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28 執行部設立ついでにメンバーも揃えちゃおう

 



 手帳を前にして凪史は真剣な表情だ。


 「そしてカイチの角は、僕たち自身にも向けられているのを自覚するためにだ」


 手帳の中を確かめると既に新井 楓の名前と顔写真が張ってある、準備がよろしいことだ。しかし色が銀色でカッコイイなこの手帳は、楓は口元を手帳で隠して好戦的な視線で凪史に問う。


 「つまりは特権を使って逆に俺たちが不正を行わないように…か?」

 「飲み込みが早くて助かるよ」

 

 再び凪史がワインに口をつける。


 「条件がある」


 楓は手帳をテーブルに戻して真摯な顔をした。


 「俺が入る絶対条件として」


 テーブルの上で江湖の鯛の酒蒸しを美味しそうに食べているファーロウを見て。

 

 「猫のファーロウを一緒に部員にしてくれ。マスコットキャラは厳つい羊よりもっと可愛くてもいいだろう?あと江湖も」

 「変な条件だ、猫を入れるのは君の趣味として…役に立つの?五十嵐っていったけ?」


 江湖も楓の発言に意外そうな顔をした、まさか自分の名前が挙がるとは思ってもみなかっただろう。


 「役に立つ以前に執行部に入れば江湖の外見での危険は減る、それにわかんないけど相談しに来る者には江湖のほうが話しやすいと思うし」

 「まっ、条件とならば僕は反対しないよ。本人はどうか知らないけどね」


 突然の大役の抜擢に戸惑う江湖。


 「楓様わたくしは役に立ちませんわ」


 心配そうに私を窺う江湖。

 

 「俺も役に立たないよ、大丈夫。それにまだこの学園にいたいんでしょう?」


 そう言われて、白蓮を取り戻した現在。もうこの学園にいる理由はないことに江湖は今気がついた。


 そして応援をしてくれた祖母を初め、家族の皆や旅館で家族のように可愛がってくれている人々が自分の帰りを待っている。


 元の学校へ戻り友人と共に何の不安がない毎日が送れるはず。

 

 でも、と考える。


 ここには楓様がいらっしゃる、この方はわたくしの恩人そしてわたくしが想いを寄せている方……お側で仕えたい。


 江湖の心で呟いた声を大田に聞かせたらショック死するかもしれない。でも彼はくじけないだろう、明日に少しでも光りが見える限り。その光りもあるのかどうか、不明だが。


 ごめんなさいパパ……。


 心配をして毎日「帰って来い」と電話をくれる父親への親不孝だとは、分かっているのだけど。


 動き出した乙女の恋心と暴走列車は止められない。


 それにまだ楓様に白蓮を受け取っていただけない、楓様のお側で女を磨き認めていただかなくては!!


 江湖は決意した顔を上げた。


 「はい、わたくしは楓様とご一緒させてください」

 

 楓は笑って頷いた、江湖が帰りたいのなら引止めはしない。しかし居たいのなら居場所を一緒に作ろう。


 ワイングラスを持って江湖の前に差し出す、一秒ほど意味が分からなかったが。急いで自分のジュースの入ったグラスを楓のワイングラスまで差し出すと、楓は自分のグラスと江湖のグラスを軽くぶつけてガラスの涼しい音が部屋に響いた。


 2人とも微笑みながらグラスの中身を飲み干す。


 「これで凪史に俺だけがこき使われなくてもよさそうだ」


 機嫌よく楓は自分のワイングラスに赤ワインをグラスに注いだ。


 「その「執行部」とやらは私が参加してもよろしいですか?」


 ハンスが王子様スマイル&ワインを共に顔を少し傾けて、凪史に訊ねてくる。


 「何?泰堂氏はいりたいの?」


 まだ声代わりのしてない凪史は訝しげに聞きなおす、楓は少ししか2人がやり取りをした場面は見ていないが何とな~く凪史はハンスに苦手意識を持っている気がする。正面からそんなこと聞いてたら絶対へそを曲げるので聞きはしないが。


 「じゃあ…僕も参加しようかな?楓は突拍子のないことするって今日で実感したからね」


 ヒバリもハンスの後を追って執行部に入部希望を宣言。


 「ハンスはともかくヒバリは部活あるだろう?」


 ハンスが部活動をやってないのは知っているが、ヒバリは毎朝早くに起きて空手部へ行くのを楓が見送っているのだ。それをサボっていいのか?参加は心強い申し出だけど。


 何も問題ないといわんばかりにヒバリは笑顔で答えた。


 「うん、大丈夫だよ部活動と執行部を掛け持ちするから。それに僕は限られた時にしか役に立たないと思うし」


 とは言えど大変だろう、空手部の主戦力だぞ?


 「僕もちょっとは空手以外にも打ち込んでみようと思う、いい機会だよ。それとも駄目かい?」


 捨てられる犬のような顔をするヒバリ。爽やか青年系のベビーフェイスをするな!可愛いだろうが!


 「まー…本人がやる気ならいいんじゃないのか?どうする?凪史」


 「執行部」のボスは凪史だ、私が条件としてなら彼らを入れるだろうが出来るだけ凪史が認めて入って欲しかった。


 「……まぁ、構わないよ。実際に家柄も十分。今回の一件で二人の実力もあり、他の生徒にも好感力もあるのは知っているからね」


 2人を見つめ、凪史は真面目な顔で受け入れた。一番凪史が欲しいのは家柄でも実力でも好感でもない、信頼だ。裏切らないという信頼。


 それならばヒバリとハンスは合格だ、何せ楓のためにここまで信頼をして江湖の白蓮を盗むなど並みの絆では火の粉を恐れて手を貸さない。

 

 そして凪史は快く思っていないが、学園の中では全て等しい生徒であるはずなのに家柄をチラつかせて人を従わせるもの、従うものがいる。その価値観の人間には財力ではハンス、権力ならばヒバリ相手に従うだろう。


 楓の家柄はごく一般的な家庭。どんなに人を惹きつけようが逆にそれが仇になる場面も考えられ、江湖は性別を隠している以上余り目立つ行動は避けさせるつもりだからその点、この2人は扱いづらい難点に目をつぶれば十分に認められる。


 思案の海に浸る凪史を他所に、楓は一番隅のテーブルに座る大田をチラリと見た。


 ついでにコイツも引きずり込むか……その方が楽しいし。


 「そういえば大田は何の会社のおぼっちゃまなんだ?」


 引きずりこむ前に大田の事知らないので聞いてみる。別に深い意味はないがちょっと興味があった。


 「あ?何でお前にぃ…」


 江湖の選んだサラダを摘みながら、蚊帳の外にいた大田は突然ふられた話に怪訝そうに眉を顰め、何時ものように突っぱねようとしたが。


 「そうでしたわ!わたくしも存じませんでした。せっかく席がお隣なのにお話したことなかったですものね?」


 大田は一瞬だけ躊躇したが、江湖の可愛くお尋ねに一度口を閉じてまた開いた。


 「色々手をだしているが、一番は資本家だ。金や物資を提供してその利益の権利を所有しているな」


 プイッと江湖から大田は顔を逸らした。


 ただ照れ隠しに鈍感な(楓に言われたらおしまいだ)江湖には通じていないぞ?ほら無理やり聞き出したみたいに受け取ったじゃないか。損な性格。


 大田と江湖のやり取りを静かに傍観している楓は、そいやコイツいやに担任の皆仮先生と仲がよさそうな感じがしたのは何故だろう?


 と、思い浮かんだが。そこまで大田の内側に入り込むことはせず、ドリアに乗せたモッツァレラチーズを舌で味わっている内にコメ以外の世界でも主食として食べられている麦で出来たアレが食べたくなってきた。


 「やべっ、今日は炭水化物ばっかだけどいいか…」


 楓は立ち上がりキッチンへ歩いていく、お昼にスペイン風炊き込みご飯のアロスを食べてもう炭水化物を控えようとしたけど。


 『楓さん?』

 

 ファーロウは唐突に何を探している楓に声をかける、その楓はパンを収めている棚を開いてフランスパンを持ち出す。


 「ガーリックバターをつけて焼いたフランスパン食べたい」


 ヒバリが立ち上がり、楓の隣まで来ると。


 「僕が切るよ、硬いでしょ?」

 「サンキュー」


 フランスパンを小分けするパン切包丁、ブレッドナイフをヒバリに手渡した。


 熱を加えていないフランスパンは凶器だ、そのまま齧り付くと歯が折れる。このフランスパンは興味本位で買ったフランス産のフランスパンで硬いので注意。


 力を込めてのこぎりの様に切ってくれているヒバリをよそ目に楓は冷蔵庫からガーリックバターを取り出す。


 本場のフランスパンは日本人に向けた外カリカリ中はモッチリではなくて、外はカリカリで中がパサパサしている。それを数日前にチーズフォンデュにして美味しくいただいた。


 大きいのを買ったのでまだ半分残していたフランスパンは全員分ちゃんとありそうだ。


 頑張ってヒバリがパンを切り分けている間に、楓はガーリックバターを塗って次々とオーブンに並べて焼いていく。


 「いい匂い」

 「でも念入りに歯磨きしないとね」


 オーブンから漂ってくるガーリックの匂いに酔っていると、フランスパンを切っているヒバリが苦笑いをしていってきた。

 

 ここで焼きあがるまで最近知った楓のウンチクでも聞いていてください、チーズフォンデュを調べていたときに偶然目に入っただけなんだけどね。


 世界では意外に日本人みたいな主食がある国は多くないらしい、米、麦、根野菜類(芋など)、ヤシ類、トウモロコシなんかは主食のある国で多く食べられている、日本は米だよね。


 「そんでアメリカには主食はないらしい」


 ヒバリに披露していたウンチクにヒバリは感心した返事を返す。


 「しかしアメリカは猫の好物といえば肉なんですよ?」


 フランスパンを置くためにもう使わない皿をさげて広くしてくれたハンスが、流しに小皿を置き私たちの会話に加わった。


 「ではファーロウちゃんはアメリカ気質な猫ちゃんですわね」


 ギクッとファーロウは食べようとして銜えた一口大に切られたステーキを落とした。


 楓は気付かれないように忍び笑いをする。ここで鯛の刺身を食べようとするなよ?ファーロウ。


 先に席に戻ったハンスの所へ焼きあがったパンを持って楓とヒバリが自分の席に戻る。


 「ほら大田、お前も一緒に口臭くなれ」


 香ばしい匂いのするパンを大田に差し出すと「ああ」とか適当な返事をして受け取り熱いうちにパンに齧りついた、瞬間を狙い。


 「お前も「執行部」に入れ、一蓮托生じゃ」

 「グッ!!」


 喉に詰まりそうになった大田は少し咽た、因みに一番熱いパンを楓は分かっていて渡しました。


 計算どおり。

 

 強く自分の鎖骨辺りを叩く、大田。それでちゃんと気管から食道にパンが運ばれるのか?


 「……一応、ゴホッ…理由を聞いてやる」


 こいつ私の不意打ち発言を何度も聞いているので、ちょっと慣れてきたな。


 「お前は学園で全滅危惧種として保護されかねない不良――オーッ!キープクール!」

 

 拳を固めて攻撃してきそうな大田に向かって、発音がでたらめな英語を放つ楓。


 「落ち着け、だからお前が「執行部」に入れば用心棒になる」

 「断る」

 「それを断る!執行部部員の楓様の権限を使います」

 

 すかさず断った大田に楓は、貰ったばっかりの銀色手帳を警察みたいに大田の顔につき合わせた。


 再び口を開いて抗議しようとした大田に、楓は口元を大田だけに見えるよう手帳で隠し。


 (お前に江湖のボディーガードを頼む)


 少し間を置いて顔を赤くした大田はイスから腰をあげた状態だったのを戻り、鼻を鳴らしてそっぽを向いた。テレ屋さんな大田の肯定として楓は受け取る。

 

 大田と楓の一連を見ていてヒバリと江湖は笑い声をこらえている、ファーロウは『虐めちゃだめですよ』と注意を促した。


 勝手に部員の一員に大田を入れた楓を見ていた凪史は。


 「もう好きにしたら?でも随分と一つのクラスに固まったな」


 呆れた声で自分が設立した「執行部」メンバーを見渡す。


 確かに楓のクラスばかり集まった。


 「まっ最初はこんなもんだよね、三年には直樹がいるからそっちの情報はアイツから取ればいいし」


 応募をして募った部員ではないから偏りは仕方ないと凪史も納得しするしかない。


 でも楓はこの顔ぶれならやっていける気がする、先はどうなるか私の勘でも分からないが。

 

 「とりあえずは乾杯と行こうか?」


 楓がグラスを持ち上げると、全員グラスを持ってお互いに重ねた。


ごきげんよう、読んでくださりありがとうございます。

案の定なメンバーが揃いました、これから学園を巻き込んで楓たちで遊びたいです。

しかしどんどんヘタレキャラになっていく大田に幸があるのでしょうか?もっとワイルドキャラのはずだったのに。

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