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20 勘違いだ大田ぁぁ!!

 



 お風呂から上がった江湖ちゃんは私と向かい合うようにソファに座る。私は手にしていたローブピップのハーブティを渡すと無言でお茶を飲む江湖ちゃんを見つめた。


 私は出来ることは全てやった、後はどのタイミングで帰ろうかと考えている、長居するのも迷惑だろう。 


 だって繋がりがろくに会話したこともないクラスメイトだ。


 彼女だって息が詰まる思いをすると思う。


 あんなことがあったしね、男と一緒に居たくないかも。


 立ち上がろうとした瞬間、プルルルルと内線の電話がなる。


 忘れてた、大田にカバンを持ってきてもらうように頼んだったけ。


 しかしアイツ遅いな、多分江湖ちゃんの荷物を入れるのに緊張でもしてたんじゃないのか?其処までいくとちょっとヘタレを通りこし変態の領域に入っちゃうぞ☆青少年よ。


 ピクッと震えた江湖ちゃんを横目で見た私が立ち上がり、壁に設置されている電話をとって出る。


 「もしもし、五十嵐の部屋ですが出たのは貴方の新井ですよ」

 『ふざけんな、新井』


 やっぱり大田だった。ちょっとお茶目のつもりだったのに冷たいお返事。


 「遅かったな?何をしていた」

 『お前…お前たちの部屋を俺が知っているわけないだろう?それで手間取った』


 あらら…変態なんて疑惑持ってゴメンね大田君。確かに何号室に部屋があるって教えてなった。


 大田は呆れたような不服そうな声をする、寮の受付の人に教えてもらうのに苦労でもしたのかもしれない。


 「ご苦労、俺はそろそろお暇するから直ぐに持ってきてくれないか?いま少し人と江湖を会わせないほうがいいと思う、玄関で俺が受け取るよ」


 最後のほうはできるだけ江湖に聞かれないように小声になる。大田も余裕のある私の受け答えに深刻な状況ではないと悟ってくれたようだ。


 『…そうか…わかった。それと新井、一つ聞いていいか?』

 「どうした?」

 『なんでお前は五十嵐を名前で呼んでいるんだ?……もしかしてお前たち』


 やっばい!!声に出して江湖ちゃんを江湖って名前で呼んでた!!


 勘ぐっている大田の声にピシリと凍りつく。


 ううっ…誤解されてませんか?私と江湖ちゃんは貴方が思っている仲ではございませんよ?


 取りあえず弁解せねば、慌てる事ではないだけど一途な青少年の恋心を摘むのは申し訳ない。


 そして私が遠くでニヤニヤと心で笑いながら大田の観察を楽しむ為には、第三者だからこそ出来るってもんだ。(鬼かお前は)


 「何の勘違いをしているかは知らないが、俺と江…五十嵐は今日始めて会話した…」

 「楓様…どなたなのでしょうか?」


 いつの間にか後ろにいた江湖ちゃんが私に向かって声をかけてきた。


 無論のこと大田にも江湖ちゃんの声は届き受話器から大声が響く。


 『楓さまぁ!?やっ、やっぱりお前たち!!』


 えーーーーーーっ!!!


 ちょっと待ってよー!江湖ちゃんこのタイミングでその発言は何事かと思うよ!?


 新井くんか新井さんとか、せめて楓と呼んで欲しかったな。いっきに色々たくさん通り越して流石の私でも様を付けて呼ばれるなんて思わなかった。


 ええい、話がややこしくなっていく!!


 「なんでもない!大田が思っていることは何にも!!ちょっと待て」


 江湖にも振り返って相手が誰であるかを告げる。多分さっき襲った男が電話をかけてきたのかと心配しているだと思う。


 「大田だ、電話の相手は。ほら君の隣の席に座っている赤毛男」


 案の定ホッとした顔になる江湖ちゃんに少し私も落ち着く。


 江湖ちゃんは私の制服の上着を差し出し。


 「そうでしたか、楓様お電話の途中で申し訳ありませんがお召し物を着てあそばせ、お体が冷えますわ」

 『お召し物!!!!』


 受話器を耳から離していても聞こえる大音量。


 大田お前、中々肺活量あるな。


 お召し物って言っても私の制服の上着だ!彼女をお姫様抱っこして部屋まで運んだときに、江湖ちゃんの肩にかけてあげただろ。


 『服を脱ぐような事をしていたのか!!?』


 大声で何を言っていますか!!そこ寮の受付だろうが。


 「オイ!お前は俺の話を…」


 私が勘違いロードを突き進む大田を止めようと受話器を耳に当てるが、受話器から『プープー…』なんて機械音しか聞こえなった。


 ぐううう…。


 分からないがとても大きなものに敗北した気分になる。


 うーん、如何しよう?このまま部屋で待っているべきか私が受付まで行くべきか。


 大田が江湖ちゃんをみたら更に勘違いしそう、だって江湖ちゃんはパジャマに着替えているのだから。


 受話器を戻して江湖ちゃんを見つめる、彼女と目が合うと江湖ちゃんはニッコリ笑った。


 うん、キュート。この子に罪はない。


 太田の勘違いが面倒な事にならなきゃいいが。


 渡された上着を受け取り、袖を通して大田のいるであろう受付に向かおう。


 「今から寮の受付にいってくる。君と俺のカバンを大田が持ってきてくれるから」


 玄関に向かおうとすると、「プルルルル」なぞドアベルの音が鳴った。


 もしかして大田が着たのか速いぞ?


 「ドアを開けてもいいかな?」


 一応は部屋の所有者である江湖に許可を取った。江湖ちゃんも頷き、私はドアについているドアスコープを覗く。


 外には大田が立っていた、全力疾走できたのかうっすら汗をかいて息も荒い。


 そりゃ、気持ちは分かるけど必死だね。…半分以上は私が勘違いさせてしまったのだけど、許してくれ。


 私はドアを開き、複雑な笑みで大田を迎えた。大田は睨みつつも私に無言でカバンを突きつけてきた。


 「ありがとう大田……それでお前は勘…」


 私と江湖ちゃんのカバンを受け取り、先ほどの誤解を解こうとするが大田が私の顔から下へ視線を移したので私も大田の視線をたどる。


 上着は先ほど袖を通しただけで、ボタンは留めてない前はシャツ全開に開きお臍辺りに血がついていた。


 あー…江湖ちゃんの生理の血だわ。


 大方江湖のズボンに染み付いた血がお姫様抱っこした時に移ったのだろう。


 「怪我したのか?」


 大田は私と江湖ちゃんが学校から帰るまで何かがあったと思っている、喧嘩の一つでもしたのかと訊ねてきた。


 「俺の血じゃない」


 でも生理の血ともいえない、江湖ちゃんの努力を踏みにじってはいけない。


 そうだ、返り血で納得してもらおう、そこまで喧嘩強くないが傷ではないといった手前それがいい。


 「これは…」 

 「怪我をしてしまいましたの!?楓様」


 隠れて話を後ろで聞いていた江湖が楓に駆け寄ってきた。


 思わず振り返る楓、そしてその微かな血の後を見つけると江湖は真っ赤になり。


 「わっ!…わたくしの恥ずかしい…血ではありませんか~!恥ずかしいですわ!!」


 顔をおさえて奥へ引っ込んでいった。残された私はどうしろと…。


 そろ~と大田に視線を戻す、大田は幽霊を見たようにプルプルと震えて何とも言えない顔で私を見ていた。


 さて、彼はどう思っただろうか?


 まさか女の子だと気づいていない大田は生理という概念はない、でも江湖ちゃんが恥ずかしい血といって赤面した。


 場所も私のほぼ下半身…トータルして男の江湖ちゃんと私がナニして、アレを傷つけちゃって血が付いた…と。


 無論私がタチだ!!これは譲れん。


 意味が分からない人は大人に聞いてみよう、聞く相手によっては怒られるから。


 追い討ちをかけるように江湖ちゃんはお風呂上り、湿った髪は色っぽいよ。


 無言で踵を返してエレベーターに向かう大田、彼の背中は木枯らしが吹いているように見えた。


 「ちょっと…まってくれ!」


 慌てて私が引きとめようとするが、彼は一度も振り返らず角を曲がって消えた。


 私はズルズルと床に座り込み、どうしてこうなったのか頭を抱える。


 絶対に彼の頭の中では。


 『私→❤←江湖←大田』になっているよ。


 癒しが!私の楽しみが!三角関係決定になってしまった。


 オーマイガッ!!


 「楓様?大丈夫ですか?」


 落ち着いたのか心配そうに私を見つめる可愛い江湖ちゃんになんとか気力を取り戻して、立ち上がった。


 どっと疲れたから私も部屋に帰ってお茶でも飲むかと考えていると、江湖ちゃんが私に近づきモジモジと上目遣いで見つめてきた。


 顔色は先ほどより随分よくなった、お風呂で血行がよくなったんだろう。それはいいとして、まだ彼女は私に帰って欲しくないようだった。


 江湖のりんごのような唇が遠慮がちに開く。


 「もしご迷惑ではなければ、あの…話を聞いてくれませんか?」


 女の子からのSOSを見捨てる楓ではありません。私は頷きドアを閉めた。


 楓と江湖の分のカバンをソファがあるテーブル横に置き、楓は冷えたハーブティを入れ直して自分のを追加し、ソファに座った。


 向かい合い入れ直したハーブティを江湖に差し出した。


 「何から何までご迷惑をおかけします」


 申し訳なさそうに江湖が言うが楓は笑って返した。


 「別に迷惑なんて感じてない」 


 彼女を天然だとは感じてますが。


 一口ハーブティを口に含むと数ヶ月ぶりの味を確かめてテーブルに置いき、江湖を見つめた。


 話すタイミングは彼女に決めさせよう、江湖は目が合うと少し慌てて目を逸らす。


 うむ、愛い!今度それを大田にやってみよう。一発でノックダウンだから。


 「不躾で申し訳ありませんが、楓様は何処でわたくしが女性であるとわかったのでしょうか?」

 「偶然だけどね、先週の日曜日に君と俺はぶつかったんだ。街で、覚えてない?そのときは君ロングヘアーに白いワンピースで完全に女の子だったよ」


 牛丼をヒバリとハンスで食べ店を出た直後に彼女と接触をした。


 「あの時、パパに追いかけられていた頃ですわ」


 慌てていた様子だったので私を見てなかったと思うが、まさかパパに追っかけられていたとはね。


 「何故お父さんに追いかけられていたか聞いていい?」


 きっとこれは江湖が男装をしてまで鳳凰学園にやってた理由と直結していると思う。


 でも、江湖のことを知れるチャンスはもうやってこないかもしれない。出来るなら力になってやりたいと思っていた楓だった。


 暫し江湖は考えて口を開く。


 「はい、楓様はわたくしの恩人。全てお答えします」


 一つ息をついて、江湖は真剣な目で私を見据える。


 「わたくしの本当の名前は五十嵐いがらし 香子こうこですわ、五十嵐旅館の一人娘にして家を継ぐ女です」


 ふんふん、きっと老舗なんだろうな。この学園に入れるって事は。無言で頷く私に続きを江湖は話す。


 「代々わたくしの家は女が当主となり、その証に家宝の宝石を譲り受けるのですが…その家宝の宝石をわたくしのせいで紛失してしまいました」


 唇を噛む江湖に楓はかける言葉が見つからなかった。

続き江湖の学園に来た理由でございます。

途中で大田が暴走してしまいました。今は反省しています。

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