しょうもない事すな!
黒瀬仁は、ごく普通の豪傑である。
毎日自分の思い通りに動かなかった仕事仲間に怒鳴り声をあげ、毎日やっちまったことはしょうがねえと気を取り直す、齢46の豪傑である。
今日も今日とて、怒鳴りつけたことをツルッと忘れて今度はいつ飲みに行く?と後輩に声をかけて退社したあと、行きつけのコンビニで大男焼酎のペットボトルを一本とニンニクのみそ漬けを買って家路についていた―――のだが。
キィイ!!キキ――――イイイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!
ぐわしゃぁああ!!
ぶちゅ。
真っ白な空間。
黒瀬仁の魂と…、女神が対面している。
「黒瀬仁さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます」
「あ゛ぁ?」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
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黒瀬仁(46)
レベル8
称号:転生者
保有スキル:しょうもない事すな!
HP:13
MP:8
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「というわけで、いきなり草原!!空気よすぎやろ!!!」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が…豪傑の前に現れた!
「スライム?!武器も何もないっちゅーに、何考えとんじゃほんまに!」
憤る、豪傑。
「保有スキル?《しょうもない事すな!》?!なんやわしの事バカにしとんかいな!!こんなん何もしとらんやつに向かって言う言葉やないやろ?!しょうもないことさせんなやっ!!」
スライムは一人で怒鳴り散らしている豪傑を見て、興味津々だ!
「あんさんもな、こんなとこでぶよぶよしとらんと草刈でもしたらどないですのん!どうせわしみたいに迷い込むやつはようけおるんやろ、そん中に優秀な人材だっておったはずやで?こんななんもないとこに放り出されては能力かて活かしきれへんがな!!ええか、まずは…」
豪傑は大人しく話を聞いているスライムに経営理念から人生論、男の生きざまその他もろもろを二時間半にわたり聞かせた。
「フー!ようけしゃべったわ!のどが乾いたな、あんさんちいと飲みもん持ってきてや!!まんだあと六時間はしゃべらんとアカンさかいにな!!ええか、先人の知恵っちゅーもんは大枚はたいてでも買えというてな…」
げえ!!
まだ続いてるー!!!
げっそりしてしまったスライムは、何やら地面にもぞもぞ図形を書くことに集中している豪傑をまる飲みにした。
「う、うーん???なんか夢でも見とったかいな??」
豪傑は時間を巻き戻されて、コンビニの入り口前に立っていた。
コンビニの入り口前で立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが…、それに気づく様子はない。
豪傑はコンビニで大男焼酎のペットボトルを一本とニンニクのみそ漬けを買って家路についた。
家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「うぅわ!!まあちょい早よう通りかかっておったら人生おわっとったがな!!なんや物騒やなホンマ気いつけなはれや!!」
豪傑はしょっちゅう職場で問題をおこし、あらゆる人間関係をささくれさせては退職するという迷惑行為をコンスタントに続けていましたが、ある時自分と似たような若者と出会ってコテンパンにされてしまい、抑えきれない怒りを爆発させて警察沙汰になり、服役中に知り合った僧侶の元に身を寄せてからは懐の大きな人物として慕われていたものの、若い頃に人生をつぶされた世捨て人に見つかってしまい、68歳の時に不慮の事故で命を落としたとのことです。