05 わが道を行く理事長
楓がノックをして数秒後ドアが開く、扉の向こう側にはドアを開けた人は見えずに大きな窓の前にあるまた高そうな机に座る男性が一人。楓が「失礼します」と軽く会釈をしてドアをくぐり、男性は笑顔で楓を迎えてくれた。
机にある数個のボタンが付ていて其れがドアをボタン一つで開閉できる自動ドアだろう、男性がボタンを押すと楓の後ろにあるドアが勝手に閉まっていった。
「よくきたね、待っていたよ、ようこそ鳳凰学園へ」
「初めまして、新井 楓です。よろしくお願いします」
根拠なく理事長を年配だと想像していた楓は内心少々驚いた、それほど年をとっている風貌ではない。
三十代後半の穏やかな雰囲気が似合う男性が椅子から立ち上がって楓に歩み寄る。
足が長くてスラリとしていて、上から下まで高級ブランドのスーツを着こなす様はいかにもやり手って感じが漂い、ミセスおばちゃんが酔狂しそうな男が楓に手を差し伸べた。
楓も握手に答えて…友好…をしめ…ん?お尻に感触が…。
そっと見てみると理事長の空いている方の手が私のヒップを撫でていた。
「――……あの止めてもらえません?」
「ん?あれ?いつの間に!」
おいおい無心で撫でていたのかい!?大阪の芸人がしそうなツッコミを心で決める。
「ごめんね、悪気はなかったんだよ。聞かん坊な手だね、メッ!」
私のお尻を撫でていた自分の手に向かって、叱る。楓は正直この人馬鹿じゃないのだろうか?と…いや、実績と伝統のある名門の理事長が馬鹿で勤まるはずないだろうが。だって、ねえ?
「いえ、きにしてませんから」
顔を引き締めて、それでも一応私は社交辞令に。理事長がどんな人であれ私の日常生活にそこまで関わる人ではないので適当に流そう。
これが電車の痴漢なら一発、いや腹に二発はお見舞いしてやる。
「では、改めて。ここ、鳳凰学園の理事長を務める加藤 慶よろしく☆ね!色男さん」
なにが☆だ!いい年こいて!!と心で毒つきつつ再び握手を交わす。
「こちらこそお世話になります。理事―…加藤?」
「うん、加藤」
楓は加藤理事長の顔をマジマジと見つめた、加藤理事長は相変わらずニコニコとして、その顔をと先ほどの生意気な子供の顔が重なった。確か彼も加藤と名乗ったはず。
「不躾で申し訳ありませんが、お子さんがいらっしゃいますか?」
「?いるよ。可愛い一人息子が一人。ここの一年生だから面倒みてあげてね」
ビンゴ、やっぱりあの子の親か。我が道を行くのは血か?
「やはりそうでしたか、凪史君には先ほどお世話になりました。此処まで案内してもらったんです」
「凪史が…?」
私の言葉に一瞬意外そうな顔をして数秒私の顔を見る。そして納得した顔をして笑う。
しかもその笑みはイタズラを思いついた風な顔で益々息子の凪史にそっくり、凪史はお父さん似な。
「珍しい、あの子が人のために行動するなんて、気に入られたんだ。まぁ君は凪史の好みそうなタイプだし☆」
ウインクつきの笑顔で理事長は自己完結して私に言った。
(なにがだ…?)
内心目の前のナイスなおじ様に問う。理事長は机の方に戻り。
「こっちへおいで」
理事長は楓を大きな窓の前に置いてある黒光りしている高そうな机の前まで、楓は移動して机に座った理事長に向かい合うように机の前に立ち止まった。
「はい、これ。君のIDカード。ここでは学生手帳のかわりの身分証明にカードを使うから絶対に無くさないように。君の個人データが入っている、だから不用意に他人に貸すのも禁止、そしてこの学園内で生活していく為にクレジットカードの変わりの役割も担っている。カード自体がお金だと思ってきちんと管理しなさい」
スッと机の上に銀色のカードを差し出されて、楓は丁寧な動作で其れを受け取った。カードの表には私のID番号と私の男になった顔が印刷されていた。素直に私は頭を下げて。
「ありがとうございます」
と礼を言った。
「此処の生活の詳しくは寮の寮長か君のルームメイトの子に教わるといい。授業に関しては担任の教師に聞くように。そうそう、また人に案内させるのはいやだろう……」
理事長は机の引き出しから学園のパンフレットを出して楓に渡す。パンフの中を数枚めくると学園の全体図が載った地図を指差した。
「現在地である理事長室は此処で……学生寮はここ、入ってすぐに受付があるから学生寮の学長に面会しなさい」
なんだ、ちゃんと理事長らしいことできるじゃん。いや感心することではないのだけど。
しかしこのパンフ、ぶっ厚いな…パンフの名前を借りたカタログだぜ。でも用意してくれたのは感謝、もう迷わなくて良いのは頼もしい。助かる。
「では、新井君。君がこの学園で尊き時間と学びを得ることを心から願う、充実した学園生活を送れるように努力しなさい」
今までの優しい顔をひそめて真面目な顔で楓に伝えてくる、きっとこれは理事長としての台詞でもなく、加藤 慶の真摯な言葉なのだろう。だから私も気持ちよく。
「ありがとうございます、お世話になりました。失礼します」
厳粛な心持でお辞儀をしてお行儀よくドアを開けて閉める。楓がドアを閉めた瞬間。理事長はクスクス笑って愛嬌のある顔でチャオと手を振った、これから面白くなりそうだと心で呟きながら。
楓は廊下を歩くだけなのに背筋に寒いものが走る。
籠に入ったファーロウだけが否応無く、波乱な学校生活になりそうだと予測していたが、当人の楓は何も考えずに廊下を歩く。
ドンドン迷走していきます。