へいへいぼんぼん
住谷久は、ごく普通の一般人である。
毎日スケジュールに合わせて起床し、毎日変わり映えのしない穏やかな日常を送る、齢36の一般人である。
今日も今日とて、面倒な客がいなかったから定時で上がれたことを喜びつつ、行きつけのコンビニで30円引きになっていたカレーパンと一番安いお茶を買って家路についていた―――のだが。
キイィイ!!キ――――イイイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!
ぐわしゃぁああ!!
ぶちゅ。
真っ白な空間。
住谷久の魂と…、女神が対面している。
「住谷久さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます」
「はあ」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
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住谷久(36)
レベル8
称号:転生者
保有スキル:へいへいぼんぼん
HP:32
MP:4
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「というわけで、いきなり草原に放り出されてしまった…なに、この展開」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が…一般人の前に現れた!
「スライム?!武器も何もないんだぞこっちは、平凡な市民に立ち向かえるわけないだろ!」
うろたえる、一般人。
「はっ、保有スキル!これを試せばなんとかなる?!《へいへいぼんぼん》って…それ、技?!ただの特徴じゃん…マジ詰んだ…」
スライムはうろたえる一般人を見て、ごく普通にぶよぶよしてみせた。
「…?何もしてこない?もしかして、悪いスライムじゃ、ない…?」
一般人はおそるおそるスライムを観察した。
スライムはぶよぶよしているだけで、襲ってはこないようだ。
「というか、普通…スライムってゲームスタート時の雑魚キャラだよな。弱っちいからぶよぶよする事しかできないわけで…」
スライムはなんか風向きが変わったぞと思ったが、とりあえず様子を見ることにした。
「せっかく異世界に来たんだし、ちょっとは戦ってみるか!勝てたら儲けもん、レベルが上がれば新たな力に目覚めるかもしれん!」
一般人は足元の小石を投げつけた!
べちょっ!!
スライムに1のダメージ!!
「おお!!効いてるぞ!!よし、この調子で…」
なんだコイツは!
ショボい一般人の癖に勇者にでもなったつもりか!
怒りに満ちたスライムは一般人を一口で捕食した。
一般人はごく普通の代わり映えしない味だったという。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
一般人は時間を巻き戻されて、コンビニの入り口前に立っていた。
コンビニの入り口で立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが…、それに気づく様子はない。
一般人はコンビニで30円引きになっていたカレーパンと一番安いお茶を買って家路についた。
家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「うわ〜、もうちょっと早く通りかかってたら人生詰んでた、縁起悪…」
一般人は、ごく普通にモテない日々を過ごしながらありがちなグチを若者に聞かせては敬遠されましたが、なんだかんだ言いながらもぼちぼちまじめに仕事を続け、それなりに出世したのち定年を迎え、退職金でFXに手を出しすっからかんになったものの、慎ましく年金生活を送り79歳でこの世を去ったそうです。
転生してみたい人がいらっしゃったら
お名前&お仕事を教えて下さいな(*´−`)