無駄遣いすんなよ
川渕清人は、ごく普通の小金持ちである。
毎日無駄遣いをせず、毎日きっちり出納帳を記録する、齢51の小金持ちである。
今日も今日とて、募金を訴えている集団をスルーした後、行きつけのコンビニで30円で投げ売りされている賞味期限が今日までのヨレヨレのパスタの袋をふたつ買って家路についていた―――のだが。
キキー!!キュイ――――イイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!
ぐわしゃぁああ!!
ぶちゅ。
真っ白な空間。
川渕清人の魂と…、女神が対面している。
「川渕清人さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます」
「はあ」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください」
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川渕清人(51)
レベル41
称号:転生者
保有スキル:無駄遣いすんなよ
HP:29
MP:2
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「というわけで、いきなり草原に来たか…無駄にだだっ広いな…」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が…小金持ちの前に現れた!
「まじか…」
うろたえる、小金持ち。
「戦うにしても丸腰、何一つ武器になるようなものは…そうか、スキルで何とかするんだな…《無駄遣いすんなよ?》…ああ、無駄をついてそこから活路を見出せということか?ううむ…無駄、無駄…確かに無駄が多いな、そこをついていけば何とかなるはず??」
この洗練されたシンプルなスタイルを目の当たりにして…無駄を指摘するつもり…?
スライムは俄然小金持ちに興味を持った!!
なんか面白そう、よーし、コイツの言うとおりにしてみよ!
「うーん、無駄につやつやしているな」
スライムから光沢が消え、マット調になった!
「無駄にぶよついている…エネルギーがもったいない」
スライムはピタッと動きを止め静止した!
「そもそも…無駄にデカいな。もっと小さければ食料も少なくて済むはずなのに、食物連鎖を荒らす無駄飯食らいとか迷惑極まりない。もっと自重すればいいのに」
スライムは縮小しておむすびサイズになった!
「そのサイズならフナ虫やダンゴムシを食っても満足できるだろwww 燃費の良い身体になれたんだ、無駄に食い散らかさず慎ましく暮らしていってくれよな。…あばよ!」
なに勝手に人のメシを決定してくる?!
満腹度合いを想像で語るとはなんちゅー横暴!
無節操に捕食しまくっているみたいな決めつけはやめてもらおう!
こっちは使命に基づき与えられた役目を遂行するべく捕食をしているに過ぎない!
つかさあ、サラッと無難に退場にかかってんじゃねーよ!!
心底ムカついたたスライムは、小金持ちが後ろを向いて一歩踏み出したその瞬間…凄まじい拡張能力で薄さ0.1ミリに伸びてまるっと捕食した。
限界まで薄くなった状態で捕食したため、通常であれば観察できないような消化の様子がありありと透けて見え、あまりのおぞましさに不意に遭遇した者たちは皆恐れ戦いて逃げ出し、ちょっとした騒ぎになったらしい。
なお、後年、このスライムのおかげで謎に包まれていた生態の一部が明らかになり、画期的な消化薬の開発に多大なる貢献がもたらされたという。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
小金持ちは時間を巻き戻されて、コンビニの入り口前に立っていた。
コンビニの入り口で立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが…、それに気づく様子はない。
小金持ちは、コンビニで30円で投げ売りされている賞味期限が今日までのヨレヨレのパスタの袋をふたつを買って家路についた。
家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「車なんて無駄なもん買うからこういう事故が起きるんだよ、あーあー、撤収費用に修繕費…いくら無駄な金が飛んでいくんだかね」
小金持ちは、今はまだ時期じゃないからと判断して賃貸住宅に住み続け、貧乏になるのを恐れ溜め込んだお金を使えないまま年月を重ね、そろそろ頃合いだと完全バリアフリーの極小一戸建てを一括で購入したもののわずか二年で二階に上がる筋力を失ってしまい、狭いキッチンに布団を敷き寝起きしなければいけなくなって計画が狂ったと嘆くことが増え、悶々と暮らしていたある日悪夢を見て体をよじった際にテーブルを蹴り、使いかけのまま置いてあった小麦粉が落ちてきて頭からかぶって呼吸困難に陥り、激しくむせたことがきっかけとなって意識を失い、そのまま目を覚ますことなく78歳の生涯を終えたとのことです。
なお、生涯にわたり一度も募金をした事がなかったのですが、思いがけず遺産を受け取ることになった姪が叔父の名義で全財産をとある団体に寄付し、ちょっとしたニュースになったとのことです。




