ワインコーディネーター
小野浦颯は、ごく普通のソムリエである。
毎日お客様にワインをおすすめし、毎日最新のワイン情報を求めてSNSをくまなくチェックする、齢45のソムリエである。
今日も今日とて、ワインは渋くて苦手なのとおっしゃったお客様にドロッケンベーレンアウスレーゲをおすすめしたあと、行きつけのコンビニで裂けるブルーチーズとクロテッドクリームを買って家路についていた―――のだが。
キイィイ!!キ――――イイイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!
ぐわしゃぁああ!!
ぶちゅ。
真っ白な空間。
小野浦颯の魂と…、女神が対面している。
「小野浦颯さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます」
「はあ」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください」
────────
小野浦颯(45)
レベル38
称号:転生者
保有スキル:ワインコーディネーター
HP:66
MP:52
────────
「というわけで、いきなり草原に放り出された、か…」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が…ソムリエの前に現れた!
「うっ!!す、スライム?!透き通ってはいるが…表面に細かい羽虫とかついてる!!地味にキモい…おええええ!!!」
うろたえまくる、ソムリエ。
「そ、そうだ保有スキルで何とかするべき…《ワインコーディネーター?!》もしや、お客様?!」
うばほん!!
ソムリエが働いているホテルのバーラウンジがあらわれた!!
格式高い場所に合わせて…スライムもふさわしい服装にチェンジしたぞ!!
ゴミひとつ浮いていない瑞々しい体表を包むのはバリバリーのスーツ、ほのかに香る品の良いチャンネルのナンバー4…紳士の品格が漂いまくりだ!!
「…いらっしゃいませ。今宵はひと時の贅沢な時間を貴方に。ソムリエの小野浦と申します。…お好みをうかがってもよろしいですか?」
スライムはワインを飲んだことがない!!
「それでは…まず口当たりのよろしいものをお出ししますね。炭酸は大丈夫ですか?ええ、シュワシュワしたものです。承知いたしました、ではこちら…ホワイト ジンファンデルでございます。ジューシーかつまろやかな風味が楽しめますよ。こちらご一緒にどうぞ、チーズケーキでございます」
ほわぁ~!
ちょっぴり甘くて炭酸の刺激が心地いい!
ちょっとハチミツっぽいニオイもする、これ子供の頃おばあちゃんちで食べた裏庭のヤブスキ(みかんの一種)の味がする!!
甘くてこってりしたチーズケーキと相性良すぎる!
幸せってこういうことかな、なんか胸がポカポカしてきた!
「では…こちらもお試しになりますか?ドンナ マルツィア…お肉と相性がよろしいですよ、こちらもご一緒にどうぞ」
きゅプ~!!
喉の奥がキュッとするけど、なんかおなかの中がポカポカでウフフな感じ!!
赤いお肉めっちゃおいしい、でもちょびっとしかない!!
もっと欲しい!!
「白ワインもお試しください。モンラッシェ…魚介類と相性が良いので、オマールエビのポワレを…
ッっか~♡
なんかウマすぎて美味すぎてぎゅふふ!!
ぐびーぐびー!!
もぐーもぐー!!
全然たんないエヘヘ目の前に旨そうなの立ってるじゃんがぶっとな!!
酔っぱらいはソムリエをつまみにしてロゼワイン赤ワイン白ワインのボトルを飲み干し、ご機嫌で草原を去った。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
ソムリエは時間を巻き戻されて、コンビニの入り口前に立っていた。
コンビニの入り口で立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが…、それに気づく様子はない。
ソムリエはコンビニで裂けるブルーチーズとクロテッドクリームを買って家路についた。
家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「うわ…ワイン色の…おぶっ、アカン…俺グロは無理…おええ…」
ソムリエは、瞬時にお客様を見分けてふさわしいワインをお出しする仕事に生きがいを感じていたのですが、ある時カネに物を言わせて無茶な飲み方をする若者に対面した事をきっかけに正しい嗜み方を伝えねばならないという使命感が芽生えSNSで豆知識を公開するようになり、日記がわりに毎日更新していたところしらぬ間に注目を集めていろんなところから声がかかり始め、いつしかワインと言えばこの人に聞けば間違いなしという太鼓判を押されて、89歳でいきなり倒れて他界するまで現役として大活躍したとのことです。




