あたしのためにケンカしないで!
山崎綾瑠は、ごく普通のオタサーの姫である。
毎日ショボい男子に愛嬌を振り撒き、毎日みんなが好きだから一人なんて選べないよと涙をこぼす、齢19のオタサーの姫である。
今日も今日とて、サークルの飲み会でしこたまカルアミルクを飲んだあと、行きつけのコンビニでジャスミンティーと杏仁豆腐を買ってもらってタクシー待ちをしていた―――のだが。
キイィイ!!キ――――イイイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!
ぐわしゃぁああ!!
ぶちゅ。
真っ白な空間。
山崎綾瑠の魂と…、女神が対面している。
「山崎綾瑠さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます」
「え~?」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください」
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山崎綾瑠(19)
レベル38
称号:転生者
保有スキル:あたしのためにケンカしないで!
HP:59
MP:4
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「やっば!いきなり草原?!ちょっと…誰か来て!早く!うち、さみしーと死んじゃうんだからね!?」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が…オタサーの姫の前に現れた!
「キッモ!スライムじゃん?!」
ドン引きしている、オタサーの姫。
「そだ、保有スキル使えば助かるんじゃ!《あたしのためにケンカしないで!》って…もしかして誰か来てくれる系?あーん、みんなー!助けにきてー!」
うばほん!
スライムBが現れた!
スライムCが現れた!
スライムDが現れた!
スライムEが現れた!
「ウソ!キモっ!」
オメーキモいってよ!
オレ以外がキモイんだよ!
黙れキモスラ!
やんのかこんにゃろー!
あやるんのためにがんばっちゃうぞ!
ヌルっちょ!
ずべっぽ!
グチューグチュー!
ででろでろ…!
べっちょべちょ~!
スライムたちは愛しい姫を独り占めするべく己の力を振り絞りライバルを蹴落としにかかった!
飛び散る猛毒の粘液、迸るグロい体液!
しとしとと草原に降り注ぐのは…姫を我が物にするために寝食を共にし長年友情を深めてきたかけがえのない仲間と戦わねばならない宿命を憂いて自然とこぼれ落ちていく…貴い涙と鼻水、ヨダレだ!
びしゃ!
ぺしゃ!
びちょ!
オタサーの姫にあらゆる粘液が降り注ぐ!
猛毒の体表成分と体液は美しい涙で薄まっているので、いつものような殺傷能力はない!
だがしかし薄まっても猛毒は猛毒、コッテりヌルヌルじわじわとオタサーの姫が溶け始めた!
「うべっ…おえっ!キモ、クサ…、シビ、レ…、る…」
激しい戦いの末スライムCが勝ち残ったが、その頃にはオタサーの姫は半分溶けてキモくなってしまっていた。
あまりにも変貌したため、肋骨や内臓をシュワシュワさせている物体がオタサーの姫のなれの果てであることに気付けない!!
醜い争いを嫌った姫は、独り占めしようと暴走した僕たちを見限って…王子様を求めて一人さびしく旅立ってしまたんだね…。
ものすごい推理をして独り言ちたスライムCは、凄まじいニオイを放ちながらあわあわブクブクでろでろドロンドロンと蠢く不毛の地をあとにした。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
オタサーの姫は時間を巻き戻されて、コンビニの入り口前に立っていた。
コンビニの入り口で立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが…、それに気づく様子はない。
オタサーの姫は、コンビニでジャスミンティーと杏仁豆腐を買ってもらって、タクシーに乗り込んだ。
家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「きんもっ!!」
オタサーの姫は、学生時代にちやほやされる快感を十二分に堪能したあと、長い髪とキモイ縁、SNSの繋がりなどあらゆるものをバッサリ切り落として田舎に戻り、口下手で純朴な幼馴染と結婚して地味な生活を送ったのち、こんなクソ田舎で寿命を迎える気はさらさらないと啖呵を切った末の孫娘を笑顔で送り出した翌年入浴中に意識を失い、そのまま天に召されたとのことです。
なお、先にあの世に行っていた旦那が迎えに行くと複数の魂に囲まれていてなかなか感動の再会が叶わなかったとのことです。




