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12 私の隣は皇子様

 授業開始の鐘がなったら楓は皆仮に連れられて、これから一年間お世話になる教室まで案内してくれる。朝のHRに皆仮から自分の名前が呼ばれるのを無人の廊下で待っているとソワソワしてきてネクタイを直したりして楓は落ち着かない。


 教室の中は静かであるが何となく地に足がついていない雰囲気だった。ただ自分が少々緊張しているから感じているだけか。


 意外にもそれは楓の勘は外れてはいなかった。一方教室にいるヒバリは楓が入ってくるであろう廊下の扉を見つめる。


 時期外れの転入生にして超がつくほどの優雅な美形、噂はもう広がっていた。その噂でヒバリが自分のクラスに楓が来ると知って誰も見ないところで一人ガッツポーズを決めた。


 今は自分の席に座り、楓が来るのを静かに待つ。周囲がヒソヒソどれだけ美形か予想や転入した経路をあれやこれや噂をしている。


 転校生で昨日から話題が途切れないクラスメイトに苦笑いを漏らし、少し優越感を感じていた。その優越感がどこから来るのかは分らないのだけども。


 (きっと誰の予想よりも想像よりも楓は綺麗だ…)


 必死に夢を膨らませている周囲に心で呟く。だってあんなに綺麗な人見たことがない。


 「やあやあ、おはよう。なんだ~…気持ちはわかるけど…」


 皆仮が教室へ入ると落ち着きのない生徒諸君をみて第一声がこれ、しかも皆は先生の言葉なんか聞いていない。 早く紹介しろって雰囲気がクラスから漂い皆仮はあからさまな生徒の態度に笑い呆れ顔をすると「新井君」と呼びやった。


 はい。と軽く会釈しながら教室へ入る、その人。


 クラス中の視線が彼に集中する、教室に入って来た人は緊張している様子もなく黒板の中央まで歩く。


 (楓だ…)


 ヒバリは心の中で呟く、そうしてそっと周りを窺うと皆が見とれていた、無理もない。艶やかな黒髪に涼しげな目元と均等のとれ尚且つ長身の体。


 顔の構造が整っているだけでない、彼のかもしだす雰囲気も何もかもが人を魅了した。そんな彼がルームメイトなのだと思うと何という優越感。


 クラスの中で自分以外の誰も彼が意外に面倒見よく、家庭的で整った風貌に似合わず社交的であると知っているのだろう。


 そうか、これが優越感の正体だったのか。ひきつけて止まない彼を誰よりも知っている。なんていい気分。


 無意識に笑顔になってしまう、教卓の前にいる楓と目が合うと楓も軽くヒバリに笑みを返した。


 君は綺麗なのだから、そんな笑みを僕以外に見せたら他の人が勘違いするじゃないか。ほら、周りの奴らも頬染めている。……。なんで僕モヤっとするんだろ?


 ヒバリは自分の胸を制服の上から掴んだ、僕だけに微笑んでくれたのに素直に嬉しくない。


 教師の皆仮が何かを言っているみたいだけどヒバリの耳には入ってこない、すると楓がヒバリの近くまで歩いてきた。


 「あれ楓?」


 楓はヒバリの前に置いてある空の机に座った。ヒバリが驚いた声で出すので楓は後ろを振り向いてヒバリと顔を付き合わせる。


 「あれ?じゃないよ、俺この席に決まった。ヒバリの近くでラッキー」


 ニカッと楓は笑い、ヒバリにVサインを見せる。


 丁度ヒバリの前の席が空席だった、詳しい経路は知らないがこの学園の誰かの不興を買って会社が倒産したとか言われているのだが真偽は知らない。そもそも興味はない。


 それよりも重要なのは楓が目の前にいること。


 「んじゃ、ますますよろしく」


 ヒバリにこれからも頼ると楓が言っている、それにヒバリは「喜んで」と返事して2人は笑いあう。


 「あー、仲良しなのは結構。HR続けていいか?」


 皆仮が2人に声をかけると楓は慌てて前を向いた。


 そうしてHRは滞りなくすませ、皆仮は教室から出て行く。待ち構えたように担任が教室からでた瞬間クラスの生徒がいっせいに楓に集まった。


 ヒバリだって楓と会話したくても、周囲の波にヒバリの声は呑み込まれていく。


 「ねえ、新井君はどこからきたの?」

 「恋人はいる?」

 「好きなタイプは?」

 「メルアドと誕生日と血液型とスリーサイズ教えて」 


 360度囲まれて次々出される質問に楓はてんてこ舞いだ。さり気なくスリーサイズとか聞こえてたけどなんだったんだ?


 楓が答える度に歓声があがり、蟻が飴に群がるように同級生である男子生徒が遠慮のえの字も無く質問詰めにする。

 

 「…目障り…」

 

 突如響いた冷たい声が教室に静かにも通る音量、ピシリとクラスが凍りつく。


 無論、楓が発したわけではない。まさかと思いながら楓が後ろを振り返るとヒバリが爽やかな声「どうしたの?」グットいい笑顔で聞いてきた。


 聞き違いだよね…ヒバリの声がした気がしたなんて。


 生徒たちは蜘蛛の子を散らすようにスゴスゴと自分の席に戻っていく。何人か「くわばら、くわばら」なぞ青く呟きながら。


 「人気者ですね、新井さんは」


 周囲がすっきりした所で楓の隣の席に座っている少年に話かけられた。最初から隣の席に座り楓を見ていたみたいだ。


 金髪の蒼眼で白人の白い肌、夢見がちな少女がまず思い浮かべる王子様が絵本から飛び出たみたいな人。彼はヒバリのような好青年の爽やかさではなく、どちらかとい言うとイギリス紳士落ち着きある気品と風貌。どっから見ても上級階級と思わせる物腰で笑い楓を見つめていた。 


 「どうも、えーと…」


 此れでもかと言わんばかりインパクトのある人物が隣の席にいたのに気付かなかったとは、どうなんだろう自分。それ以前に名前を知らないし。


 相手から手を伸ばして握手を求めてくる、楓は躊躇なく握手をすると相手の口が動く。


 「泰堂たいどうハンスと申します新井さん」


 実に丁寧な挨拶でございます。育ちのよさが感じられた、握手の動作一つもたいへん優雅に。


 「よろしく…たいどう?泰堂…・・・もしかして泰堂医療グループ…の泰堂?」

 「はい。母が総代を務めていますよ」


 泰堂財閥は薬品メーカーの超大手、というか病院や薬局や化粧売り場で泰堂の商品が置いてない売り場はない。それぐらい、私も一応女だったんでサプリメントや化粧品を買うからどのくらいの企業かは存じている。


 「はあ、横は泰堂のご子息で後ろが総理大臣のご子息、凄いな俺の周り」

 「そんなに構えないでください、私はただの学生です。貴方と同じ」

 「いえいえ、ご謙虚なお言葉。ところで握手はいつ終わるんだ?」


 握手を交わしてから楓はハンスから手を離してもらってない。ギュッとハンスに包まれたまま、手をブンブン振ってみても外れない。


 (意外に力持ちさんかも…つーか離せよ!!)


 ムキになりハンスの手を外そうとしている楓に。


 「新井さん」


 優しい音色でハンスが。


 「貴方を愛しています」


 ……と楓に囁く、楓は思わず笑い噴きヒバリは手にしていたシャーペンを握りつぶす。


 その瞬間、教室の温度が2~3度低くなった。


 「面白い冗談だね。初めて知ったよ、泰堂さんがこんなに愉快な人だったなんて」


 笑っている楓に変わって後ろの席に座るヒバリがにこやかな声でハンスに牽制する、しかも目が笑ってない。ハンスは少しだけ挑戦的な目で笑い。


 「本気です。新井さんを一目見た瞬間、私の心は奪われました」


 穏やかな顔でやんわりと答えた。周囲の生徒たちは普段みられないヒバリから漂う負のオーラに怯え、誰一人仲裁に入る猛者は一人もいなかった。


 「ははっそんなに簡単に奪われる心なら、さっさと返してあげたら?楓」


 ヒバリを振り返りつつ握られている手を加速させて張り外そうとしている楓は呆れ顔。


 「返すも何も盗ってない、ハンス手を離してくれ。疲れてきた」


 ハンスは困った笑みを作り。


 「すみません、分っているのですが離れたくありません」


 今までにないキャラに楓も数秒ぽかんとハンスに呆気にとられて面白げに笑う。ハンスも上品な笑みを溢す。


 (堅苦しいと思っていたけど案外面白い学園なのかも)


 嬉しくなって愛想笑いでもない心からの笑みを見せた。途端バタバタと楓の顔を盗み見ていた生徒たちがイスから転げ落ちる。


 「うお!なんだ?新種のウィルスか?」


 クラスの殆どが机に頭をくっつけているかイスから落ちた。楓は一人訳がわからず周りを見渡すが、まさか自分が原因などと思うはずない。


 「罪作りなお方だ」


 ハンスは苦笑いをし。(手はまだ握ったまま)それだけは同意できるとヒバリも頷く。しかし(いい加減手を離しなよ)と毒づく。

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