説明書
長田雄太郎は、ごく普通の町の電気屋である。
毎日日焼けで色が落ちた空気清浄機の箱にはたきをかけ、毎日ご近所に住む皆さんから気さくに声がかかる、齢46の町の電気屋である。
今日も今日とて、いきなりエアコンが動かなくなったと訴える三丁目の三栖さんのお宅にお邪魔してリモコンの電池を替えてあげた(無料)あと、行きつけのコンビニでコードステッカーとビニールテープを買って家路についていた―――のだが。
キイィイ!!キ――――イイイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!
ぐわしゃぁああ!!
ぶちゅ。
真っ白な空間。
長田雄太郎の魂と…、女神が対面している。
「長田雄太郎さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます」
「はあ」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
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長田雄太郎(46)
レベル38
称号:転生者
保有スキル:説明書
HP:38
MP:48
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「というわけで、いきなり草原に放り出されたー!すげえやっつけ仕事!!」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が…町の電気屋の前に現れた!
「おお…生きてるスライムだ!ドレンから出てくるまがいもんとちがって…やけにキレイだな…」
あまりうろたえない、町の電気屋。
「この状況を打破するには…もらった保有スキル《説明書》が有効なはずだが…どこにあるんだ??」
うばほん!!
スライムの説明書(人気ラノベの最終巻ぐらいの厚みがある)が出てきたぞ!!
「ふむふむ…このたびは天然スライムとのご対面有り難うございます?こちらの説明書を隅々までご覧いただき有効に活用していただくことを推奨しております…なおこの説明書を読んでいる間はスライムが行動制限されます、じっくりお読みになったうえで…って!!ちょっと待て、このぶ厚い説明書を全部読めと?!」
町の電気屋はうろたえている!!
「スライムの個体名:さらおかニュル太郎…特技はまる飲み、怖いものはお姉さんのお説教?!好きな食べ物は物質、苦手なものは特になし、確固たる自分を誇示するものを見ると興味津々になる癖がある、食用可だが全身を猛毒が覆っているため対応するスキルが求められる…」
スライムは事の次第を見守って?いるぞ!
食われるのかな?食えるのかな?もしかしたら仲良くなれるかも…ドキ、ドキ……。
「食っちまうのもなあ…、これは仲良くなるべきだな。ええと目次…意思の疎通をするためには…おお、9章を読めばいいのか。ま、途中の生い立ちや世界設定、今までの戦歴はカットでいいな。注意点のページは…なんだ、月並みなことしか書いてないじゃないか。Q&Aにも…物騒なことは載ってない…『素直な心で包み隠さず自己紹介をしましょう』か、よーし!」
あけすけに自己紹介した町の電気屋は、スライムと仲良くなった!
世間話をしながら近隣の町に案内してもらっている最中、スライムは野良ジャンボ魔ダンゴムシに蹴躓いて転んでしまった!
ぐしゃりと体型を崩したスライムは、うっかり体内に移動させておいた猛毒をこぼしてしまい…あとはまあ、案の定…。
町の電気屋はとろけていくさなか、時間がかかってもキッチリ最後まで説明書に目を通しておけばよかったと猛烈に反省したという。
なお、スライムの猛毒を完全に除去する方法は第28章にきちんと記載されている模様。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
町の電気屋は時間を巻き戻されて、コンビニの入り口前に立っていた。
コンビニの入り口で立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが…、それに気づく様子はない。
町の電気屋はコンビニでコードステッカーとビニールテープを買って家路についた。
自宅兼店舗の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「ちょ…!!!破片が入り口の自動ドアに!!!ヒビはいってんじゃん!!この前新調したばっかなのに!!」
町の電気屋は、車通りの多い交差点に立っているせいか定期的に店に車が突っ込むという悲劇に見舞われながらも近隣住民たちからフレンドリーで人情派かつフットワークの軽い施工を支持されて安定した経営を続け、父の背中を見て育った息子とともに笑顔のあふれる仕事を続けていたところ歩いて三分の場所の大型家電店ができて廃業を考え始めたりもしましたが、かかる声は止まず安定した経営を続け、工業高校に行った孫が三代目になるんだと宣言したことを嬉しく思いながら積極的に現場に向かい、88歳で転倒して意識を失い他界するまで現役であり続けたという事です。




