13 楽しい昼食
昼休み、食堂でヒバリとハンスが見かけない人物と「仲良く会話」しながら現れた時、その場の空気が固まった。否や、皆が彼らの関係に気になって、三人の会話を聞くのに全てを集中した様な。
そんな静けさに陥った。三人は気にする風もなく楓を中心に主に雑談をさえずり合う。
暫くして食堂に入ってきた三人を話題にヒソヒソと顔を突き合わせて皆が声を潜め囁き合うのだった、久々のスキャンダル。
しかもその話題の三人はアイドルやイケメン俳優も裸足で逃げ出すほどの超美形。
ヒバリは言わずと知れた政治界のドン、高木首相の息子。柔らかい容貌に栗色の髪はクセ毛がはいって好青年の印象を強くする。
そのうえ誠実で優しい対応と、爽やかな笑顔で密かに堕としてきた数はしれない。
もう一方はハンス、祖母はドイツ人によってハンスは見事な白人の顔立ちを受け継いだ。濁りもない明るい金髪は少しの光でも淡い光を放つ。
身長も180センチの長身から出せるスラリとした長い足がとても素敵。人がやっても胡散臭い動作さえ、ハンスがやればさぞかし絵になるだろう。
頑固で伝統に厳しい祖母のおかげで貴族の優雅さを兼ね備え、無論学問にも秀でる。
一人でいるだけでも自然と目をひく2人が揃って現れ、その上に2人の中央に立つ見慣れない美男子が一人。
今誰もが注目する噂の転校生、新井 楓。
鳳凰学園ではほとんど例のない転入、それでも話題になるのに。楓のもつ人間ばなれした顔の構造に皆、魅入る。
彼の艶のある黒い髪がさらさらと絹のように風でゆれ、人より鋭どめの美しい容貌は若干整いすぎ、外見は一般の同世代よりも一線を引いていた。
コレは盗み聞きしない手はない興味津々な目をしていた。
噂の元の楓たちは……。
丸いテーブルに目をつけて楓をはさみヒバリとハンスが座る。右にヒバリ左にハンス、2人ともニコニコ笑っているが表面下では壮絶なバトルを展開中。
転校生の楓が食堂のシステムを知らないためにヒバリに教えを請おうとしたときにボーイが飛んできた。三人分のグラスを乗せた銀ピカのトレイを手の上に持って。
ボーイがメニューを渡してくれる(学校の食堂でボーイってなによ?)から受け取った。
メニューの内容も充実されて和食・洋食・中華をはじめトルコ料理エスニック料理等々。もう長くなるんでもういいだろ?とにかくすごいの。
ボーイに注文すると料理が来るまで待つ、代金は学生費と一緒に引かれるらしい。
程なくして三人分の食事が数人のボーイによって運ばれた。楓とヒバリは和食「季節の旬野菜と京都の湯葉と湯豆腐御膳」ハンスは生うにクリームパスタとバターがついたパンにコーンスープとサラダ。
質素そうにみえて、料理の作る板前からコック、料理の素材には並大抵のレストランや料亭では太刀打ちが出来ない品々である。
両手を合わせて「いただきます」と合掌して楓は旬の野菜料理を食べる。
「美味しい」
と楓が言えば。
「ええ、美しい楓さんと食事ができるので普段よりずっと美味しいです」
ハンスがさりげなく口説き。
「僕は楓とルームメイトだから朝夜もずっと美味しいけどね。しかも楓の手作り」
挑戦状を叩きつけるヒバリ、遠まわしの挑戦状を確かに受け取ったハンス。分っていないのは楓でただ一人だけ。2人の会話から蚊帳の外状態な楓は。
「2人は仲がいいんだな?」
と言葉のスパイクを2人に打ち込み、2人は笑顔で楓に向き合い。
「「ありえません」」
見事なシンクロ率で楓に返す。
ありー?と首を傾げる楓。
さきほどからそんな感じの繰り返しだった。
そうそう、ハンスは最初は私の事を「新井さん」と呼んでいたが、私もハンスと呼ばせてもらうので「楓さん」とハンスは呼ぶようになった。
私もハンスに関しては泰堂と呼ぶより、ハンスと呼べるほうがいい。日本人の苗字なのに顔は9割外国人だから泰堂よりハンスというのが彼には似合っている。
お互いの親交を深めつつ、楽しい(少なくとも楓は)食事を遠くから観察する生徒達は誰も近づけない、だが注目の3人が座るテーブルに近づく一人の男子生徒がいた。
ヒバリとハンスは数メートル前に誰かが近づいてくるのを察知してその方向を振り向くが、楓は自分の食事に夢中で気付くのが遅れた。自分の後ろに立たれる気配を感じてやっと振り向くと小柄の少年が立っていた。
「ぼくの所へ来ないなんて、どういう了見なんだい?」
腕を組んで高飛車、よく言えば威風堂々の態度でイスに座る楓を見下ろす。
「えっと…加藤だったか?」
楓が後ろを振り向いき凪史の名前を出すと凪史は少し眉を上げた。
「凪史って呼んでよ。それより、ぼくのこと忘れてたわけじゃないよね」
「滅相もございません、だけど学年が違うし。そうそう会いにいけるかよ」
「関係ないね、君が来ればいいだけの話しだ」
なんて尊大、しかし凪史の我侭は学園でも有名な話。理事長の息子のポジションを盾にとって威張っている訳ではないのだけど、産まれて一度も叱られたことがないのでは?なんて噂あるお高いっぷり。
子供に言い詰められている楓にとっては、小学生が拗ねている様子にしか映らなくて、ちょっと微笑ましく思っているだけ。
こんな態度で一々目尻を吊り上げていたら生意気なお弟の相手など到底できない、楓の弟は実に屁理屈ばっかり言う。(朝ごはんと弁当作ってやっていたのに)
「ちゃんと聞いている!?」
ぼ~っと弟と凪史を重ねていたら話を聞いていない楓に凪史はますます顔が険しくなってきた。
「そんな風に『姫君』が声を荒げては貴方のファンが減りますよ?」
楓と凪史のやりとりを傍観していたハンスが2人の間に口を挟む。『姫君』の単語がでるやいなや凪史はハンスを鋭く睨みつけ。楓も豹変した凪史の表情に少し訝る。
「ぼくのことを『姫君』と呼ばないでいただきたい、泰堂氏」
ハンスはニッコリ爽やかなスマイルを凪史に送る、「知ったことか」といわんばかりに。
「そうですか?私は別にこの愛称は嫌いではありませんよ、凪史君」
姫を強調するハンスの目は挑戦的な光が宿っていた。
「なんだ?姫とか」
「あ…うん、ちょっとね」
ヒバリは楓からの質問に言葉を濁す困ったような笑い顔を見て、楓は首をかしげた。
「あんたは知らなくていい」
凪史は不機嫌な声でヒバリと楓の会話を断ち切る。
「言葉使いは気をつけましょう。失礼ですよ、上級生には敬意を示さなくては」
やんわりと凪史をハンスは嗜めて、凪史は露骨に顔を歪ませた。口でハンスを黙らせるのは相当の疲労を伴うと判断して睨むだけにとどまる。
「――……楓。13日の放課後、第6校舎66資料室へきて」
楓に其れだけを言うと凪史は不機嫌な顔をして去っていく。黙って見送る楓の脳裏には666の不吉な文字。
いや、不吉な数字の定義なんて各国様々なんだけどね。金曜日じゃないが13日も何だかな~そういうの気にしないタイプだけど…あんまり行きたくない感じ。
後思えばこの私の直感は当ることになる、直感は信じろとファーロウに言われたのにな…実にトホホ…と呟きたくなる事態になるとはこの時は知らなかった。