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22 能力の開花

 



 私はヒバリとハンスに引きずられて教室から拉致、そして階段の踊り場まで連れてこられた。


 もうすぐ授業の開始が近いので周囲には生徒の影は全く無い、二人に押され楓の背に壁をつけて尋問される形となっている。


 「いつの間に五十嵐さんと仲良くなったの?楓」

 

 普段通り2人はにこやかな笑みを絶やさないのだけど、流石の楓でも分かるほどの重圧を背負って笑うので楓の背中に冷たい汗が流れた。おかしいな、まだ季節は初夏でまだ肌寒い日だってあるのに。


 「いや…あの、な。ちょっと江湖がピンチだったのを助けて親しくなっただけだ」


 ヒバリとハンスは一瞬「はい?」みたいな顔をしてハンスが、ズイっと顔を近づけ。


 「本当でしょうか?」

 「……本当です」


 いったい私が何をした…。そして妙に迫力のあるお2人のお顔に反抗できない。


 「じゃあ、何処まで仲良くなったの?」


 ハンスに代わって今度はヒバリが質問してくる。


 「どっ何処までって…友達程度だろ?変な事を聞いてくるなよ」


 友達以上になるつもりは無い、私としては大田がモヤモヤしているのを平和的に観察できれば満足だ。とりあえずヒバリとハンスはフーンと信用の無い視線を私に送る。


 それ以前に江湖ちゃんが女の子だって気づいているのかい諸君?それを踏まえたうえで話しているのだろうか。


 「何があったのか詳しく教えていただけませんか?」


 私はどうしようと考えた、この2人が仲間になってくれたら頼もしい。でもな~江湖ちゃんのプライバシーだし。


 でも、生徒会長というあてもあるので。 


 「いや、すまないが話せない。俺は江湖の秘密をペラペラ喋れない。その前に生徒会長に話さないといけないしな」


 ヒバリとハンスに沈黙がおりたから、楓は続けた。


 「もし大変になったらお前たちに助けてもらう、今は少し待ってくれないか?頼む……」


 ヒバリとハンスは先ほどまでの疑いの目は潜めて、いつもの顔に戻った。

 

 「いいでしょう、待っています。楓さんのお願いならばどんな事でも」


 ハンスが笑顔で言ってくれた。ヒバリも頷き。

 

 「うん、僕も…なんだか大変なことになっているのかい?」


 私はヒバリに「かなり」と呟いて、今日明日で解決できる問題ではないと返した。


 でも早く終わらせないと江湖ちゃんのパパも心臓麻痺を起こしてしまうかもね。……でもそうなると江湖ちゃんは自分の元いた学校へ帰るのだろうか?大田は悲しむな。


***


 あのあと三人で教室に戻ると既に皆仮先生が教室でHRをやって、教室に申し訳ない顔を一切していない三人が入ると案の定みんなの注目を浴びながら入る。


 しかし日ごろから信頼の貯金をしている私たちは、先生から小言を言われるだけで済んだ。信頼の貯金は大切だから皆も貯めようね。


 そうそう、ここの授業だけど私は結構理解している。……何とかね。


 ファーロウと毎日の予習と復習をしてくれているおかげで私の学力は飛躍的に上昇して、学園の勉強にもついていける。


 先生が黒板に英文を書いていく、ハンスよりは(本当は比べるのもおこがましい)遅いが大まかに訳せていく自分にびっくり。学園を卒業したら外人みたいに鼻が高くなっているかも。


 授業を受けつつ生徒会長の直樹に江湖ちゃんのこと何て説明しようかと、話の順序を考えながらも放課後はやってきた。一緒に教室からでる私と江湖ちゃんにクラスメイトは男泣をする。


 彼らの涙を背負いながら彼女と一緒に生徒会室へ向う。

 

 ヒバリとハンスは私の部屋で待機、どうしても話――力になりたいんだって。照れるね?男の友情って。私の口から全てを話すわけにはいかないから、私の部屋まで江湖ちゃんに来てもらわなければならない。

 

 しかし、直樹が具体的に何かをしてくれるのならばそれも憂鬱に終わる。私としてはそこで終わることを祈っていた。

 

*** 

 

 「はあ!?無罪放免ってどういうことだ!!甲本!!」


 向かい合うソファに座っていた私は向かいに座っている直樹の襟を持って、立たせた。

 

 「落ち着け、説明が出来できん」

 

 襟を掴んでも直樹は楓よりも背が高いので立つと、迫力が出ない。迫力があるか無いかという話でもないが。

 

 それよりもあの男、馬來が何の咎も受けずに帰したってどういうことだ。


 私の隣に座っていた江湖ちゃんは慣れない一触即発な雰囲気にオロオロしている。


 直樹が私の手を振りほどき、そのままの勢いでソファに座りなおした。高級なソファだが勢いをつけて座ると軋む。


 直樹も馬來の件は不服なのだろう、会った回数はたった二回だけなのだが不機嫌な顔を見たのは初めてだった。代わって直樹が座るソファの後ろに立っている怜が感情の窺わせない声で代わりに答えた。


 「悪さを犯した奴とそれを立証する奴がいないと、この学園はで裁けない。生徒が生徒なだけに下手には動けないようになっている」


 その冷静な音質にさえ今の楓にはイラつく。


 「あんたら生徒会だろ」


 獣が唸るような声で楓が怜に言い放つが、怜は眉一つ動かさずにメガネの位置を指で直す。楓は心でそれお前のキメポーズだろ!?分かっているぞ私には!!なんて意味の分からない八つ当たりをした。


 「その通り、検事でもなく裁判所でもない。生徒会だ」


 くそう、それを言われると…確かに。楓は唇を噛む。


 意味も無く特権を使って何とかしてくれるものだと期待していた。考えてみればこの学園の生徒はどこかの会社のトップの血縁者ばかりだ、証拠が無い限り生徒会でも動くのに邪魔が多い。


 ここにいる生徒の信頼は、親の会社の信頼にも繋がる。


 親は親、子は子。なんて甘い世界ではない、責任は本人が償えばいいけど会社の場合は従業員の人生にも関わってしまう。

 

 「だったら…江湖が!」

 

 江湖が乱暴させられそうになったと、発言したらいいじゃないかと…楓は言おうとしたが。


 「駄目です」


 江湖が小さく呟いた、大人しかった江湖に皆の視線が向かう。興奮していた気持ちを抑えつけ楓もゆっくりソファに座り江湖に尋ねる。


 情けない話、江湖の声を聞いてちょっと我に返った。私が取り乱してどうする?落ち着け私、一番辛いのは江湖だ。


 「どうして?」


 出来るだけ優しく問うが、江湖は俯き。


 「わたくしが資料室に連れて行かれたときに「大人しくしろ、アレが大切なら」と馬來さんは仰いました。何かあったら白蓮を壊すという脅しですわ、わたくしが立証したのならばきっと馬來さん…」


 それでは江湖にとって本末転倒だ。


 「それに立証した事でわたくしが…学園からいられなくなり家に連れ戻されて白蓮を無事に取り戻せるか分かりません」


 楓は足を組んで考える、正直に言って生徒会がここまで力がないなんて考えていなかった。それに告発をして江湖が女の子だとばれると学園には江湖はいられなくなる。


 いや、白蓮さえ取り戻せば無理して通う意味は無いからいいのだけど。


 それで馬來は退学に出来ても白蓮を奪った事実を知らばっくれるか、最悪白蓮を壊されたりすると意味が無い。江湖が望んでいるのは唯一つ、白蓮が無事に自分の手に帰ることだ、馬來に乱暴されたから退学するのが目的ではない。


 白蓮さえ取り返せば…。それにはどうすればいい?


 きちんと座りなおした直樹が真摯な目で私達をみるが。


 「とにかくこの件はこのまま俺たちに任せろ、出来るだけのことはやる」


 慰め程度にしか聞こえない。


 私達の完全敗退ムード満載だ、江湖も学園に白蓮があるかの有無くらいは分かるかも、なんて期待をしていた。横目で江湖を見ていた楓はここにいても進展は無いようだ、と結論をだし立ち上がる。


 「期待はしていなが…これ以上は状況を悪くしないでくれ」

 「おうよ」


 軽い返事の直樹、いっそ清々しいまでに頼りにならない。でも彼は生徒会長、私達だけに時間を使う訳にもいかない。


 「行こう江湖」

 「はい」


 気を落ちしている江湖は素直に立ち上がり、私達は必要以上に豪華な生徒会室を二人揃って出た。


 2人とも会話も無く廊下を歩く、次は凪史に相談か?だけど生徒会であの程度しか出来ないとなると…まだ立ち上がってもない執行部にどれだけ力がある?


 生徒会室があるのは教室がある棟ではない、しかも生徒会室のへ続く廊下だ、用も無く通る場所じゃない。なのに向こうから歩いてくる人影、楓は目を疑った。馬來 仙人だったからだ。


 鋭い目で睨みつける楓の視線にもそよ風程度にしか感じていない馬來に更に苛立ちが募る。相手はこちらを完全に視界に入れていてゆっくり歩いてくる。男は真っ直ぐ江湖を見て笑っていた。


 容姿は特別何かなくごく平凡な男子生徒、少し目が狐目かぐらいしか印象に残らない顔だった。ファーロウや凪史みたいに可愛くて小柄ではないし、ヒバリはハンスのように輝くものをもっていない。


 楓の印象は、自分でも分からないほど馬來の顔を見るだけで異様に生理的悪寒を引き起こす。存在自体に、だからといって何がという理由がない。この気持ち悪さは江湖ちゃんの一件を除いても多分楓にはだいただろう。


 それよりも男がどうであれ何故この場所にいるのかが今一番問題だ。ピクッと馬來を見つけて緊張する江湖を私の後ろへ隠すように、江湖の前に出た。 


 「やあ、新井君だったかな?この前はどうも」


 馬來のコメカミには私の回し蹴りで怪我をしたのか湿布が貼ってあった。ざまぁ~。


 其れをふまえて馬來は笑顔で私に対峙している。私も負けずに笑顔で答え。


 「いや~とんだ勘違いをしてしまってすみません、ど・う・み・て・も不審者の以外にも何者でもなかったですから」


 後ろめたさが全くナッシングの顔で平然と答えてやったら、一瞬だけ相手の顔が少し引きつった。


 「君は恐れを知らないね、俺の家は報道関係でちょっと噂を流せば君のような庶民…」

 「止めてください、楓様には関係ございませんわ」


 楓の後ろから顔を出して楓の背中の服を握り締める江湖は、顔だけ出して馬來に訴える。握り締められた服から江湖が震えているのがわかった、馬來の顔をみるだけで昨日の恐怖が蘇ってくるらしい。


 しかも堂々と親の権力をチラつかせるなんて自分自身が無力だって証明しているもんだ。こんなヤツに江湖ちゃんが怯えるのは可哀相。


 「……随分懐いているなぁ?五十嵐。彼は君の王子様かい?」


 不愉快な顔で笑い一歩一歩近づいてくる、笑みに「ふざけるなよ」なんて汲み取れて江湖はますます萎縮してしまい楓は標的を自分に仕向けるために馬來を睨み。


 「どうして貴方が此処に?良心の呵責に耐え切れなかったのですか?ああ…失礼しました、貴方でも良心があったらの話ですね」

 「俺も生徒会長に呼ばれたんだよ。昨日は生徒会長にも誤解されちゃったから、全く気分の悪くなった五十嵐を助けただけなのに」 


 楓は馬來の言い草に肩をすくめて続ける。


 「そうですか、でも普通は病人を資料室に連れて行いきませんよ…貴方こそ病気じゃないんですか?」

 「下手に出ていれば随分なんだな?新井君の口の悪さをしられたら君のファンはガッカリするよ」


 そんなん勝手にガッカリせい、知らんわい。馬來は私の後ろにいる江湖に視線を向けて。

 

 「生徒会長に会った後に渡そうとおもっていたんだ、受け取ってくれ」


 馬來は江湖に封筒を渡す、白い無地で何処にでもありそうなのを。封筒を震える指で江湖が受け取るのを確認すると。


 「では君との会話は楽しいが、時間が惜しいのでこれで失礼させてもらう」


 馬來は横を通って生徒会室に消えた。私は馬來の後姿を見つめながら心の中で、まずその後ろ首にアックスボンバーをしかけよろめくとエルボードロップを加えた上でトドメのクロスフェイスをかましてやる。


 悔しいかな今は想像するしかない、実行したならば確実にもっと立場が不利になる。私一人が責任を負えばいいが江湖ちゃんにも飛び火が飛ぶ。ぐっと我慢するしかない。


 ちなみに先ほどの技は全部プロレス技なんで気になるなら調べ頂戴、特に馬來がクロスフェイスを食らっているのを想像するだけで私の気持ちは軽くなった。


 江湖は渡された封筒を見つめていた、何か書かれているのか知るのが怖いのか固まっている。


 「ゴメン」


 一言だけいうとパッと楓が封筒を江湖から取ると躊躇い無く中を開く。軽く江湖は「あっ」っと声を漏らしただけで咎めなかった。手紙を開くと簡単に。


 『五時に二棟の第三準備室にこい』


 などと書かれていた。そのまま楓は手紙を握りつぶす。江湖も手紙の内容を読んでいて顔を青ざめる。


 「何をされるか分かっていて行くつもりか?」

 「はい…一人で行かせて頂きます」

 「そうか」


 一応聞いてみた、返事は江湖の返事は想定内。楓は無意識に握りこぶしをつくり血が出るほど力を込めた。


 何も無い空間に向かい楓は薄い笑みを浮かべた、陰のある端整な顔で笑うので江湖はそこの知れない畏怖を楓から感じた。


 空間を睨む楓の体には言葉に出来ぬ何かが静かに楓の中に流れる、馬來に対しての怒りに今楓は最高にハイになっているかもしれない。


 「5時か今は4時20分…江湖はこのまま真っ直ぐに部屋に帰ってくれ」

 「楓様?」

 「俺を信じて」


 ニカッと馬鹿みたいに笑い、そして江湖を置いて歩き出した。江湖は楓の背中を見つめたまま見送る。


 さほど彼を知らない江湖はいつもと違う変貌した楓に何も言葉が出せなかった。


 歩きながら携帯電話をポケットから取りだし、電話帳を開かずにそのままボタンをプッシュする。アイツの番号なんて分からないので全て勘だ、でも大丈夫、ほら電話は繋り。


 『誰だ?俺の携帯にかけてきたやつは』

 「新井だ大田、お前協力しろ」

 『なんでてめぇが俺の携帯番号知ってやがる』

 「無駄な時間を使いたくない、江湖が大切なんだろ?今度は守れ」

 『はあ?いったい何の話だ!?』

 


 大田と暫し会話して必要な事だけ伝えると電話を切った。大田の携帯番号を一発で当てた、これはどれぐらいの確率なんだろう。ファーロウが以前言っていたちょっと勘が優れるというレベルではない。


 地球と一体化感すら感じる私の強化された勘、今なら時間も場所も誰が何をしているのかまで分かる。確かにファーロウが言っていた予知能力でない。未来の結果は分からないが今の状況なら何だって分かる。

 

 再び楓は電話をかけた今度はヒバリに。


 『楓?どうだった』

 「すまないヒバリ電話をスピーカーにしてハンスにも聞こえるようにしてくれないか?」

 『うん、分かった。ほら変えた』

 「実は二人に頼みたいことがあるんだ」


 五時までには下準備を終わらせないと。江湖ちゃんにつけ込む馬來、後悔させてやる。

楓の直感の能力が前回に開花しました。楓がどんどん男らしくなっていきます。元女性の醍醐味をなくさないようにしたいのですが、好き勝手に動くので今はまだ彼女に振り回されちゃいます。

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