張り替え
大石文雄は、ごく普通の板金屋である。
毎日年期の入った家屋の屋根に登り、毎日板金チャンネルのショート動画を更新する、齢51の板金屋である。
今日も今日とて、長持ちするからと言ってガルバリウムの屋根にしたのに穴が開いたじゃねえかというクレームを受けそりゃ31年もノーメンテならそうなるわと一言モノ申した後、行きつけのコンビニで板チョコと三角定規を買って家路についていた―――のだが。
キキー!!キュイ――――イイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!
ぐわしゃぁああ!!
ぶちゅ。
真っ白な空間。
大石文雄の魂と…、女神が対面している。
「大石文雄さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます」
「はあ」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください」
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大石文雄(51)
レベル21
称号:転生者
保有スキル:張り替え
HP:62
MP:32
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「というわけで、いきなり草原かよっ!」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が…板金屋の前に現れた!
「おお…本場のスライムっちゅーのはやけにこう…清潔感あんなあ。雨どいに詰まってる謎ゲルの方がよっぽど凶悪じゃね?戦うのか?武器も何もないけど…」
ちょびっとうろたえる、板金屋。
「そうか、保有スキルを使うんだな?《張り替え》って…ちょっと待て、どこを?!」
うばほん!!
なんと…スライムの寄宿舎があらわれた!!
屋上の笠木の一部がめくれ上がっている!
よく見るとコンクリート部分に亀裂が走っているぞ!
五階に住む住人が雨漏りに苦しんでいたのは…ここが原因のようだ!
板金屋は手際よく作業をすすめた!
サビついた笠木が撤去され、新しくなった!
板金の重なり部分にもしっかりシーリング材を塗り込めたから、横殴りの雨が降っても大丈夫だぞ!
作業を終えた板金屋は、屋上から地上を見下ろし、見守っていたスライムたちに声をかけた。
「作業完了しました~」
その瞬間。
びゅびゅ、びゅぉおおおおおお!!!
突風が吹いて、板金屋は五階建ての屋上部分から落下してしまった!!
「ぅわああ~!!!」
ヤバい!!
凄腕の職人さんのピンチ!!
スライムたちは身を挺して板金職人を受け止めた!
「ぎゃああああああああ!!!」
転落死を免れた板金屋は、猛毒を全身に浴びて絶命した。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
板金屋は時間を巻き戻されて、コンビニの入り口前に立っていた。
コンビニの入り口で立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが…、それに気づく様子はない。
板金屋は、コンビニで板チョコと三角定規を買って家路についた。
家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「うわ…もう少し早く通りかかってたら、ヤスんちの屋根直せなくなるとこだったじゃん!!」
板金屋は、一人親方として地域に密着した仕事中心にがんばっていましたが、建築会社に就職した息子のすすめでベテラン作業員として入社することを決め、若手に技術を伝授しつつ初めて取り組む作業にも真摯に取り組み、積極的に経験をつんだのち退職してのんびり暮らしていたところ巨大台風が近づき、屋根と窓を補強しようと梯子に上ったところ風にあおられて落下し、それが致命傷となって89歳の生涯を閉じたとのことです。




