クリームクレームクレーマー!
鈴岡義正は、ごく普通のクレーマーである。
毎日商品の粗探しをし、毎日気が済むまで憎悪の念を叩きつける、齢36のクレーマーである。
今日も今日とて、処分品コーナーにあった10円のステッカーが値下げされてなかったと量販店のレジのおねえちゃんを怒鳴りつけてスッキリしたあと、行きつけのコンビニでつまようじと50円になっていた三番くじのF賞を買って家路についていた―――のだが。
キイィイ!!キ――――イイィイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!
ぐわしゃぁああ!!
ぶちゅ。
真っ白な空間。
鈴岡義正の魂と…、女神が対面している。
「鈴岡義正さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます」
「はあ?」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
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鈴岡義正(36)
レベル35
称号:転生者
保有スキル:クリームクレームクレーマー!
HP:3
MP:86
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「というわけで、いきなり草原に放り出す?!どこのどいつだ、責任者を出せ!!今すぐに!!」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が…クレーマーの前に現れた!
「スライム?!こっちは武器も何もないってのに、理不尽すぎるだろう!ふざけんなっ!一方的に勝ちに来ているだろうがっ!!自分に有利な展開でしか戦えないくせに!!こんなシステムがあっていいわけないだろうがアアアアア!!!」
怒りに震える、クレーマー。
「くそっ、保有スキル…《クリームクレームクレーマー!》?!ダジャレで戦えると思ってんのか!!バカか!」
スライムは吠え散らかすクレーマーを見て、なんだコイツは…と思っている!
「そもそも安直スギんだよ!!初期設定もできてないくせにでかいことをやろうとするからこうなるんだ!あったまわりいな!!人様に不愉快な思いをさせて何様のつもりだ!!人ってのは限られた時間を生きてんだよ!!その貴重な時間をお前みてえなクソに割いてやらなきゃいけないこっちの身にもなれよ!今すぐ死ねよ、死んで詫びろよ!!」
スライムは、何もしてないのにどうして詫びなきゃいけないんだろうと思っている。
「クッソぉおお!!!なんで俺ばっかりいっつも貧乏くじを引かされんだよ!!予約してたマグカップには傷がついてるし安いと思って買ったTシャツには穴が開いてるし美味そうだと思って買ったコラボスナックはクソマズいし朝一で並んでもイベントの参加券の抽選ではずれるし握手会の順番が回ってきたと思ったら目の前でマネージャーが倒れて一ミリも触れずにイベントが中止になるし同人誌を買ってみれば落丁してるわ電子レンジを買えば動かないわ…こっちが黙って聞いてりゃ図に乗ってご理解くださいとかぬかしやがる!!俺だけが煮え湯を飲まされるクソ世界っ!!!あーあー!!マジ消えて無くなれよっ!!!だいたい…」
スライムはこの世界はわりかし過ごしやすい世界だと思っている!
たぶんこの世界が消えたら、めっちゃたくさんの存在が悲しむことは必至!
じゃあ、この世界が気に食わない人が一人消えた方が良くない?
スライムはクレーマーをまる飲みした。
一瞬胃袋の中が騒がしくなったが、気のせいだったようだ。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
クレーマーは時間を巻き戻されて、コンビニの入り口に立っていた。
コンビニの入り口で立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが…、それに気づく様子はない。
クレーマーはコンビニで行きつけのコンビニでつまようじと50円になっていた三番くじのF賞を買って家路についた。
家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「おいおいオイオイ…トラウマもんの事故現場見せるとか、ふざけんなよ?!俺が恐怖で眠れなくなったら誰が責任取んだよ!!」
クレーマーは、常にイライラしながら怒りを他人にぶつけていましたが、ある時何を言ってもニコニコしている不気味な女に出会いなにかと付きまとわれはじめ、こいつとなら一緒にいてやってもいいかと思って結婚したとたんに体調を崩し、体力が落ちて何も言えなくなった頃から罵詈雑言を浴びせられるようになり、ろくに世話もしてもらえないながらもすんでのところで助かるような日々を過ごしていたある日、うっかり足を滑らせ起き上がれなくなったのに嫁が実家に帰っていたせいで助けてもらえず、三日三晩苦しみ抜いたのちようやくこの憎たらしい世界と決別することができたとのことです。