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第57話 竜王破斬撃対竜王破斬撃

 戦闘準備を終えた紺の王国軍と赤の王国軍とが、陣を敷いて戦場で睨み合う。

 前回の戦いによる被害は紺の王国軍の方に集中していた。そのせいで今回の戦いに加われない紺の王国兵の数は少なくない。だが、キッドとミュウが連れてきた追加兵が加わったことにより、両軍の数はほぼ互角。


 先の戦いでは、紺の王国軍は密集した重装歩兵を全面に出した防御陣形を敷いていた。しかし、そこを竜王破斬撃で狙われた反省を生かして、今回は重装歩兵の数を減らし、兵と兵の距離を開けた布陣を敷いている。とはいえ、それは竜王破斬撃を警戒するあまりに、本来の陣形を崩した愚策に映った。


「前回の撤退の手際を見てもっとやる相手だと思ったのに、どうやら見込み違いだったようね」


 赤の王国軍の最前列に出た馬上のルージュは敵の布陣を見て、勝利を確信したようにほくそ笑む。


「だが、前回のように兵を固めていてははまたお前の魔法にやられるだけではないのか?」


 ルージュの隣には同じく騎乗したラプトがいた。戦術に詳しくない彼には、紺の王国軍の布陣は妥当なものに見えた。


「それはそうだけど、魔法が来るとわかっているのならやりようはあるのよ。でも、ああやって兵の間隔を取ってしまったら、陣形の防御力はガタ落ち。こちらが騎兵で突撃でもしかければ耐えきれずに勝負が決するわ」


「……どうやら、それは敵もわかっているようだな。こちらが仕掛ける前に、向こうが騎兵の突撃を仕掛けてくるようだぞ」


 相手の布陣を見てから攻略法を考えるつもりだったルージュは、騎兵達に戦闘態勢を整えるよう指示したものの、まだ攻撃を仕掛けられる状態にはない。

 しかしながら、紺の王国軍はすでに騎兵達を固めて最前面へと押し出してきた。それは、陣形を見てからの動きではなく、最初から予定していたものだ。だからこそ、赤の王国軍より先に攻撃態勢に移ることができた。


「仕掛ければいいというものではないわ。今回でいえば完全な愚策よ。私の魔法のことをまったく理解できていないようね。大魔法ゆえに発動に時間がかかり、動く敵には当てられないとでも思ったのでしょう。まったく馬鹿な指揮官を持つと、兵達が可哀そうだわ」


 ルージュは手綱を握る手に力を込める。


「あの騎兵集団は私が吹き飛ばすわ。ラプト、ついてきて」


「了解」


 本陣を離れ、ルージュとラプトは二人だけで戦場の中央へと向かって行く。

 間もなくして、紺の王国軍の騎馬隊の突撃が始まった。

 元黒の帝国軍の優秀な騎兵を中心としたその騎兵隊は、この紺の王国軍最大の突破力を有する虎の子の部隊だ。もしもそれを失うようなら、人間にたとえれば右手をもがれるのと同じ。それほどに今の紺の王国軍にとって重要な騎兵隊だった。

 その波のように押し寄せる騎兵達を、たった二人、ルージュとラプトが前方で待ち構えていた。


「愚かな紺の王国軍よ、自慢の騎兵が崩壊する様を見るがいいわ!」


 自分の魔力に竜王の膨大な魔力を加え、ルージュは魔法のイメージをくみ上げていく。

 作り出し再現するのは竜王の炎の息(ブレス)。本物の炎の息(ブレス)にはかなわずとも、騎兵ごときを吹き飛ばすには十分な代物だ。

 ルージュは右手を高く掲げた。


「竜王破斬撃!」


 力ある言葉をルージュが吐き出す。

 だが、先の戦いにおいて重装歩兵を戦闘不能に追い込んだ炎の波は広がらなかった。

 単に不発に終わったわけではない。

 ルージュの魔力は根こそぎに近いレベルで奪われている。それは竜王破斬撃を使った時と同じだった。


「うそ……な、なんなのよこれ!?」


「ルージュ、どうした? 撃たないのか?」


「撃ったのよ! 撃ったのに竜王破斬撃が出てないのよ!」


「なんだと?」


 何が起こったのかラプトもわかっていないが、彼は冷静に今の自分達の状況を把握する。

 このままでは騎兵の波に飲まれるだけだった。


「とにかくここを離れるぞ!」


 騎兵の突撃から逃げるように、ラプトは横へと馬を走らせる。

 状況を飲み込めないでいたルージュもそれに続いた。


◆ ◆ ◆ ◆


 その少し前。

 紺の王国軍騎兵隊の先頭にはキッドの姿が、ミュウとフィーユと共にあった。


「行くぞ!」


 キッドの掛け声で、キッドを先頭にしたまま騎兵達が駆け出していく。


(俺がルージュとやらの立場だったら、絶対にこの騎兵隊に竜王破斬撃を仕掛けるために前に出る。だったらルージュも同じはず!)


 キッドが前方に目を向ければ予想どおり、敵の姿が二つ。


(ルージュと……もう一人は護衛か?)


 キッドがルージュを見るのは初めてだったが、その姿はエイミ達から聞いていた。紅い髪、赤い軍服、そして赤の導士を意識してか、赤いマントまで着用している。


(ルージュ、俺にはわかるぞ、今お前がしようとしていることが!)


 同じ魔法の使い手だからこそキッドにはわかった。ルージュが使う魔法だけでなく、それを撃つタイミングまで。

 キッドは頭の中で竜王の炎の息(ブレス)の形を構築していく。

 前方のルージュが右手を掲げるのが見えた。

 同時にキッドも馬を操りながら器用に右手を掲げる。

 瞬間、キッドは周囲に竜王の霊子の気配を感じた。

 それは竜王破斬撃発動前の前兆現象とも言えるものだ。普通の者なら感じられないレベルのものだが、魔導士であり、竜王と直接戦いその霊子に触れたキッドにはそのわずかな霊子の気配がわかる。


(来るっ!)

「竜王破斬撃!!」


 キッドはルージュの竜王破斬撃に自分の竜王破斬撃を重ねた。

 だが、二人の疑似的な竜王の炎の息(ブレス)が合わさりあたりが炎の海に包まれるようなことはない。なにも起こらず凪のような空間が広がるだけだった。


 その事態はキッドの予想したものだった。

 以前、帝都でミュウとソードとの戦いにおいて、ミュウの身体に竜王の霊子がみなぎった時、キッドは自分に残っていた竜王の霊子が反応するのを感じた。そう、竜王の霊子同士は反応し合うのだ。それは竜王が認めた勇者が互いを認識し、より高みへと競い合うことを竜王が望んでいるからかもしれない。

 しかし、竜王破斬撃ほどの強力な魔法が互いに反応し合えば、そういったレベルの話ではすまなくなる。この世界に大きな影響を与えかねない。この地の守護者たる竜王がそんなことを望まないことをキッドは知っている。守護者たる竜王が、自らの魔法で世界に必要以上の破壊が行われることを認めるはずがないと理解している。

 だからこそキッドは確信していた。もし竜王破斬撃と竜王破斬撃がぶつかるようなことがあれば、竜王の霊子を反応し合った結果消滅すると。


(しかし、消えるとは予想していたが、使ったのと同じだけ魔力をもっていかれるとは思わなかったな。……これはフィーに来てもらっていて正解だったかもしれん)

「ミュウ、フィー、赤の導士ルージュを狙いに行くぞ!」


「了解!」

「わかった!」


 気持ちのいい二人の返答を受け、キッドは隊列から離れ、騎馬隊の波に飲まれぬよう横に逃げていく二人の騎馬に向けて馬を走らせた。魔力はほとんど残っていないが、敵の中心であるルージュを討つ機会を逃すつもりはなかった。

 ミュウとフィーユもキッドに続いていく。


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