面倒くさ~い
河津英恵は、ごく普通の干物女である。
毎日スマホでエッセイ漫画を読み、毎日伸ばしっぱなしになっている髪の毛を無造作にまとめてちょっとイイ感じに見えるよう細工する、齢36の干物女である。
今日も今日とて、仕事で大昔に彼氏と行った東京タワーに行ってあまりの変わり様に時の流れをひしひしと感じたあと、行きつけのコンビニでワンカップジャンボ10%増量とカワハギみりんを買って家路についていた―――のだが。
キイィイ!!キ――――イイイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!
ぐわしゃぁああ!!
ぶちゅ。
真っ白な空間。
河津英恵の魂と…、女神が対面している。
「河津英恵さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます」
「はあ」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
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河津英恵(36)
レベル22
称号:転生者
保有スキル:面倒くさ~い
HP:33
MP:26
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「…ハア~、めんどくさいことになったなあ、もう」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が…干物女の前に現れた!
「…で、どうしろと?」
あまりうろたえない、干物女。
「ジタバタしたところで、もらった保有スキルを使って何とかしろってパターンでしょ、どうせ…《面倒くさ~い?》ホントその通りだわ、ハァ~」
干物女のため息が草原に広がる!
スライムから襲いかからねばという意気込みが消え失せた!
「戦うなんてエネルギーの無駄だよね。無駄にガツガツするよりも、のんびりのほほんと暮らした方が幸せだし。どうせなるようにしかなんないよ、は~、どうしよっかな~、とりま寝て英気を養うか…」
干物女は、ローヒールを脱ぎ捨て、ストッキングを脱ぎ捨て、最近きつくなってきたスーツを脱ぎ捨て、圧迫感のない格好でだらしなく草原に寝そべった。
寒くもなく、暑くもない、ポカポカとした陽気が漂っている。
そう言えば…こういう大自然の中で寝そべったのなんて…初だなあ…、都会の世知辛さときたら…グウ……。
スライムは自分を目の前にして熟睡を始めた干物女を見て、猛烈な眠気に襲われた!
僕も…一緒にお昼寝しよ!!
ブクブクといびきをかきながら熟睡モードに入ったスライム。
見る見るうちに表面張力が無くなって…シャビシャビの液体状になっていくぞ!
じゅじゅ、じゅわー・・・
通常はス印の快眠壷で寝る事がほとんどであるスライムは、はっきり言って…寝相が悪い!
瞬く間に猛毒の体表がのどかな草原に広がり、強烈な酸で無残な姿に~!!
当然すぐ近くで熟睡していた干物女にも猛毒が浸透し、あっちゅー間に絶命した。
なお、深い眠りから目覚めたスライムは、捕食することなく貴重な肉を溶かしてしまった事に心底悔しがったという。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
干物女は時間を巻き戻されて、コンビニの入り口前に立っていた。
コンビニの入り口で立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが…、それに気づく様子はない。
干物女はコンビニでワンカップジャンボ10%増量とカワハギみりんを買って家路についた。
自宅アパートの近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「事故なんか起こしたらめんどくさいことこの上ないよね~、運転はしないのが一番、徒歩で移動が一番!」
干物女は、赴任してきた年下の上司の歓迎会で酒を飲み過ぎいわゆる一つの過ちを犯してしまったのち懐妊が発覚し、なんかめんどくさいことになっちゃったなあと思いつつも無事出産し、世話焼きの両親の助けを借りつつ仕事と育児を両立しながらめんどくさいことを言ってくる上司をいなしていましたが、緊急事態が起きた時に頼った事がきっかけで年下の旦那ができ、几帳面に育った息子や大らかに育った娘たちにかなり助けてもらいながらガッツリ働く日とバッチリだらける休日をバランスよく過ごしたのち、孫からもらった使い古しのジャージを5セット持ち込み入所した特養で大の字になって寝ているなと思ったら他界していたのを職員に発見されたという事です。




