分裂
ビィドバテロイデム アシュードテヌランティスは、ごく普通の細菌である。
毎日研究者に観察され、毎日寒天培地の上で増殖する、齢8日の細菌である。
今日も今日とて、観測始まって以来一番の増殖をして研究者を驚かせたあと、行きつけのコンビニに大盛り唐揚げ弁当と甘酒を買いに行った助手を見送った―――のだが。
キイィイ!!キ――――イイイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!
ぐわしゃぁああ!!
ぶちゅ。
真っ白な空間。
ビィドバテロイデム アシュードテヌランティスの魂と…、女神が対面している。
「ビィドバテロイデム アシュードテヌランティスさん、あなたは気の毒ですが菌生を終えてしまいました。転生してもらいます」
「……」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
────────
ビィドバテロイデム アシュードテヌランティス(二名法)
レベル38
称号:転生菌
保有スキル:分裂
HP:3
MP:459
────────
「………」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が…細菌の前に現れた!
「…………」
うろたえない、細菌。
「……………!」
細菌は、肥沃な大地の上で猛烈に分裂を始めた!!
ひとつが二つに、ふたつが四つに、よっつが八つに…瞬く間に見るからにあやしい塊が盛り上がっていく!!!
なんかこれ…ヤバそうじゃない?
スライムは野生の勘で細菌の塊をまる飲みした!
みるみる膨れ上がっていくスライム!!
どうやらスライムの胃袋の中で、消化されるが早いか分裂するが早いかの戦いが繰り広げられている模様!!
ググ、グぉおおおお!!!
暴食の限りを尽くすスライム族の魂の鬼消化…、みせたらああああアアアア!!!
スライムはド根性で細菌を消化しきった!!!
その後、草原にはあらゆる抗菌薬が全く太刀打ちできない無敵の毒を持つ魔物がいるという噂でもちきりになったものの、みかんの汁を塗っておけば無毒化することが発見され人族はホッと胸をなでおろしたという。
「……。」
細菌は時間を巻き戻されて、コンビニに行こうとする助手の手元に戻った。
助手がコンビニに向かう前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが…、それに気づく様子はない。
細菌はコンビニで大盛り唐揚げ弁当と甘酒を買ってきた助手をシャーレの上で出迎えた。
研究室からほど近い場所にあるスクランブル式交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「・・・・・・。」
細菌は、シャーレのふたを持ち上げるほどに増殖して研究員たちを驚かせたりもしましたが、落雷による停電の影響で八割方ダメになってしまった細菌たちの無念を背負いつつ地道に分裂を続け、しっかり観察をしてもらったのち人体に有用な物質であることを証明し、食品や化粧品、衣類に土中、海中に混じって活躍していたものの、利権に絡んだ思惑に飲み込まれてなりを潜め、今は細々と小さな大学の研究室で進化の時を待ち構えているとのことです。




