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39 流れる電流

 



 朝の食事を終えて釣堀へ移動、移動っても凪史の別荘と名ばかりの館がある山の中だったから短時間で目的地に到着。


 裏山は凪史の家の所有地だって、別荘地って土地高いのよ?知ってる?


 渓流までしっかりとした道路が整備されていたのも手伝ってか、とっても快適な移動でした。


 釣堀に行くと、加藤家の使用人が数人テキパキと釣りの用意をしている。


 至れり尽くせりってこのことだね、私がな~んもしてないのに既にスタンバイオッケーな状態だ。


 当然川は清流が流れて、自然の渓流を少しだけ人間が手を加え魚が逃げないようにしてある。


 自然の岩に見せて、網やら囲いが岩と岩の間から見えた。


 きっとこの中に魚を放したんだろう、私たちがボウズで帰らないように。


 川の水に手をつけてみたら、すっごく冷たかった。原罪の霧の気配がなかったらファーロウもきっと楽しめたのだろうに、残念。


 これから本格的な夏になるのが嘘みたいに、清流で涼められた風が楓の髪を遊び去っていく。


 私の横に居たヒバリが私に竿を渡してくれて、餌を差し出した。


 「はい、餌はつけられる?」

 「サンキュー……キモイな…」


 ヒバリが渡してきたのは器にタップリ入っている柳虫やなぎむし、芋虫のようなヤツで結構女の子にはグロイ虫だ。


 「無理ならイクラでも大丈夫だよ。ただお勧めはこっち」

 「大丈夫、でも江湖にはキツイなこれは」


 指先で摘んで針に仕掛ける。私とヒバリはちょっと影になるポイントを選んで、ハンスと江湖と大田は数メートル離れた場所のポイントに決めたらしい。


 大田がもってきた餌を江湖ちゃんは案の定、顔を青くさせている。是非ともお寿司の定番メニューのイクラの方にしようね君は。


 でも、こんな外見をして柳虫は食用、このんで食べる勇気は私にはない。これを食べている人には悪いけど。


 味が想像できないな、意外に美味しいのかも。残念な事に外見がこれじゃ私の食欲は極限状態でないとわかない。


 とにかく、大きさは餌としては手頃な形で切断する手間はなかった。現在は男でも私の9割を造形した女の部分が流石に悲鳴をあげちゃうぞ。


 そして、私達の獲物はヤマメとニジマス。挑戦する魚は初心者でも大丈夫な釣堀、さあ舞台は整った!!これで勝てなきゃ釣り経験者の名が廃るぜ!!


 って程、釣りやってないんだけどね。


 私たちはニジマス、凪史はヤマメを釣るのでちょっち離れた場所にいる。姿は簡単に見つかるので何かあっても大丈夫って言う前に、彼の使用人が総出で何とかするでしょうが。


 餌をつけた糸を川に入れると、魚と根気比べ。特別な技術は必要としない、適当に餌がついているかを確かめて魚がいそうな場所に餌をもっていくだけ。


 あっ凪史!おまッ!!上手いな、もうヤマメ一匹ゲットしてるよ~こんちくしょう。


 ま~嬉しそうな顔しちゃって、早速焼けって注文している。負けてられん。


 釣りを提案したのは凪史だから、当の本人は釣りの上級者かと思っていたけど、あまり手際がよくない。


 やってみたかったのかな?以前に馬來先輩から無事に江湖ちゃんの奪われていた白連を取り戻した日、ちらっと家族の中みたいなのを凪史が溢していた。


 その家族関係を聞くと、家族サービス的な事はやってないように思える。凪史の父親の理事長がどの位忙しいのか予想もできないが、多分余り構ってやれないかと。

 

 そして理由がないと、凪史は釣りをしようとか言い出ださなそう。


 外見にそぐわず、甘えるのへたそうだよね凪史。私なんて甘えっぱなしだったのになぁ凪史くらいの頃は。


 一生懸命な凪史と江湖ちゃんを眺めて、1人ほのぼのとしていた楓はヒバリとの雑談の間、ヒバリが用事で席を外すと当然楓は静かに釣り糸を見つめて、思いにふける。


 江湖ちゃんがはしゃいで、ハンスと一緒に笑い声が微かに聞こえてくる。


 ちょっと世界が自分の一点集中で狭くなる感じ。よく面白い本を夢中で読んで本の世界へ没頭し、時間が分からなくなる経験あると思う。


 まさに今ソレの状態、頭の中で少ない情報を整理していく。


 釣りは心行くまで楽しみたい、でも原罪の霧関係の事件を解決できるのは私を含めて数少ない。


 残念に思いつつも、思考の海へ飛び込んでいく。


 ここ付近で誘拐事件があって、恐らく「原罪の霧」に憑かれた者が女性二人を攫った。


 霧の気配も数回だけよく分からないが、ファーロウと同様に私も存在を感じた。


 その先に乗馬クラブのお手伝いをしている関さんが居て、彼は何かを皆に隠しているらしい。これは私の勘で証拠はないけど。

 

 彼に不審な点が一つ確実にある、毎晩になると秋里さんに賄い料理を受け取りに来るのだ、しかも怪しく2人分くらいの量を。


 余りにも、僕が犯人ですの状況。しかし、安易過ぎる気もする。


 彼は「原罪の霧」にとり憑かれた候補であって、確定していると断言してもいいのだろうか?


 女性を2人誘拐したとして、何処へ連れて行っているのだろうか……。


 分からない事だらけ……。


 私の頭の中でじわじわと何かが溢れてくる。あっ勘が鋭くなる感覚、しかもこれは馬來先輩の時以来の強さ。


 意外な発見、私は深く勘を研ぎ澄ませるには水との相性がいいのかも。


 楓は顔を上げて周囲を見る、攫われた女性は何処にいる?名前は波木 千奈美と栗栖 紗枝だ、漠然とした質問ではないはず。


 心の何処か、もしくは頭の隅で囁く声。甘く、切なくなる小さな声が。


 此方にいる―――と。


 竿を置いて、立ち上がる。サワサワと頭上の木々が私を誘っているように思えた。


 体調を崩しいなくなった江湖を探し出した時のように、見えない道しるべが私を導く、迷いなどない。彼女達は近くにいる。


 音もなく、フラッと楓は歩き出して皆が気付かないように釣堀から離れ、車が数台ほど駐車している広場にひきつけられるように足を進めた。


 何があるわけでもなく、ある一点が奇妙なほどにひきつけられる。木々が生い茂り、歩きずらそうなやぶを進めと誘われ。


 背丈の高くなった草をのけてみると、微かに不自然な地面に気付く。


 もしかして……踏み均されている?獣道か?でも。


 山に生息する野生の動物が、何代も掛けて踏み均した獣道らしき道がうっすらとあった。木々が日を遮り、昼間なのに道の先は薄暗く少しだけ不気味。


 これが本物の獣道ならば、どうして中途半端で道が途切れているのだろう。水のみ場として、釣堀の魚を狙っているにしても草木で入り口を隠すような事をする必要があるのだろうか?


 生物学者でもないから、詳しくは分からないのだけど。違うと思う。

 

 そして私の勘はとことん当たるのを、実感しているから多分そう。


 ならば、これは人間が意図的作っている道と仮定したなら道が結構きれい。


 放置していると獣道なんかあっという間に、草に覆われて意味がなくなる。つまりは最近まで確実に誰かが使っているって事。


 (入ってみようかな?古くから虎穴に入らずば虎子を得ずっていうし)


 何て考えているけど、もう私は入る気満々!みなぎってきたぜ!女子の2人の安否を確認したら人を呼んで救助しよう。


 私1人で犯人捕まえーの、誘拐された女性二人助けーの……なんつー映画みたない真似できるわけない。


 拳銃の一つくらい持たせてもらえるなら考えるが、ここは日本。残念でした。


 かつて人生で一度も必要だと思わなかった拳銃が現在、切実に欲しいっス。


 あ~怖い、でも警察にここに道があります。誘拐犯が被害者を閉じ込めている場所に続く道です。


 で、お巡りさんに。


 そうかい?協力ありがとう。ってあしらわれて、はい断念☆……が落ちだよね!


 楓はズボンのポケットに入れてある携帯を、ズボンの上から感触を確かめる。


 電波は怪しい、でも携帯のカメラで映像を残せば証拠にはなる。これは電波関係なく使えるから大丈夫だろう。


 「よし」


 気合を入れて、未知なる世界へ足を踏み入れた。


 やっぱり数分あるくと、大きくなるのを競っている木々が日を遮る上に背の高い草がホラー的な怖さを演出。


 私は結構、ホラー好きよ?その点は問題なし。ズンズン奥へ進んじゃう。


 一本道を進む事、五分くらい1人でただ獣道を歩くと。


 「新井さま!」


 後ろから突然声を掛けられた。


 私はビックリしてオーバーリアクションで後ろに振り向く。


 いたのは秋里さんだった。心配そうな顔をして駆け足で私に近づく。


 「いけませんよ、森の中には虫がいっぱい出ます。それに熊やサルや野犬なんかが出てきたらどうするんですか?」


 まっずいな、変な所みられちゃった。このまま秋里さんと奥へ進むのは得策じゃない。


 一生懸命になって私を止める秋里さんに笑い、謝る。


 「すみません、獣道をみつけちゃって好奇心で歩いていたら止まらなくなってしまいました」

 「駄目ですよ!とっても危険です」


 はい、承知の上でした。此処は素直に引き返したほうがよろしい波になってきた。帰ったらファーロウに報告しておこう。


 「ごめんなさい、戻ります」


 楓が申し訳なさそうに、ニッコリ笑うと。秋里は少し頬を染めて視線を逸らした。


 「もう、そんなので誤魔化されません」

 

 怒った顔も美人は得だな。女は怒った顔が一番きれいっていう男もいるのも頷ける。


 私達は来た道を戻りつつ、無言で歩くのもなんだから秋里さんと喋っていく。


 「しかし、秋里さんは大変ですね。全員分の食事から俺達の面倒までやっているのですから」

 

 私たちは未成年だから、成人している人からすれば保護対象かも。


 「いいえ、楽しく働かせてもらっていますよ?苦に思った事はありません」


 疲れも、面倒さも微塵も出さず笑い楓に答えた。


 「尊敬します、その上に鳳凰学園のシェフと同じくらい料理が上手なんですもん」

 「新井さま、それは褒めすぎです」


 楓の言葉に、秋里は照れてしまう。本心で言っているので楓自身は謙遜だな、なんて思ってしまう。


 「でも、本当に料理はお上手です。関さんが秋里さんの料理を毎日夜に貰いに行くのも頷けますよ」


 これは関さんに関する情報を、少しでも欲しいから会話に混ぜてみる。未だに私の中で不審者ナンバーワンの関さんなんで、ちょっとでも手がかりがないかな。


 「新井さまったら本当にお上手なんですから……そう言えば、関さんは…この山に度々夜中になると訪れるんですよね…」


 不思議そうな顔をして、頭を捻る秋里さんに私は内心。


 うっしゃ!!犯人確定!!関さん…いや、関!!てめーの悪行裁いたるぅぅ!!


 って叫んでいた。


 ああ、やったね。これで事件は解決したも同然、後はファーロウと一緒に関の後を尾行して証拠を掴めばいい。


 ―――――本当に、関が犯人?あれ?確信しているのに、おかしい私の勘が違うって…気のせいだよね。これだけ条件が揃っているのに。


 犯人を特定できた喜びに水を差すような、否定をする私の勘に戸惑う。


 何処まで実体のない勘を、行動条件として優先したらいいのか?勘なんて所詮は勘だもん。


 ので秋里さんが何を言っているのか私には、半分しか聞いていなくて曖昧な返事を返すだけだった。


 「だから私毎日が充実しているのです。素敵なものと人に囲まれて毎日が幸せで満ちてます」


 自分の勘を検討していた私が、秋里さんの会話が若干おかしくてテンションが上がっているのに今気がつく。


 数秒の間に、何が起きた?秋里さんの顔はキラキラして赤くなっている。……もしかしてこれ秋里さんの告白フラグ?え?2人っきりだから?っちょっと待って!ストップ秋里さん!!


 ワトスン君落ち着こう、何もそうと決まったわけじゃない。


 「新井さまに出会ったのも、きっと運命なんです。私……貴方にお会いした時の胸の衝撃を忘れられません」


 ワトスン君、告白フラグ完全にたったようだ。落ち着くのも此処までのようだ。


 助けてホームズ先生!!!


 「あの…秋里さん…落ち着いてください、俺っまだ未成年ですよ?」


 秋里さんが頬を染めながら、私に抱きついてきた。私のぺちゃんこになった胸に頬を寄せて私を抱きしめる。


 パネェくらいヤベ!!……って瀬尾のチャラ男バージョンが私にとり憑いた!!?不覚!!


 誰か何とかしてくれーー!!私は女、男として秋里さんを受け止めきれないのです!


 「大丈夫です、私が貴方の面倒をみます」

 「俺はヒモになる人生計画はありません!!」


 私は秋里さんの両肩を掴んで、引き離そうとしたが。


 お腹に当たる金属の感触に下を見たら、秋里さんが私のお腹にスタンガンを押し付けていた。


 「あの子達と一緒にね」


 一瞬で秋里さんの目が、原罪の霧に憑かれた馬來先輩と同様に不快感をもたらし、逃げようとする体よりも早く。


 お腹にあるスタンガンが発光した。


 「……ッ!!!?」


 そして声にもならない激痛に体がしびれ、足から力が抜けて重力に従い体が地面に引き寄せられた。


 秋里が屈みこみ、地面に楓の頭を打たないように秋里が支えて、そっと地面に体を横たえた。


 楓はかつてない程の痛みに、瞼の裏がスパークして全く動けない。


 如何にかして状況を打破しないといけない、気は焦るのに体は言う事を聞かない。


 ---冗談じゃないぞ!!!クソが!!!!動けぇぇ!!動けってばぁぁ!!!!


 心は罵詈罵倒を繰り返しても、肝心の体が脳の神経と切り離されたように痛みのショックで、麻痺を繰り返すだけ。


 ぼやけた視界に、秋里が何かをガーゼに染みこませている。栄養ドリンクほどの大きさの薬品が入ったビンには「ジエチルエーテル」の文字。


 「暴れないでね、男の子は力が強いから難しいな。これ昔は手術に使ってた麻酔の一種なんだ。今は燃えやすいから使ってないけど」


 まるで、鼻歌を歌うような声で楓にガーゼを押し当てた。


 「吸いすぎると死んじゃうから、早く気を失って。大丈夫、君達を僕は傷つけないから」


 体が動けたら、私の拳がボロボロになっても、コイツが気を失うほど殴ったものを。麻痺する体に喝を入れて渾身の力でせめて睨みつける。


 そんな楓を秋里は、ウットリとして頬を撫でた。

 

 できる事なら唾を吐いてやりたい、しかし確実に眠気が楓を襲い。


 とうとう、意識を手放した。


はい、犯人は秋里でした。


おはこんにちわ、長毛種の猫でございます。


一日一つの小説を更新するという、デットレースは見事に粉砕しました。


しかし、この「多分~」は早く更新したくて、「多分~」のサブ小説の方を放ってしまいました。


次はそのサブ小説を書くので、一緒に見てくれている人はもう少しお待ちください。


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