第48話 それぞれの再会
「レリアナ様、長旅お疲れでしょう。まずは滞在いただくお部屋の方へ案内させていただきますね。今日はそちらでゆっくりおくつろぎください」
到着早々形式ばったセレモニーがあるだろうと思っていただけに、レリアナはルルーの言葉を意外に思う。しかし、長時間馬車の中で同じ姿勢で揺られ続け身体が固くなっているレリアナにとって、それはありがたすぎる申し出だった。
「ありがとうございます、ルルー様」
「それではご案内しますね。ついてきてください」
先導するようにルルーが歩き出した。
ルルーはレリアナの歩く速度を気にし、急かせないよう時折後ろを振り返りながら歩くあたりにルルーの人となりが現れている。
(王女なのに自ら案内をしてくれるなんて……)
驚きを感じながらレリアナは素直にルルーについていく。
レリアナはルルーの気遣いにもただ感心するばかりだった。
(この人、すごいです。王族なのに自然体のままなんですね……)
下級貴族の娘という身からいきなり聖王という地位に就いたレリアナは、常に聖王たる自分でいなければならないとずっと気を張り続けてきた。それまでのただの女の子としての自分はもう死んだのだとさえ思っていた。
しかし、目の前の少女は王女であるのに、まるで昔の自分のように振舞う。それが羨ましくもあり、心地よくもあった。
◆ ◆ ◆ ◆
ルルーに続いて城の中へ向かうレリアナを見て、グレイもそれについていこうと歩き出したが、その前にミュウが立ってグレイをとどめていた。
「グレイ、どうしてあなたがこんなところにいるの?」
「これはこれはミュウ騎士団長殿。先日は手合わせありがとうございました」
「……別人だと言い張る気はないのね。そのことだけは褒めてあげるけど、白の聖王国の人間がどうしてうちの騎士団の入団試験に来てたのよ。何が目的だったの?」
「一度、ミュウ殿と手合わせしたくてね」
「そんな言葉でごまかされると思って?」
ミュウはグレイを睨みつけるが、グレイに動じた様子はない。
「ごまかすもなにも、本当のことなんですか?」
まっすぐな目、少しも乱れない真摯な気配、それは男の言葉に嘘がないことを物語っていた。
「……嘘は言ってないみたいだけど、一体何のためにあんなことを?」
「戦士ならば強い相手と手合わせしたいと考えるのは当然では?」
まったくブレないグレイに、ミュウはため息をつく。この男がどういう男なのかわかった気がした。
「……あなたの部屋まで案内してあげるよ。ついてきて」
「それはありがたい」
グレイはミュウと共に歩き出した。
◆ ◆ ◆ ◆
「どういうつもりですか?」
「……何がでしょうか?」
レリアナの後を追おうとしていたティセだが、ルイセの前を通りすぎようとしたところで、鋭い声をかけられ足を止めていた。
「今度は堂々と城の中に入るつもりですか?」
「どなたかと勘違いされていらっしゃるようですね。お初にお目にかかります。私は白の聖王国のティセと申します。あなたは?」
ティセはあの夜の襲撃者だと認める気はなさそうだった。白々しい様子を隠しもせずに自己紹介をしてみせる。
貴族という身分は偽りのものだろうと思えるが、ルイセとしては、相手にこういう対応をされてしまうと、立場上相手に合わせるしかなかった。下手なことをすれば、外交問題になりかねない。キッドやルルーに面倒をかけるのは、ルイセの最も望まないことだった。
「……紺の王国の軍師補佐のルイセです」
「ルイセさんですか、同じ女性同士、仲良くしていただけると嬉しく思います」
あの殺気を向けてきた同じ相手とは思えない笑顔で右手を出してくるティセに、納得できないものを感じながらルイセも手を出し握手を交わした。
「よければ私の部屋までご案内お願いできますか?」
「……わかりました。案内します」
とはいえ、ルイセはこの相手の前を歩いて背中を見せる気にはなれなかった。行先を示しながら、ティセの隣を歩いて部屋へと向かっていく。
◆ ◆ ◆ ◆
キッドはフィーユとの思わぬ再会に驚きながらも心のどこかでは嬉しさも感じていた。
フィーユとの出会いはあの窃盗犯確保の時だけ。だが、犯人達から取り返したカバンを老女に渡しに向かったフィーユの姿を今でも覚えている。あの時受け取った老女の顔も、フィーユの嬉しさと誇らしさの混じったような顔は印象的だった。自分の損得関係なしに人のために魔法を使って動けるフィーユのことを、あの時のキッドはとても眩しいものに感じていた。
できることならもっと話したいとキッドは思っていたが、結局フィーユとはあの後すぐに別れることになり、残念に思っていたのだ。
「フィーだよな?」
「また会えたね、キッド」
年相応の屈託のない笑顔を向けられ、キッドはあの時のフィーユの顔は決して作ったものではなかったと改めて感じる。
「ただの旅の魔導士ではないと思っていたけど、白の聖王国の関係者だったんだな」
「えへへ、ごめんね」
フィーユに可愛く肩をすくめられると、もともとたいしてなかった責める気持ちがすべて消え去る。
「あの時は、俺のことを知ってて接触したのか?」
責める気持ちはなかったが、キッドとしては確認しておきたいことだった。
狙っての出会いだったのか、それともたまたまの出会いだったのか。
「知らなかったよ。っていうか、あの時先に話しかけてきたのはキッドの方だよ!」
「……あ、そうか」
思い返せば確かにフィーユの言う通りだった。フィーユのことを迷子と勘違いして話しかけたのはキッドの方だったことを思い出す。
「私の方こそキッドに怪しまれて話しかけられたのかと思ったくらいなんだから!」
「いや、全然わからなかった。なんか困ってそうに見えたから……」
「わかってるって」
一緒にいたのは短い時間だったが、フィーユはキッドの人となりはわかっているつもりだった。
二人の出会いは本当に偶然だった。二人ともにそのことを確認し、心の中で嬉しく思う。
「とりあえず、部屋まで案内するよ。ついてきて」
「はーい」
フィーはキッドと共に自分に用意された部屋へと向かった。




