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11 初登校と担任

 



 食事を終えて食器を食器洗い機にかける、高いだけあってメチャ乾燥速くて感動した。


 最新の食器洗いに感銘を受けつつ、私は明日のために早めに就寝することにした。今日は荷物整理と結構クタクタだった、加えて新しい環境に体が疲れてきている。 


 2人と一匹だけで開催された歓迎会を手短に片付けると、一気に気の抜けた体を引きずってベッドの中を這いずるように布団へ潜った。


 『お疲れ様、おやすみなさい』


 猫のファーロウが楓の枕の横で丸くなると、一言言って猫の小さな瞳を閉じた。楓も返事をするとすぐに目を閉じる。


 暫く無音がする室内で楓の寝息が聞こえる頃にファーロウが目を開ける。


 ファーロウは猫のまま音もなく動かし、ベッドから降り、ドアの方へ向かう。ドアのノブを触らずにそのままドアを通り抜けた。


 賢者ファーロウにとって壁抜けなど初歩の魔法、誰の手も借りなくてもドアなど開けるまでもなく通りぬける。


 歩みは廊下を通り、リビングへ。その歩みのままリビングの向こうにあるバルコニーに向かって歩いていく。バルコニーのガラス扉を通り外にでると夜月が猫を出迎えた。


 助走もなしにバルコニーの手すりに軽い身のこなしで乗ると一面の森の風景が視界いっぱいに映った。室内は最新のデザインで溢れているので、此処が森の中に建っている学園だったのを忘れてしまいそうになりそうだが、数キロ離れた森の木がまるで監獄の牢に思えるほどの威圧感を持っている。


 学生にしたら閉鎖感を与えるだろう森も、ファーロウにとって何の感情を引き出すものではなく彼の興味は森ではない。それよりももっと近い、真下。


 地面を無表情で見た。


 ファーロウの視線の先にこの寮の寮長である竹丘が立っている。相変わらずボサボサの頭に緩い服装の身だしなみ、しかし竹丘の視線は真っ直ぐとファーロウが手すりにいる部屋。


 434号に向かっていた。人間の視力では明かりを消した部屋の在り処など並大抵では見つけられないのに、竹丘は真っ直ぐに見上げている。


 ファーロウは暫し彼と見詰め合っていたが鼻を小さく鳴らすと何もなかったように楓が寝ている部屋へ引き返えす。


 竹丘は苦笑いを小さく溢すと、肩をすくめて再び434号に目を向けた。まるで彼の目は小さな幼子が月を欲しいと手を伸ばす姿によく似ていた。


***


 聞きなれた手のひらサイズの目覚ましの音で6:00に楓は目を覚まし、楓は欠伸をしながらファーロウを連れてパジャマの姿でキッチンへ向かう。


 ご飯に味噌汁、作り慣れただし巻き卵を焼き、昨日の残ったお惣菜を朝食にしてヒバリと一緒に食べた。その後ヒバリは部活の朝錬に一足先に学校へ出かけていく。


 ヒバリは朝からガッツリと朝ごはんを全て平らげた、明日からもうちょっとおかずの量を増やしたほうがいいと心で楓は呟く。


 七時になるまではのんびりリビングで緑茶を飲みつつファーロウと一緒にテレビを見てたわいの無い会話をしながら過ごし、そろそろのんびりと身支度を開始し始める。


 制服を着ると、洗面台に行き顔を洗って歯を磨く。


 鏡に映る自分は相変わらず美青年でいらっしゃる、時々この顔であるのを忘れてしまうのはまだ認識不足な証拠で誰かに見られても「何で見られている?」とか素で思ってしまったりして。


 梳かした髪にワックスをして整えて――幸い髭は女の頃と変わらない位に薄いんで再々剃る心配ない。あんまり髭剃りってすきじゃないから助ってる。


 「じゃ、行って来ます」

 『いってらっしゃい』

 

 身支度が済むとカバンを持って434号を出る。玄関で猫のファーロウが見送り部屋は自動でロックがかかり、部屋にファーロウを残して学校へ向かう。


 寮から校舎への道を楓は歩きながら胸ポケットを探り、IDカードを出してもう一度自分のクラスを確かめた。


 カードに印刷されているクラスはⅡ-A、確か私のクラス担任は皆仮だった、けな。


 事前に理事長から貰ったパンフに記載されていた顔写真と名前は覚えていたので知っている、職員室について問題ないでしょう。


 8:00丁度に校舎に着くように寮を出ると流石に校舎へ続く道は登校する生徒で賑わう、学生の人多さは最高潮を迎え道は肩をぶつけて込み合う程でもない、歩くのにとてもスムーズ。


 それは良いとして……四方八方から視線を感じる…。


 どうせこれからも嫌でも視線は暫くついてまわるのだろうな…ヒバリの話では転入生はめったいないって話だ。世間から隔離されていると言ってもいい環境の中では話題がすぐに広まると聞いた。


 ネット環境やテレビで情報が充実していても、所詮山の中、身近な話題に飢えているのだろうよ。


 山の新鮮な空気が風に乗って楓の髪を撫でる、そっと髪を抑え前髪からかき上げて後ろへ流すと「パシャッ」と音が。


 音がしたほうへ振り向く、側にいた生徒が後ろへ何かを隠す。楓はそいつの一連の動作に肩をすくめて幾分気分を害したが顔には出さず歩く速度をあげる。


 不審な行動をした生徒は、後ろへ隠した携帯電話の撮った楓の静止画像を嬉しそうに保存していた。


 さまざまな方角から視線を背中で感じつつ校舎のへ入ると職員室へ向かう。


 私の元いた高校教員はそれぞれの役割ごとに大きな部屋に共同で使用しているのだけど校舎が広く、見るからに部屋が有り余ってます~みたいな鳳凰学園の教員は大学の教授の研究室みたいに一人の教師に一つの部屋が与えられている様子だった。


 贅沢なこった。私の学校なんか部活で使うロッカーさえ、他のクラブと共同だったのに。


 道中、昨日の理事長室へ行ったときも思ったがなんで廊下にカーペットが絶え間なく続いているのだろうか。それよりも飾り彫りをされている窓一つ豪華に大きい、天井をみると校舎なのにシャンデリアが高級ホテルかお城ばりに並んでいるし。


 今更金の使い道についてはツッコミを入れませんが……。 


 目的地に到着すると白いドアを軽くノックをして返事が返ってくるのを待ってドアを開けた。


 (皆仮先生は……っと)


 皆仮の個人職員室はホテルのワンルーム程度の広さで、大学の教授と同じく本棚には多くの書物が敷き詰められていた。やっぱり個人的なものが多く職員室よりは研究室だ。


 部屋いるとすぐに窓につけてある机に座っている男が振り返った。


 楓は一瞬疑わしく、皆仮を見つめていたのを顔には出さないように慌てて直す。


 いや、学生寮の学長をしてるボサボサ頭のモノグサ竹丘と違って不審者ではない、…のだけど。


 (まるで学生…)


 そう、担任はパンフでも思った。別にショタ系でもない…なんていうか社会人に見えず学生臭がプンプンする。


 まだ大学卒業して間もない新米教師あたりかと結論つけて皆仮へ近づく。


 担任教師の初対面、それなにお行儀よい印象をもってほしい。すぐに私の悪いボロがでるでしょうが、せめてそれまでは。


 どちらかといえば同級生みたいな顔が楓を見つめる、楓は軽く頭を下げて。


 「おはようございます、俺が新井 楓です」

 「おはようさん、俺がⅡ-A担任の皆仮みなかり、教科は国語。よろしく。写真でも思ったけど随分美人なんだね」


 ほうほう頷いてニッコリ笑いイスから立ち上がって握手する為に手を差し出した。身長は楓よりやや高いほど、根拠もなく自分より背が低いと思っていた。


 なんとなく皆仮が出すハキハキした言動と笑顔が午後から放送される子供向けの教育番組の「みんなのお兄さん」がする笑顔とダブル。


 ヒバリもそうだけど皆仮も爽やか系の笑顔と雰囲気、もし女子高校だったら生徒から友達口調で気安さと好意から少々舐められるタイプかも。そして生徒と何年かして出来ちゃった婚とかしそう。


 意外にも教師と生徒が付き合うケースは多い、表ざたになると大問題なんだけど…。


 心の内で考えている事を微塵も顔に出さず楓は皆仮と握手を交わす。


 「ありがとうございます、これからよろしくお願いします」


 私の場合無駄に威張っている教師よりも気軽に教師の方がいい、どんな人なりかはまだ分らないけど第一印象は楓にとってはよかった。


 にこやかな時間が後ろのドアがノックも無し開くことで終わった。


 「誰だ?お前は」


 無言でドアからやってきたのは同じ制服を着た学生、めちゃ眉間に皺を寄せている男だった。


 楓と皆仮が握手しているのを見ると益々眉間の皺が深まる。


 正直、楓はお前こそ誰だよと問いたい思いを押しとどめ、皆仮から手を放すと男に向き合い。


 「今日から学園に通う新井 楓です。よろし「うるさい」」


 私の丁寧かつ笑顔の自己紹介をぶったきった名も知らぬ男に、憎しみの波動が漏れそうになった。


 「まあまあ、同じクラスの新しい友達になるんだから、そんなに威嚇しちゃ駄目だ」


 皆仮が私たちの仲裁にはいる、男はこの学園の不良なのか?


 外見は確かに厳つい顔をしてるが髪を染めている様子も髪の長さも特別変わっていない、ボタンをはずしているのだが改造した制服を着ていない。


 髪の色は赤茶だが生まれつきの可能性もあると、思えるほど自然な色だし。


 体格もヒバリと変わらぬくらい。ただ肩幅からいってかなり着やせしていると思う。


 顔は中々の男前、もしかしたら野生的な魅力で彼にもファンクラブとかいるかもしれないほどのレベルだ。


 喧嘩は強そうだ、でもここボンボン学校なのに不良っているんだ…。


 畏怖よりも好奇心の勝る目で彼を見つめてしまう。


 「なんだ」


 うっとうしそうな物腰で楓に言い放つ。


 「さっき皆仮先生が同じクラスって言っていたけど、おたくもⅡ-A?」


 楓に質問されても男は不遜な態度を崩さず、押し黙ったまま楓に目だけは向けている。楓も楓で威嚇されても怯える様子など微塵もない。


 「そうだよ、彼もⅡ-Aの大田おおた たく君、仲良くしてあげてね」


 黙っている大田の変わりに皆仮が楓に詫の自己紹介をすませた。


 こいつなんちゃって不良のクセに人見知り…?そりゃない。ものすごい顔で睨んでますよ。


 「お前、智之ともゆきに何のようだ?」


 やっと大田が喋ったと思ったら知らない名前が飛び出て楓はすぐに返答できない。


 「おい」


 再度、大田に声を掛けられたがどう反応していいのか分らない楓に皆仮が笑った。


 「先生の名前だよ」


 皆仮が自分の顔を指差して笑う。


 「先生のフルネームは皆仮みなかり 智之ともゆき、大田いつも言っているようにちゃんと皆仮先生って呼びなさい。それに新井は転校生だから教室へ入る前に担任に会いに来るのは当然だろう?」


 大田に困った顔で言うと大田はフンっと鼻を鳴らすと。


 「用が済んだら出て行けよ」


 とかいっちゃうし、可愛くないの。


 「出て行くのは大田のほうだ。もうすぐ鐘がなるのに教室へ戻りなさい、それとも先生に用があるのか?」


 答えたのは楓の後ろにいる皆仮、楓は2人の真ん中にいるのに存在をスルーされているし会話に入れない。


 すずめの涙ほどの寂しさが、残るが大田に絡まれるのを承知の上で喋る気には余りならないので2人のやり取りを傍観する。


 皆仮に正論をぶつけられた大田は舌打ちをして数秒の間皆仮を見つめたが、楓を睨むと踵を翻し部屋から出て行った。


 サボらず教室へ行けよ、と楓が心で詫の背中に語りかけたが100パー伝わってないだろう。


 「本当は優しい子なんだ、誤解してあげないでね」


 ドアの向こう側に大田が消えると無言で見ていた楓に彼を不快に感じたと思った皆仮は困ったように眉を下げて言う。


 「別にそう思ってません、クラスに行くのが楽しみになりました」 


 これから彼と仲良くなるか分らないけど、皆仮の手前そうしておく。特別打算があるわけではないがこの程度で彼の人なりを決るには早すぎる。


 厳ついがすごい人見知りで口下手だったら其れはそれで面白い。


 「さて、そろそろクラスに行く準備をしようか」


 気合を入れるように皆仮は楓に言い放つ、漸くクラスへ案内してもらえるのだと楓も返事をした。

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