表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/45

35 みんなで行く旅行

 楓は強い風に吹かれながら、ライトで照らされた夜空を見上げてみる。髪がバッサバッさと揺れるが風を止める魔法を取得していないからされるがままだ。


 十日間の血と汗と涙の結晶、みんなで勝ち取った一週間の休息の前日の夜に私は凪史に指定された場所と時間にやってきた。


 私の後ろには江湖ちゃん、左右にはヒバリとハンスが片手に荷物を持って歩く。執行部のメンバーとなってから関わりが深くなった大田は江湖ちゃんの斜め後ろから着いて来た。


 江湖ちゃんが私の後ろに居るのは、私もそうだけど待ち合わせ場所が行ったこと無い場所なので後ろから着いて来ただけで深い意味は無い。


 私は左右に小等部から鳳凰学園に通っているヒバリとハンスがいるから一緒に歩いている、そんで同じく小等部から通っている大田はちょっと人と距離を置いておきたい年頃の距離なので気にしないで。


 夜のうちから出かけてゆっくりするらしい、千以上いる学園の生徒が全て移動するのだ。学園の大変な混雑は目に見えている。


 上位100位を勝ち取った者は休息を、それ以下の生徒たちは貸切のホテル(高級)へ移動してそこで勉強をするらしい。その間に学園の寮と校舎および関連する施設のカードキーの付け替えをする。


 前まではカードをスロットに通さないと解除できなかったが、今度のは手帳の中にいれたままパネルにタッチするだけで開く。


 うん、便利。カードキーを紛失する率は減るだろう。


 だから学園には最低限の機密を守る人が残り全員邪魔だから、他所へ移動していく。私を初め執行部のメンバーは合宿みたいな勉強会の努力の末に全員100位には入れたから凪史の所有する別荘へご招待された。


 チャラ男だと思い込んでいた瀬尾の居る生徒会室へ殴りこんだ三日後、今はもうその件については何も感じていない。


 友だちとわいわい言いながら旅行の準備をするのは楽しい、いらない物まで必要な気がする。しかし、ヒバリやハンスは余り荷造りというか準備をしなかった。


 お金持ちは必要になれば買えばいいじゃないの?マリー・アントワネット精神回路をお持ちお2人がうらやましいこと山のごとく。


 観光地で売っている物って高いのにね。


 結局私も衣服と最低限必要な財布に携帯、後は身を整える物を数個もっていくだけにしちゃった。必要なら買って実家に帰った際においていけばいい、都合よく私の部屋は空き部屋状態になっているからあっても困らない。


 小さいスーツケースを右手に、ファーロウを入れている猫カゴを左手にもっている。


 ファーロウも執行部のメンバーなんで凪史に同行の許可はいただいた。動物のホテルに預けちゃうと、当然ホテルが出す猫用のご飯をファーロウが食べないといけなくなるからよかった。


 凪史から別荘に招待を受けたのは、十日前のチャラ男に扮した瀬尾に騙された日に皆知っていたので私が全員でいけないか?ついでにファーロウもよろしくお願いします。と頼んだら、本人はとっくにその気だった。


 別荘を行くのは全員が賛同したので執行部のメンバーは1人もかけることなくバカンスへでかけられるのは嬉しい。


 皆それぞれ都合があるかと思っていたけど、どうやら特に無いらしい。そもそもこのテストは急遽決まったから予定を入れている人のほうが稀だろう。


 凪史も一週間すべて別荘に居る気が無く、二泊三日しか別荘に滞在予定をしてない。ヒバリや江湖ちゃんは自分よりも相手の都合を優先しちゃうのをちゃんと分かっているから。


 やっぱり思い思いに過ごす時間も必要だ。


 私も残りの2、3日は実家に帰って、久しぶりにお母さんの特製春巻きが食べたいから有難い。


 どんな最高級のフレンチに囲まれても、お母さんの春巻きは格別。お袋の味って偉大だと思う。


 大人になって自分で再現しようとしても何故か違う、切ないよね。お母さんのほうが美味しかったとかさ。


 あれ?何でこんな話しになっているのかって?現実逃避ですよ、フフフ。


 春から夏になりかけの時期でも、やっぱり夜風は冷たい。今は涼しいを通り越してムチャ寒い。


 でも最初は凪史と瀬尾にまんまと騙された自分に腹が立っていたが、落ち着いたら純粋に休みは嬉しい。


 そして皆で出かける別荘も楽しみだ、バーベキューとか花火は時期的に早いがやってみたいな。


 だけどさ、ヘリコプターで移動ってどうなの?君たちウン百万する自家用車があるじゃん。


 別荘がある県は鳳凰学園から結構遠いし、早くついたほうがいいに決まってる。でも私の人生の選択にヘリで移動なんてセレブな考えはなかった。


 また次元の違う人の視線を垣間見たわ……。


 若干虚ろな目になった私の前髪がヘリの責でバッサバサですわ。


 片手に旅行バックは飛ばされないと思うが、力を入れて手から離れないようにする。


 今日は雲ひとつないから夜空の星がよく見えるだろうと、上を見ようとするが風と耳に響く音が煩く……いや、もう耳が痛いレベル。やっぱり顔を背けた、耳が死ぬ。


 楓の後ろには執行部のメンバーがライトで照らさ、強風に髪を抑えている。

 

 ヘリを操縦するナイスガイがヘリコプターの最終点検を終えて、ヘリのプロペラを高速回転させたまま後に全員が乗り込む。


 風と音が凄い!でもワクワクするな。


 乗り込む前に、ナイスガイが耳を騒音から保護するノイズキャンセル・ヘットフォンを渡されて、早速頭に装着。


 おおっやっぱり耳のダメージが軽くなった。


 自家用のヘリなので10人くらいが乗れる少し小さめなタイプ、まっ私には大型とか小型とかの区別がよくわかりませんが。


 ヘリには凪史が既に乗っていた、足を組んで慣れてます~みたいなー。


 自動車に乗るみたいに乗り込み、凪史が荷物を後ろの方へ置いてあったから私も同じく荷物を並べた。


 適当にイスに座ると私は夜景を見たいから窓際、江湖ちゃんが素早い動作で私の隣に座った。


 あら?と江湖ちゃんの顔を見ると、少しだけ不安そうだったので高い場所が苦手なんだ。一番親しい私の側に居たいらしく私は江湖ちゃんの頭を撫でたら笑ってくれた。


 ヘリの騒音でろくに会話ができない、それだけが残念。


 私は高い場所は別に平気、飛行機には乗ったことはあるし。でも空の移動は家族旅行でグアムに行った時ぶり、ヘリコプターは人生の初体験。


 とっさに初体験の単語に対しいかがわしい想像した子はちょっと落ち着きなさい。若いことはいいことだけど。


 それよりも学園にヘリポートが何故にある?

 

 「緊急事態に備えてですよ」


 向かいに座ったハンスが騒音に負けないよう、顔を近づけて私に言ってきた。


 あらやだ、私ったらそんなに分かりやすい顔していた?

 

 「ああ……病気とかね」


 私が納得したように呟いたら、ハンスは席に戻って自分で腰のベルトで体を固定した。


 ハンスを見て私も慌ててベルトをつける。


 鳳凰学園があるのはいろんな意味で生徒たちを守るために山の中だったけ、豪華な近代的な建築物に場所を忘れていた。


 緊急事態用にヘリポートがあるんだね。納得。


 ここにも医者がいらっしゃるが限度があるでしょう。でもあの保健室にいた保健の先生……やめよう。


 保健室にいる先生のことはいずれまた今度、ハッキリ言って思い出したくない。


 少しだけ気分をブルーになった楓に、向かいハンスの隣に座っているヒバリが口パクで「大丈夫?」とか聞いてきた。


 ヘリに緊張していると思われたらしい、笑顔で同じく口パクで「平気」と返して前を向くとヘリの浮遊感を感じた時は飛んでいた。


 窓から見える夜景は街に近づくと街灯が綺麗に輝くのが見える、神戸の100万ドルの夜景には及ばないが、会話の出来ない中では私を楽しませてくれる。

 

 手に他人の感触があるから、顔を動かして確かめてみると江湖ちゃんが私の手を握っていた。


 江湖ちゃんの高所恐怖症が確定しました、コラ大田君よぅ~私を睨むな。そうやって江湖ちゃんが怖がって悪循環しているのにそろそろ気付いて。


 震えるほどでもないが、緊張しているので私も江湖ちゃんの手を握り返した。本当に妹に欲しい、我が弟も江湖ちゃんのグッとくすぐる仕草を見習え……やっぱいいです。


 ヘリは真っ直ぐに進み、私が完全にヘリに飽きる頃には地上のヘリポートへ到着。


 別荘は山林にあるらしく、次は車に乗る。しかも真っ白いリムジンですわよ?奥さん~。


 ムカつきます。


 バリバリ私が劣等感をむき出しにしつつも豪華なリムジンを堪能、ヘリの中では出来なかった皆との会話も楽しみ。


 到着した先が――館でした。


 庶民の想像の限界は別宅といいますか、ログハウス的なものだとばかり思っていました。


 実際にあったのは洋風の屋敷じゃん!ホラーの映画で幽霊がでそうな外観だし。


 ああ、あの成金学園を運営している人の別荘やわぁ。


 お部屋はいくつかしら?外からじゃ分かんないけど執行部のメンバー六人+ファーロウを入れても有り余る広さ。

 

 芝生が生えて、広い敷地を守る鉄の柵には先端が尖がり守ってくれる感が漂う庭。


 おいくらしましたか?考えるだけでも頭が痛くなる。こんなんテレビの向こう側の建物だって。


 ヘリの移動速度が速くても、リムジンの乗り心地が天国みたいでも、やっぱり深夜の山林で舗装された道の真ん中につっ立っているのはいやだ。


 別荘の持ち主である凪史が先頭に立って館の玄関を開いて中にはいる。


 中もゴージャスな作り、即ホテルとして使えそうな内装が両開きのドアをくぐると現れた。何処と無く学園の雰囲気と通じる所がある、やっぱりあの学園のゴージャスさは加藤家の趣味なのか。


 「お待ちしておりました坊ちゃん」

 「坊ちゃんは止めてって言ったはずだよ」


 深夜にも関わらず、玄関に立っていた老人。一分のすき無く染みや弛みなんか無い、上物のスーツに身を包んだ男性が立っていた。


 凪史と白髪の老人は気安い雰囲気、まるで家族と話しているほどのリラックスさに親しい間柄だと皆認識した。


 「彼は執事の石戸いしと少し前までは僕の家で執事として働いていたんだけど、退職後は別荘の管理をしてもらっている。何かあったら石戸に聞いてね」


 へー執事か…、コスプレじゃなくて本物。その職業は日本でそうそうあるもんじゃない、だから実感がなくてフィクションみたいに感じる。


 石戸さんは私たちに深く頭を下げて挨拶をしたので、私も会釈をして返した。


 石戸さんとの挨拶もそこそこ、私たちは深夜というのもあって早速部屋にご案内をしてもらう、大きな館だったのは暗さからの見間違いではなく本当に広い。


 1人部屋貰えたんだもん、凄く広いの。シャワーにトイレまで個人部屋にあって塵一つ落ちていない綺麗な部屋。


 ヘリから数時間、やっとファーロウをカゴから出してやる。カゴから出たら固まった体をほぐすように猫の伸びをしてベットにファーロウが飛び乗った。


 私は自分の荷物であるスーツケースを石戸さんが呼んだ使用人さんに運んでもらい、ケースの中の寝る用の服を引っ張り出す。


 始めて知ったけど、執事って使用人……雇われて働く人のリーダーが執事で、1人しかいなんだ。よく映画で出てくるからたくさん一つの場所にいるのかと思っていた。


 ちょっとカッコよかったな、石戸さん。さり気なくできる男ってポイント高い。


 寝るために服を慣れた手つきで着替え、今先ほどまで着ていた服はハンガーにかけた。


 今日はとにかくもう寝て明日から遊ぶようにリムジンの中で話した。


 近くに乗馬できるクラブがあるから朝ご飯を食べたら行ってみる予定。


 お馬さんと触れあい超楽しみっス。


 『流石に体がこりました』

 「そうだね、でもさヘリって思ったほど揺れないんだ。少し感動したよ」


 それともいいヘリだったから?その辺は当然詳しくない、乗れただけで満足よん。ヘリコプター操縦できないし欲しくないし。

 

 スーツケースの中に忍び込ませていた携帯食、カロリー○イトのチョコ味のビニールを開き口に銜える。太る心配がないって幸せよ、まだ女の頃は高校までテニスをしていて、大学からはスポーツはしなかった。


 運動量は減っても、食欲は運動している時と同じく欲求を求めて少し太っちゃった。


 こりゃやっちまったぜって、ダイエットを始めて九時には死んでも食べ物は口にしないと我慢の子だったのに、今はどんなに食べても体型が崩れないパーフェクトボディに甘えてついつい間食をしちゃう。


 歯で押さえ、余分な分は折ってから口の中に放り込む。うむ美味しい、でも口の中が乾く。


 「ひる?(いる?)」

 

 モグモグ口を動かしファーロウも食べるか聞いてみたら、呆れた顔で首を左右に振られた。


 『食べている時に喋るのは下品ですよ』


 あえて楓は何も言わずにカロ○ーメイトを食べ続ける。ファーロウはジャンクフード好んで食べないので断られるとは思っていた。


 ファーロウの好物は多くあるし、好き嫌いも少ないが日本食ではオニギリが好きんだって。


 しかもホカホカ作りたてよりも、家でお弁当を作ってお昼に食べるほどの時間が経ったオニギリが好物。


 通か…この子は。


 残ったカロリーメイ○をビニールから出して銜え、猫の姿をしたファーロウを抱き上げた。


 片腕でファーロウを支えて、空いている手で毛皮を撫でる、柔らかくて温かい。


 抵抗せずに楓に抱き上げられるファーロウ、猫の軽い体と毛皮を思う存分もふる楓に呆れ顔で見てたが。


 うたた寝している時、背中に氷を入れられたようなショックを感じて、楓とファーロウは窓の外を見た。


 背筋がゾワゾワする不快な悪寒、これは馬來先輩の時感じた…いやそれよりももっと数倍で、抱き上げていたファーロウを落しそうになった。


 窓の側のテーブルにファーロウを置いて、無駄とは思っていても暗い外を覗いて発信源はどこだと探す。

 

 外の様子は変化無く、山林がみえるだけ。人がいる気配もない、私の勘も異常がないと知らせてくれた。


 眉を顰めて、口に銜えていたのを噛み砕く。


 「さっきの感じた?」

 

 視線を窓の外に固定したまま、ファーロウに聞いてみる。


 『はい、原罪の霧…ですね』

 

 ファーロウも真面目な顔で外を見ている。


 「でしょう?何で学園じゃないここで感じるのか不思議だけどさ」

 『そうですね、明日僕が少し探ってみます』


 これまた、楽しそうなバカンスが始まったみたいだ。学園を離れて原罪の霧とは一時休戦とばかり楓は考えていた。


 最後の一口になった○ロリーメイトを奥歯で噛み砕き、楓は薄暗い空を睨み窓のカーテンを引いて視界を隠した。


 目を閉じて勘を働かせてみる、超能力みたいに自在には操れないが多少なら答えが返ってくるまでは出来る。


 ―――誰かがとり憑かれた。


 すると自分の中にもう1人の自分が居るように返答が返ってくるのだ。


 ――――そうだ。


 ――――誰だ?


 ――――それは分からない、漠然とした質問では把握できかねる。確かなのは楓の顔見知りではないことだけ。


 閉じた目を開き、軽くため息をつく。知り合いじゃなくてよかった。


 せっかくお馬鹿になって遊べる連休なのに水を注され、やれやれと就寝につく。


 お馬さん待っていてね、君たちを私が撫でに行くから。


移動までの前フリ長いですね、そしてヘリコプター登場です。

ヘリは好きですが、まだ乗ったことありません。両親が乗ったので体験を参考にしました。

あまりリアルではないかもしれません。

そんで楓が段々エスパーみたいになっていきますね。

ちょっと暴走を止めるブレーキを用意しませんと(笑)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ