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19 冷えは女の子の敵

 




 直樹が資料室から片手軽々とゲスをつれて消えて数分、江湖が落ち着くのを楓は抱きしめたまま待った。


 とにかく彼女をこのままにしては置けない、出来るだけ優しい声で「大丈夫?」と訊ねると江湖は頷いた。


 うむー…どうしよう…。立てるかな?


 そう江湖に聞いてみると戸惑った顔をした。


 顔も青くとても先ほどのショックもさながら健康的な顔色ではなかった。


 体も随分冷えている、部屋も寒いので長居は無用。


 仕方なし、江湖ちゃんには少し恥ずかしいかも知れないが、此処は一つ我慢もらおう。


 楓は自分の上着を江湖の肩にかけると。


 「よっと」

 「きゃっ!」


 江湖を俗に言うお姫様抱っこをして体を起こす。江湖の体が冷えもう日が随分傾いた時間帯に外へ連れて行くのは更に冷やす。


 紳士的に上着を貸し、さっさと寮へ帰ろう。


 ついでに江湖ちゃん君は男装しているつもりなら「きゃっ」は無いよ?可愛いけど。


 さらにお節介を焼くならもっと体重増やしなさい、軽すぎ、華奢すぎ。……羨ましすぎ。


 「あの…あの…」


 江湖が躊躇いつつ楓に話しかける。


 「何?」


 顔を赤くして下半身をもじもじしているのが抱き上げた振動で分かる。もしかして、トイレかな?


 でも男子便所しかない。普段は何処でしているのだろう?


 女の頃なら兎も角、男の姿で女の子に「トイレ?」って聞くのもな?


 でも黙っていても江湖ちゃんが困るだけだし、言いにくいよね。


 「トイレ?」


 聞くと案の定のこと顔を真っ赤にした。


 私が見張れば(入り口で)個室を利用できるかな?


 「ちっ違いますわ!」


 違うらしい、恥ずかしさからの嘘かも…と思うが私の勘はなんとなく本心に聞こえて。


 なら何だろう、6時限から体調が悪かった+下半身が気になる+女の子=………。


 「もしかして、生理?」


 閃いた楓は直球ドストレートに聞いてしまった。


 江湖が女の子だと知った上で、生理は私にも女の頃の経験があるから短直的に思いついただけ。


 「な…な…なんで…」


 驚愕の顔で楓の顔を見つめる、何で?って言われても。


 「それよりもどっちなんだ?生理なら速く君の部屋へ連れて行く、トイレなら付き添う。選んでくれ」

 「…お部屋に帰りたいですわ」


 観念した声で答える江湖に楓は頷き、それっきり黙り江湖は楓の胸に顔を預ける。


 「よし、捕まっててくれ」


 決まればこの部屋に用はない。あの生徒のお陰で印象も悪くなってしまった寒い資料室を後にした。


 部活をするものは部活中、用事もなく寮へ帰る者はすでに帰宅している時間でも、寮へ向かい帰宅する生徒が少なくとも存在した。


 それでその中を歩く楓と江湖に視線が行くのは当然で、ものすごく見つめられています。


 散れ!見るな!江湖ちゃん顔が真っ赤になっているだろうが!!


 半ば八つ当たりのように周囲の生徒を威嚇しながら寮へ向かうが、もう少しで寮につくという場所に大田がいた。


 大田は楓の腕の中にいる江湖をみつけると急いで駆け寄ってきた。


 お前は江湖の王子様になりたいなら、もっとしっかりせんかい!このヘタレ王子が!!


 お前のお陰で間に合ったが、お父さんの評価を落としたからな。まだ江湖ちゃんはお前には任せられん!


 顔に出さず勝手に父親を気取る楓にエスパーでない太田は気づかず、息を切らして2人の前に立つ。


 「何があった?」


 当然のように聞いてくるが、お前はもっと周囲に気を配れ。ほれ江湖ちゃんが大田の視線から逃げるように更に私の胸に顔を押し付けただろう?


 「ここで話す気はない、悪いが俺のカバンと江湖のカバンを教室から持ってきてくれないか?」


 数人だけどさりげなく立ち聞きしている生徒に気づいて、大田は頷いた。


 この学園は噂好きが多いのを大田も知っている。


 「ああ…分かった」

 「すまない、俺の部屋か江湖の部屋にいるから内線をかけてくれ、頼んだ」


 一分一秒でもさらし者になっている江湖を部屋に連れて行きたく、大田の返事を待たずに寮の中へ入った。


 エレベーターに入ると両手を塞がっているため江湖ちゃんが自分の部屋がある階のボタンを押してくれて、必然的に行き先が私の部屋でなく江湖ちゃんの部屋になり、江湖ちゃんも自分の部屋が何号か教えてくれた。


 江湖の部屋のキーであるIDもカバンでなく、ちゃんと内ポケットに入れていたので私にお姫様抱っこされたままロックを解除。


 私は靴を脱ぐと江湖ちゃんの靴も脱がせる。


 さて、どうしようかな?


 とりあえず江湖ちゃんを下におろさなければ、部屋は一人部屋らしい、静かなものだ。


 入るときに見たが名前のプレートも五十嵐 江湖以外の名前は載ってなかった。


 まあ、一人部屋じゃないとキツイよね、男装している身には。


 ダイニングキッチンには大きめなソファがあったので其処に彼女を降ろす。その前にキッチンに掛けていたタオルを江湖ちゃんのお尻の下に敷いてから。


 別にソファが血まみれに汚れる心配はしてないけど、不安になっている江湖ちゃんを精神的に安心させるためにやった。


 そんなに大量の出血をしたら病院にいったほうがいいと思う、個人の差はあるが現に資料室の床は汚れてなかったし。


 とにかく、まだ顔色はさえない。あんなことがあった後でさらに血の気が引いていると思う。


 えーと、生理の時はどうするんだっけ?私は少し痛みがあるが体育を休むほどでもない(酷い生理痛の友達から呪ってやるとまで言われた)から苦しいと感じたら生理痛のクスリで解決したんだよね。


 肝心のクスリはここで売っているのだろうか?インターネットで取り寄せても数日はかかる、欲しいのは今なんだ。


 それに男しかいない学園の保健室とコンビニに期待は出来ない、ならそれ以外では……。


 女子高の時代を思い出す、女友達の子が確か体を冷やないように気をつけていた。


 だったら丁度いい、お風呂にでも入れて先ほどの事も含めてさっぱりしてもらえばいい。


 楓を見ないように俯いていた江湖に優しく声をかけ、彼女の視線に合わせるように床に膝を着いた。


 「体が冷えすぎている、俺が風呂に湯を溜めるからそこに座っていて」

 「でも、わたくし」


 立ち上がって江湖の頭を撫でる、にっこり笑い。


 「迷惑だと思っていたら最初から君を探したりしないよ」


 ね?と語りかけると素直に江湖も頷いた。


 本当は洗剤で湯船を掃除したいが時間がないからシャワーで流す程度で、湯船に湯をはった。


 シャワーだと貧血を起こして倒れる可能性がある、そこまで生理が酷いかは知らないけど先ほどの精神的なダメージを配慮して湯を入れた。


 着替えは本人でとりに行ってもらうとして、私は江湖を浴室向かわせてからキッチンの方へ向かう。


 お風呂に入っている隙に失礼ながら他人の冷蔵庫を拝見。クスリがないなら他で補うしかない、でも冷蔵庫は空っぽ。


 多少の軽食はあるが鉄分とビタミンを摂取できる食べ物は少ない。因みに江湖ちゃんの今日の朝はサンドイッチみたいだ。


 どうしたものかと考える、今から肉類を買って料理するのもな?がっつりレバーって気分ではないだろう。


 うーんと考える食べるは除外して、飲みやすいはホットミルク…でも、なぁ?もっと良いのないか?


 あっそうだ、私の母さんが一時ローズピップのハーブティにハマッた時期があった。


 今はカモミールのハーブに移り、見向きもしない。余った粉末を貰ったけ、あれは鉄分も取れるらしいし体も温まるからいいな。


 どうせ母さんは飲まないから、引越しの時に荷物に放り込んだ記憶がある。


 そうと決まれば膳は急げ、私は自分の部屋に戻り私の帰りを出迎えた猫ファーロウを飛び越え、自分の城となっているキッチンへ向かう。


 「どこにしまったけな…」


 帰ってくるなりごそごそ台所を漁る私に、ファーロウが不思議そうな顔でテーブルに登り覗く。


 『何をやっているのですか?』

 「ゴメンね、説明は後でさせてもらうわ…紅茶やハーブティ何処にしまったか知らない?」

 『それでしたら僕が納めましたよ?そこです』

 「サンキュー」


 猫の手がさす方向のキッチンの収納ドアを開くと、お目当てのローズピップ発見、ついでに使いきりタイプの小分けされたハチミツを持って急ぎ江湖の部屋に帰った。


 後ろで楓さ~ん、なんてファーロウの声がしたが今は急ぐので許してくれい!

 

***


 「クソが!!」


 直樹が生徒会室に帰ってくるなり、近くにあった黒壇の和風本棚を派手な音をたて蹴った。


 「八つ当たりは止めろ」


 直情型の直樹が物に当たるのは珍しくない、顔も上げずにパソコンのモニターを見つめる志水しみず りょうに舌打ちをした。


 「結果は?」


 それだけに興味がある怜が先を急かす。


 直樹は自分の専用になっているソファに音をたてて座ると両手を挙げて。


 「ほぼ確定の無罪放免、俺がちゃんと目撃してんだぜ?狼がウサギちゃんを食らう寸前をさ!」


 もう一度クソが!と叫ぶ直樹に怜がため息をついた。


 直樹には双子の溺愛している妹がいる、可愛いと問われれば逞しいって意見が似合う子だが直樹にはかけがえの無い妹だ。


 だから女性が被害にあう事件は忌々しい。


 そして、この2人は五十嵐 江湖が女性であることを知っている、彼女が転入直前に知らせたのは理事長直々に。


 訳ありでこの学園に入るからちゃんと守るように、とのお達しがあったからだ。


 何故許可したのか?と怜が問うと「面白いから」だと。


 流石に直樹の親族なだけはあると、怜は妙に納得してしまった。


 で、2人して気に留めていたのに。


 しかも偶然に怜が学校のシステムにアクセス(違法)していた時に、許可もなく誰も使用しない資料室のロックが掛かっているのに気づいた。


 何があるわけでもないが一応は確かめておいたほうがいいと、生徒会長でありながら仕事をしない直樹に向かわせた次第。


 あの出来事だった。


 生徒を捕まえた直後に携帯で内容を知らされ、直樹が問題の生徒を生徒指導室に連れて行って手ぶらで帰ってきた。


 怜は手馴れた手つきでモニターに移っている画面を一枚の紙に印刷して直樹に渡す。


 渡された直樹は顔をしかめた、プリントには顔と名前と彼に関する情報が載ってある。


 名前はⅢ-C 馬來うまき 仙人せんとあの五十嵐を襲っていた男だ。


 直樹は男の顔を見た瞬間に顔をゆがめた。


 むかつく、この男は自分と同じ同姓同名である全国の馬來さんと仙人という名前の人に謝れ。


 彼の家と五十嵐家はビジネスで繋がりがあり、お茶会などで性別を偽ってない江湖に面識があるとプリントは語っていた。


 直樹と怜も三年だが2人ともⅢ-A。ヤツの顔を知らなかった、目立つような生徒ではない。


 しかも素行の評価は上々、むしろ教師の印象では引っ込みがちという。

 

 再びパソコンへ視線を移したまま怜が率直な考えを言った。


 「コイツを学園から追い出すには五十嵐本人による立証が必要だな」


 プリントの馬來に向かって直樹がパチンと指で叩く。


 「無理だろう、それでは五十嵐の女である事実も暴かれる」


 怜はパソコンから顔を上げて、指で自分のメガネの位置を直す。


 芋づる式に馬來と五十嵐との家同士の交流関係に触れられれば、五十嵐の性別まで分かってしまう。


 理事長だけに知られるならまだいいが…それで済む保障はない。


 直樹が印刷された写真を見つ呟く。


 「それだけじゃないな…」


 渡されたプリントにもう興味を失い、紙飛行機を慣れた手つきで折り飛ばす。


 す~と滑降して床に落ちた。


 「多分なんかあるな、あの2人には…それがきっと鳳凰学園に転入した理由だと思うぜ、俺は」


 生徒指導室で事情を聞いていた直樹は馬來からそれらしい事をチラつかされた。


 先ほどの事件での馬來のストーリーは顔色が悪い五十嵐を廊下でみつけ、倒れそうになっているのを近くにあった資料室へ運び看病していた、だとよ。


 寧ろ、楓から暴行を受けた自分こそ被害者だと言い張ってきた。


 しっかし楓の蹴りは見事だったな~思い出しても笑えてくる。


 それで楓の立場が悪くなるとは思えない、なんせ凪史の大のお気に入りだ。狙いが五十嵐ならばとりあえず大丈夫だと思う。


 雲行きが怪しくなれば、高木ヒバリと泰堂ハンスのナイトもいる。


 第一、相手が新井 楓だ。顔は素晴らしく綺麗だったが中身は猛獣、下手に手を出せば食われる。


 まぁ、2人に何かあれば俺も全力で潰してやるよ。伊達に生徒会長やってないぜ?


 その前に、凪史に貸しを作っておくのも悪くない。


 「あ~あ、凪史が先に唾つけてなかったら俺が貰っていたのに」


 面白げに、それでいて直樹は残念そうに呟いた。


***



 楓がいい具合に粉末が溶け込んだハープティをコップに注ぐ、すぐにローズピップの香りが広がる。


 そこに飲みやすいようハチミツを垂らす、かき混ぜたら完成。


 タイミングよく江湖も浴室から出てきた。


 楓が振り返りると、妖精と間違えそうな江湖の姿。


 か・わ・い・い!!勝訴!!


 パジャマがふわふわでモコモコの暖かそうなピンク色なんて反則。


 もーどこまでいっても子ウサギなんだから!


 そんな萌えているのを顔には出しませんが、心の中では命一杯叫びました。

話が進まないのは諦めました、楽しく小説書ければもう其れでいい!!

開き直るのって大切だと思います。

スロー展開万歳!

よろしければ感想などお待ちしております。

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