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27 勝利の晩餐

 馬來から白蓮を取り戻した楓ご一行は江湖ちゃんと大田に買い物を任せて、自分とヒバリの部屋へ凪史とハンスをご招待した。


 皆には白蓮を取り戻すのに協力してもらったのでお礼をと、執行部の内容の説明を兼ねて私と江湖ちゃんが料理を振舞うようになった。


 さり気なく聞かれたくなかった帰り道でファーロウが何で準備室にいたのかヒバリに質問されたけど、冷汗をたらしながら何とか誤魔化し(放浪癖があるとか適当に言った)て自分のキッチンへ出せるメニューを決める為に冷蔵庫を覗く。


 その間にヒバリには助手として手伝ってもらい、ハンスと凪史はキッチンの近くにあるダイニングテーブルのイスに座っていてもらう。


 私は制服の上着を脱いで腕まくりをした後に手を洗い、腰につけるタイプのエプロンをつけると。


 「襲いたくなるお姿ですね」


 笑顔でハンスが私の姿の感想を言うが、私はなんて答えればいいのか。下手な選択を選ぶと取り返しのつかない自体に陥ると私の勘が訴えたので、とりあえず有難うといっておいた。


 ハンスも手伝いたがっていたのだけどキッチンに江湖ちゃんが立つのも配慮して、長身の男2人と私も背が高いので流石に江湖ちゃんのスペースがない。


 さて何を作ろうかな~私は江湖ちゃんに育ち盛りを満足させる肉を買ってくるように頼み後はサラダセットも頼んだ、その他は江湖ちゃんのチョイスを信じて選んでもらう。


 江湖ちゃんたちの買い物へ行く前に義理堅いのか食費をだしたのは凪史だった、カードを渡しこれからお金はこれから出すようにとの事でした。


 俺様な部分が凪史にあるがちゃんと上に立つ者の振る舞いを知っているのは偉いと思う、それに甘えて江湖ちゃんと大田は二階のコンビニで別れ私はこうやって冷蔵庫と缶詰を入れている棚を探っている真っ最中だ。


 大量の玉ねぎを助手のヒバリに洗って貰っている隙に、私はご飯を大きいキャセロールの中にバターを引いて詰めてバターの塊を乗せてから塩とコショウで味付けをしたら缶詰のビーフシチューをご飯に広げて、最後にとろけるチーズを重ねたらオーブンに放り込む。


 洋食と和食のごっちゃ料理になると思うから即席ドリアにした。一品くらいご飯物が私は食べたい。


 それに時間をかければ豪華な料理は作れるが私を入れて五人、ファーロウを含めると六人分を6時過ぎの現在で大盛りを作るには、どうしてもメニューがゲストを待たさない料理になってしまう。私としては料理も大切だけれども楽しい食事がしたいのでそれで十分だと思う。


 今日の晩に食べようと昨日の内に用意していたタラとじゃが芋のおかずスープを温めて沸騰したらアクをとり、オリーブオイルと塩コショウで味を調え、邪魔にならない様にテーブルに運んでもらった。


 ピンポーンと434号のベルが鳴る、帰ってきたのかと顔を上げたらハンスがドアを開けに行ってくれていたので任す。


 予想通りに江湖ちゃんと荷物を両手にもった大田だった、まんざらでもない顔して大田め…なんちゃってデートは楽しめたか?


 「お待たせいたしました楓様、こちらがサラダですわ」


 両手で差し出したサラダのセットを受け取り、江湖ちゃんが買ってきた食材を大田が出しているので覗いてみた。


 でっかい生の鯛が……しかも姿そのままで。


 「もしかして江湖が魚捌くのか?」


 私やろうかと口外に聞いてみると自信のある笑みを返された。


 「いいえ、わたくしお魚料理が得意ですわ。どうぞご覧になってくだいな」


 う~ん…ギガカワユス…江湖ちゃんは、まったくもって君をお嫁に出来る男は幸福な人間だとシミジミ感じた、その第一候補は自分だという事実を忘れて子を想う親の心情に勝手になる。


 江湖ちゃんも上着を脱いで腕まくりをする、大田も江湖ちゃんの指示に従って手伝っていた。恋愛にヘタレな大田にしては自分をアピールしているのがちょっと意外。 


 江湖が包丁を握って大きな鯛をまな板にのせた、手馴れた包丁捌きで鱗を剥ぐ。

  

 私が少し料理をするといっても魚を捌く専用の包丁をもっていない、おろしや硬い骨を切る出刃包丁でばぼうちょうや刺身用の柳刃包丁やなぎばぼうちょうじゃなくてごく一般的に普及している万能包丁の牛刀しかないのに、江湖ちゃんは鼻歌でも歌いそうな顔で大きな鯛の鱗をはいで三枚おろしを一気にサッとおろしていく。


 いかんなこの調子だと私が大見栄を張った張本人のくせに負けそうだ、江湖ちゃんがお嬢様のイメージで料理が達者なんて思わなかったが私なんかの手助けなんて要らないみたい。


 素早い手つきでドンドン鯛の刺身を作り、さらには大根のかつらむきをして鮮やかな腕捌きで可憐に大根のつまを作り皿に盛った。

 

 鯛は江湖ちゃんに任せて…さて気を取り直し、大田に頼んだ私の肉を取り出す。5人+a分の胃袋にはいるメインデッシュだ、値段がいくらなのか聞くのも恐ろしい上等な肉が現われる。


 これぞ牛でモモの一番柔らかい位、ステーキに使うランプ肉様だ。ひれ伏せ皆のもの!


 肉を目の前にして楓はため息をつく、なんて贅沢な肉なの…庶民にはこの重さと細かい霜降りは永遠の憧れ、うひゃ~凄い。


 惜しみなく厚く切ってシャンリアピンステーキにする、下ごしらえにヒバリがハンドブレンダーで微塵切りにした玉ねぎを有難く受け取って、今度はヒバリに肉の筋を切ってもらい肉たたきで伸ばしてもらう。


 受け取ったペースト状の玉ねぎに味付けと赤ワインを仕込むと肉を漬け込む。


 ちょっと私の料理にひと段落着いたので使った食器をヒバリと洗い片付けていると、ダイニングにいる凪史が熱心にこっちを窺っているのに気付いた。


 「もうちょっと待ってくれもう少しで出来上がるから」

 「別に催促しているんじゃないよ。ただ料理を作っているのを店以外で見たのは初めてなだけ」


 楓は少し首を捻る、お母さんが作って…お手伝いさんかな?


 「お金持ちの奥様は料理を作らないのは本当なんだな」


 笑って楓が鍋を棚に仕舞うと凪史が馬鹿なの?といわんばかりに言ってくる。


 「それは人それぞれじゃない?ただ僕の母親は家にいるより愛人のところにいるからどうかは知らないけどね」


 ヘヴィな事を聞いちゃった。


 「勘違いしないでほしいな。別に同情して欲しいわけでもないし僕にとってもどうでもいい女だよ」


 くるりと私に背を向けた、彼の言う同情ってのも確かにあるけど…寂しそうな背中に見える気がしたのは彼のプライドを傷つけるかな?


「んじゃ俺がママになってやるよ、カモンMy Son!」


 両手を広げた私をフンっと一瞥して振り返り笑った。


「君が親だなんてゴメンだね。どうしてもっていうなら愛人くらいにはしてあげる」


 ビシッと454号の部屋の空気が凍る、食器を並べているハンスとヒバリの手にしていた皿にはヒビがはっていた。


 「ご遠慮こうむるよ」


 私は何となく~空気が淀みに逃げるようにキッチンへ帰る、ハンスもヒバリも迫力ある顔をしているんだもん。あいつらこの手の冗談嫌いだよね?


 楓は邪念を捨てるように、柔らかくなるように玉ねぎとワインにつけていた肉を取り出してミディアムに焼く、つけていた玉ねぎも残さずソースに調理して一口大に切ったステーキの上に盛って完成。


 江湖ちゃんも刺身とは別に分けた鯛を長ネギとゴボウを細く切ってアルミホイルに入れると、酒を加え味付けをしてからウォーターオーブンへ入れた。


 先に出来たドリアとステーキを楓が運ぶと、あまった鯛の頭でヒバリが塩焼きにしていた。ナイスヒバリ、これってシンプルだけど美味いのよね。


 大田は江湖の指示によってだし巻き卵とだしを溶いている、そして江湖が手早くだし巻き卵を焼いて切り分けた。


 「本当は巻きすで形を整えるのですが…」

 

 だし巻き卵をお皿にのせて形がプロの仕様ではなかったのを少し残念に思っているようだが、女の頃から楓さんは人生に一度だってだし巻き卵に巻きすで形を整える拘りをもったことはございません。


 そのもてなしの心が感じられるプロ根性は、やっぱ旅館の娘なのかな?


 いや、江湖ちゃん自体が料理好きみたいだ。


 私は江湖ちゃんのだし巻き卵を見て。


 「立派だよ、文句があったら俺が倍にして返してやるから」


 本当に十分綺麗、ここは料亭ではないのだから気にしなくていい。


 「あの……楓様お味を確かめてくださいませんか?」


 おずおずと恥ずかしそうに私に尋ねる江湖ちゃんにNOなんて言えないでしょう!可愛いな~うちの子は。


 江湖ちゃんが焼き卵をおはしでつまんで私に差し出したので、つい女子高の頃のノリでア~ンをした。


 「どう、でしょうか?」


 おずおずと聞いてくる江湖に向かって楓は微笑んで。


 「うん、美味しい」


 ほくほくして柔らかい、何より卵とだしがよく混ざって文句なしに美味しい。口に卵が入っていたので囁くように言ってしまった。顔を赤くする江湖に、はたっと今の私は性別男だったと思い出す。(遅い)


 そして背中に軽い衝撃が…なんだと見ると大田が睨んでいた、先ほどの衝撃は大田ご自慢の足で蹴られたみたい。スマン大田、ほんと私ってアンタの邪魔よね。


 目の前で恋敵と一目ぼれした女の子がいちゃついていたらムカつくよ、ちょっとは周りも気にしないと。


 1人反省していると江湖の鯛の蒸しの完成をオーブンが知らせて、鯛料理と出し巻きを持ってテーブルに運んだ。


 温かい料理を運び終え、全員座るとイスがちゃんと人数分あってよかったとホッとした、自分で招待しときながら。もし足りなかったら空気イスなんて誰かがやるのを想像してしまい、内心笑ってしまう。


 時間も7時すぎ、さっそく皆で食べ始める、江湖ちゃんの刺身は薄くて私好みで美味しい。鯛は新鮮で甘みがあってしかも、この美しさはまさか一から捌いて作ったなんて思えない。


 凪史も悪くないと褒めていないが気に入った様子、私のドリアもハンスは褒めてくれた。


 ステーキは元がいいからよっぽどでない限り変なのは作れないし、スープは十八番なので自信はあった。後は加工されているサラダと大田の選んだジュースと赤ワイン(ノンアルコール)0.5%アルコール含みのワインを江湖以外がステーキなので飲む、大田は統一されていないワイングラスに注ぐのを見守る。


 実際にはアルコールが0.5含まれてようがノンアルコールだ、アルコールはいってるジャンって言われてもジュースにも栄養剤にもアルコールは含まれている。未成年の飲酒とはそういう物だ。


 しかし美味しいなノンアルコール(未成年だから強調しますよ?)赤ワイン。ステーキによく合う、まあ舌鼓は置いといて。


 楓は凪史を見つめた。


 「そろそろ『執行部』の説明してくれないか?私の歓迎会でもあるんだろう?このお食事会は」


 私が訪ねるとワインを一口含み、グラスを置いた。


 「そうだね、執行部の説明は大体したと思う。特権を与えられて他人の部屋に調査する権利を含め様々な権利を持てる、それは全て事件解決のために」


 そう言うと凪史は自分のポケットを探り、一つの手帳をだした。それは自分たちが普段使うカード入りの学生手帳と似ている。


 しかし手帳にはユニコーンのように鋭い角を持った黒い羊が前足を振り上げ今にも刺し殺そうとする姿が描かれていた。


 「この羊なんだ?凶暴だな」

 「それはカイチ(獬豸)って名前の聖獣だ、この学園は鳳凰って名前がついているだろう?色々説明すると面倒だから纏めると同じ聖なる生き物なんだ」


 ふ~んと楓は返事をする、皆もその手帳に興味ありだ。


 「それで鳳凰は世に知性ある者か王が平安をもたらすと現われる聖なる鳥で、この学園の生徒もそれに相応しい人間になれって意味があるんだ、それに因んで争いが起きると不徳の者を刺し殺す聖なる獣がカイチ」


 なるほど正義の味方な動物なのね。


 「僕たちはそのカイチになる」


 それは責任が重いな。

料理を作る描写は楽しくてついつい長いです、スミマセン。

うわ~くどいと思いながらも長くなりました。

次こそは執行部の説明になります。

指摘しなくても分かってらっしゃるでしょうが、料理はかなり省略されているのでそのまま作っても風味が足らない料理になりますのでお気をつけて。

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