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第94話 キッドとルイセ帰国

 白の聖王国をったキッドとルイセは、急ぎ紺の王国に戻り、そこでルルーまでもがミュウと共に黒の都へ向かったことを知ると、休息もほとんど取らず黒の都へと向かった。


「キッド君、ルルー王女の兵站術の実力はいかほどなんですか?」


 黒の都に馬を飛ばすキッドとルイセは、いやでも湧いてくる焦りをまぎらわすように話を始めた。

 王都で聞いた話では、ちょうど今頃国境付近で両軍が戦っている頃だろう。

 当然ながら、最初の戦闘に二人はもう間に合わない。自分達抜きで皆に戦わせている負い目は拭いようがなかった。


「実戦経験がないだけで、多分俺やミュウを除いたらルルー王女が一番うまい。正直、兵站術に限って言えば才能はルイセよりも圧倒的に上だな」


 キッドの答えに、ルイセは珍しくむっとした表情を出してしまう。もっとも、ルイセは兵站のような後方支援があまり得意でないため、キッドの評価を否定できないことは彼女自身が一番わかっていた。


「では、ミュウさん達は補給を気にすることなく戦えるということですね。……で、キッド君はこの戦いどうみてますか?」


「ミュウ、エイミ、ソードの3人が揃っているんだ、簡単に負けるようなことはないだろう。とはいえ、ルージュには竜王破斬撃があるし、あのラプトもいる。国境でなんとか押しとどめていてくれればいいんだが……場合によっては前回と同じくらい攻め込まれることも覚悟する必要があるかもしれない」


 ミュウ達のことは信頼している。兵隊にも対竜王破斬撃の戦術を叩き込んできた。

 それでもキッドは楽観視しない。フラットな頭で戦力分析すると、八割は国境で戦線維持、二割は初戦で敗れて国境内側まで押し込まれているとキッドは推測していた。


「そうですか。なかなか厳しいということですね」


「ああ。だからこそ、俺達が少しでも早く合流しないとな」


 二人は王都で乗り換えた馬を、無理を承知で急がせた。


 途中の集落で、さらに馬を乗り換えた二人は昼夜を問わず走り続け、再び太陽が高く上がった頃にようやく黒の都へと到着する。

 王城に入ったキッドは、戦争中にしては兵達の様子にずいぶんと余裕があると感じはしたが、悲壮感が漂っているよりは余程よいと、その理由までは深く考えないまま、ルイセとともにルルーのもとへと向かった。

 途中キッド達を何か言いたげに呼び止めようとする兵もいたが、二人はそれに構わず進んでいき、ルルーが控えている部屋の中へと入っていく。


「ルルー王女、ただいま戻りました! 戦況はどうなっていますか!? 俺とルイセもすぐに戦場へ向かう準備をします!」


 久々の再会を喜ぶより先に、キッドは焦燥感を隠しもせずに捲し立てた。


「キッドさん、落ち着いてください」


 そんなキッドを見て、ルルーは手をパタパタさせながら微笑む。


「大丈夫です。心は熱くなっても俺の頭はクールです。それより戦況は?」


「安心してください。先ほど早馬で連絡があって、もう戦いは終わりました。私達の勝ちです」


「……へ?」


「赤の王国軍は一部の兵を残して王都へ撤退したようです。ミュウさん達はもうしばらく警戒のために残ってから戻ってくるそうです」


「…………」


 ルルーの言葉にキッドは鳩が豆鉄砲を食らったような間抜けな顔を浮かべる。


「なにをそんなに驚いているんですか? 私はこうなると思ってましたよ」


 ルルーはしたり顔で、キッドの顔をのぞき込むように見てきた。


「いや、でも、敵は赤の導士、竜王破斬撃も向こうにだけあるのに……」


「キッドさんが立案した小隊分散戦術がうまくハマったようです。キッドさん、さすがです!」


「いや、あんな戦術は理想論みたいなもので……初めての実戦でいきなりうまく運用するなんて……」

(まじか……。紺領の兵士と黒紺領の兵士は個別に訓練していて実戦で合わせるのは初めてだったはずなのに……。さすがなのは、ミュウ、そしてエイミ、ソードの三人だよ)


 頼もしすぎる仲間のことを思い気が抜けた感じのキッドの腕を、ルイセが肘でつつく。


「……キッド君、前回と同じくらい攻め込まれることも覚悟する必要があるとか言ってませんでしたか?」


 キッドが隣を見ると、ルイセが責めるような視線を向けていた。


「……面目ない」


「キッド君は心配する気持ちが勝ちすぎて、味方の力を過小評価する傾向があるように思います」


「……返す言葉もない」


「私の力だってもっと信頼してもらいたいものです」


 キッドは申し訳なさそうに体を縮こまらせる。


「ルイセさんの言う通りです! キッドさんにはいつも助けられてばかりですけど、私達だってやる時はやるんです! 安心して留守を任せてもらっても大丈夫だって、これでわかってもらえましたか?」


 ルイセに続いてルルーにまで言われてしまい、キッドは一瞬申し訳なさそうな顔をしたが、すぐにその表情をどこか誇らしげなものに変える。


「そうですね。本当に俺は仲間に恵まれました。ルルー王女やルイセも含めて」


「はい!」

「……わかってくれたのならいいです」


 ルルーは満足そうに、ルイセは少し照れながらうなずいた。


「……ところでキッドさん、レリアナ様の方はどうでしたか?」


 柔らかだったルルーの表情が真剣なものへと移る。

 タイミングからして赤の王国の侵攻の報せを受けてキッド達が戻ってきたであろうことは、ルルーにも察しがついている。それはつまり、白の聖王国の件を途中で切り上げて帰ってきたということだ。

 対赤の王国という心配事は当面なくなったものの、ルルーの中にはまだもう一つの不安要素が残っている。


「ルルー王女、安心してください。レリアナ様はもう大丈夫です」


 心の中の不安を表には出さず自分を見つめるルルーに、キッドは安心させるような温かな笑みを返した。

 多くのことを聞かずとも、すーっとルルーの心の中に残っていたものが溶けていく。


「やっかいだった青の導士ルブルックは俺とルイセでなんとかしました。生死は不明ですが、再び現れたとしても、今のレリアナ様なら心配ありせん。彼女はもう聖王として自分の足で立ち上がりました。白の聖王国と青の王国との戦いはまだ続くでしょうが、今のレリアナ様ならきっと負けませんよ」


「そうですか。お二人とも、ありがとうございました」


 ルルーは年頃の少女らしい安堵した顔をし、胸に手を当て遥か遠い地にいる友のことを思う。


「あっ、お二人ともそんなところに立たせたままですみません! お茶を用意しますので、詳しい話を聞かせてもらえますか?」


「ええ、もちろんです。俺達も留守中のことを教えてもらいたいですし」


 それぞれにもう不安のなくなった三人は、ルルーの用意したお茶を片手に、離れていた間のことを語り合い始めた。

 その話は尽きることがなく、部屋にこもったままの三人を心配した兵が止めに来るまで続けられた。


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