ありがと、お兄ちゃん♡
佐藤沙恵は、ごく普通の妹である。
毎日お兄ちゃんに甘えて、毎日パパとママにそろそろお兄ちゃん離れしなさいよと呆れられる、齢16の妹である。
今日も今日とて、初めての有休を乙女ゲームのレベル上げに費やしてくれたお兄ちゃんにありがとうとお礼を言ったあと、行きつけのコンビニでヨーグルト味のパペコと生雪見豆大福を買って家路についていた―――のだが。
キイィイ!!キ――――イイイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!
ぐわしゃぁああ!!
ぶちゅ。
真っ白な空間。
佐藤沙恵の魂と…、女神が対面している。
「佐藤沙恵さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます」
「は??」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
────────
佐藤沙恵(16)
レベル3
称号:転生者
保有スキル:ありがと、お兄ちゃん♡
HP:10
MP:9
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「いきなり草原?!マジねーわ!!」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が…妹の前に現れた!
「ヤバっ!!スライムだ!!武器も何もないよ?!どうすんの?!」
うろたえる、妹。
「あっ!!保有スキルつかお!《ありがと、お兄ちゃん♡》??」
うばほん!!
妹のお兄ちゃんが出てきたぞ!!
「あれー??さえ、なにココ??…異世界?まじか~」
「お兄ちゃん!!ねえ、スライムがいるの、どうにかしてくれる?お願い、なんとかして!!お兄ちゃんならできる、大丈夫!!いっけえ―!お兄ちゃんファイヤー!!」
ぶぼわっ!!!
お兄ちゃんが青白い炎になってスライムに飛んでいった!!
じゅじゅばー!!
スライムに23のダメージ!!
スライムは怯んでいるぞ!!
「うそ?!お兄ちゃんが~!!《あ、ありがと?お兄ちゃん》、この犠牲は…
うばほん!!
妹のお兄ちゃんが出てきたぞ!!
「あれー??さえ、なにココ??…異世界?まじか~」
「お兄ちゃん?!また出てきた!!わかった、もしかしてこのスキル、何度でも呼べる系のやつ?!よーし!!お兄ちゃんアターック!!」
だどんっ!!
お兄ちゃんがスライムめがけて飛んでいった!!
ずべちょっ!!
スライムに23のダメージ!!
スライムは体表にめり込んだお兄ちゃんをぺろりと吸収した!
「ああアアアアア?!お兄ちゃんが~!!あ、次、つぎいってみよー!!《ありがと♡お兄ちゃん!!》」
うばほん!!
妹のお兄ちゃんが出てきたぞ!!
「あれー??さえ、なにココ??…異世界?まじか~」
「よーし、次はお兄ちゃんカッターだ!!いっけえー!!」
しゅぱあああ!!!
お兄ちゃんの手刀が炸裂!!
スライムに23のダメージ!!
スライムに23のダメージ!!
スライムに23のダメージ!!
スライムに23のダメージ!!
もう少しでスライムを倒せそうだ!
「よーし、追加お兄ちゃんだ!!《ありがと♡お兄ちゃ
ばたっ!!
妹は魔力枯渇で倒れた!!
同時にお兄ちゃんも消えた!
瀕死状態のスライムは力を振り絞って倒れている妹を捕食したのち、草原をあとにした。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
妹は時間を巻き戻されて、コンビニの入り口前に立っていた。
コンビニの入り口で立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが…、それに気づく様子はない。
妹はコンビニでヨーグルト味のパペコと生雪見豆大福を買って家路についた。
家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「ギャー!!血、めっちゃこわ!!お兄ちゃんに教えなきゃ!!」
妹は、特別頭もよくなければガッツリ鍛えているわけでもないごく普通の頼りないお兄ちゃんに甘やかされて育ったおかげでなかなか彼氏ができない時期もあったものの、優しいお姉ちゃんにかわいがられて育った人見知りなマッチョの男性と出会って意気投合し、親戚づきあいが活発な家庭を築いたのち兄を見送り、旦那を見送り、義姉を見送り、息子を見送り、娘と孫、甥に姪、大甥に大姪などに見送られて98歳の生涯を閉じたという事です。




