露出が増えはじめ、人柄の良さも相まって人気が爆増し、ルールを守ることだけが正解ではないのだと穏やかに説き、痛いところをつかれるとすぐに過去の動画を振りかざしてこんな露出狂に何がわかるとブチ切れる政治家たちを芸歴40年越えの磨かれまくった話術でいなし、荒れる政界を丸裸にして称賛を浴びたりしながら年を重ね、うっかり海水パンツをはき忘れてスポーツクラブのプールサイドに出てしまった年の暮れに88歳の生涯を閉じたという事です。




