表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

101/158

第99話 ラプト対カオス

 闘技場の客を盛り上げるように審判の声が響く。


「今回トーナメントを勝ち抜いたのは、二刀流の剣士ラプト選手。トーナメントの2試合をすべてたったの一撃で突破した猛者だ! 両手で持つのも困難な大剣を片手で振るう、剛腕の剣士! これは間違いなく過去最強の挑戦者だぁ!」


 審判の声に客達は湧くものの、ラプトが客に応えることはなく、まったく気にもしていないようだった。俺の視線はただ対戦相手だけを見ている。


「そして、そのラプト選手の挑戦を受けて立つのは、この闘技場無敗のチャンピオン、カオス選手! 海の向こうの国の王族であったものの、内乱に乗じて国を奪われてこの地に流れ着いた、謎多き悲劇の男! 今日も我々に華麗な戦いを見せてくれるのかぁ!」


 審判の説明を耳にし、ルージュは間抜けにも口をあんぐりと開ける。


(何よそのでたらめすぎる設定は! 賭けを盛り上げるためなんでしょうけど、それにしても盛りすぎてて引くわよ!)


 しかし、ルージュの予想に反して客達はさらに湧いていた。

 そんな周りの客を見て、ルージュはげんなりする。


(……なんて単純な。面白ければ何でもいいのかしら? それとも、もしかして全部本気にしてたりするの?)


「さぁ、みなさんの目に留まった勇者はどちらだ!? オッズ的にはチャンピオンの方が有利との判断だが、それでもここまで競ったオッズはおそらく初めて! 果たして最強はどちらだ!? 男を見る目、ここで試さずどこで試す!?」


 男を見る目という言葉にルージュがピクリと反応する。


(……おもしろいこと言うじゃない。私の見る目を舐めないでほしいわね。ラプトがあんな軽薄な男に負けるわけないじゃない! 私の男を見る目の正しさを証明してあげようじゃないの!)


 勝手に興奮しだしたルージュは手持ちの金をすべてラプトにベットすると、客席の最前列でかぶりつくように二人の闘士を見つめる。


 ――そして、ベット可能時間が終了し、二人の戦いが始まった。


 木製の大剣を左右の手でそれぞれ構えるラプトに対して、カオスは右手に片手剣を持ち、左手は空いている。しかし、開始の合図と同時に、空いたカオスの左手に、こぶし大ほどの大きさの光る球が出現した。


「出たぁ! カオスの魔球! 手品のようにどこからともなく取り出す不思議な武器が、早速今回も出てきたぞ!」


 審判の声に客達は歓声を上げる。彼らにもそれはお馴染みの武器なのだろう。

 しかし、ルージュにはカオスの光る球の正体がすぐにわかった。


(なにが魔球よ! なにが手品よ! あんなのどう見ても魔法じゃないの!)


 武器は使用自由と謳われているので魔法の使用もルール違反ではない。とはいえ、こんな闘技場に魔法が使える人間が出てくることなど普通はありえない。魔法が使えるのなら、もっと簡単に稼げる方法はいくらでもある。こんな危険なことに身を投じる必要などまったくなかった。

 そのため、カオスの作り出した魔法の球を誰も魔法によるものと見抜けず、手品によって取り出した武器と認識したかのしもれない。もっとも、闘技場の人間はわかった上で盛り上げるために手品による謎の武器と称しているのかもしれないが。


「遠慮なくいかせてもらうぜ、旦那!」


 ラプトのことを旦那と呼んだカオスは、ラプトとの間合いを詰めると、左手に出した魔球を投げつけ、意識をそらしたところに斬り込んだ。

 ラプトは冷静に魔球を交わして、カオスの剣を受ける。


(ちょっと!? それ、投げるの!?)


 カオスの魔球の使い方はルージュにとって想定外のものだった。普通は、魔法の球を生み出す際には、進む方向と進む速度を組み込んでおき、発生と同時に射出する。ベクトルも力も定めない威力だけの魔法の球を作り出し、自ら投げて使うなど普通の魔導士なら考えもしないことだった。

 ルージュが見守る中、カオスは外れてもすぐにまた魔球を生み出して左手に握る。


(魔力集中の時間もなく間髪を容れずに新たな魔球を生み出すなんて……わかったわ! 飛ばす方向や飛ばす力といった余計なものをそぎ落とした、ただ力のある球とすることで、ほとんど無意識に近いレベルであの魔法を生み出せるようにしているのね。……確かに、斬り合いをしている中で近距離から魔法の球なんて投げられたら、普通はかわせずに食らって、そのひるんだところを剣でやられるんでしょうね。でも、残念! ラプトにそんな魔法は効かないわ!)


 ラプトの二剣を器用に一本の剣でしのぎながら、カオスは隙をついてスナップだけで魔球を放った。とてもかわせる間合いでは中で投げられた魔球は、ラプトにヒットして破裂する。普通ならそのダメージで相手の動きは乱れ、続くカオスの剣戟の餌食となるのだろう。

 だが、竜王の霊子で体を覆っているラプトにその程度の魔法はほとんど効果がない。食らってもなお態勢を崩すことなくラプトは攻撃を放ち、追撃をしようとしていたカオスをラプトの剣がかすめる。


「ちょっと待てよ! 旦那、一体どういう体をしてるんだ!?」


 カオスは慌てて後ろに跳んで距離をとる。

 もう一歩踏み込んでいたら、間違いなく今の一撃でカオスは敗れていた。

 とはいえ、カオスが生み出すのが魔法の球ではなく、本当に手品による物理的な球だったら、勝っていたのはカオスの方だったかもしれないれ。


「一体どんな手品かと思っていたが、魔法の一種だったのか。最初からそうだとわかっていれば、わざわざかわす必要もなかったんだがな」


「もしかして旦那、魔法の効かない特異体質とか? そんなの聞いたこともないんだけど?」


 魔法を知っている人間ならそんな非現実的な体質を持った人間など、想像をすることはあっても、現実にいるとは考えない。しかし、カオスは理屈など無視して、ラプトをそういう相手だと捉えた。こういう時に迷わず割り切れるのがカオスの強みでもあった。

 だが、カオスが何かするより先にラプトが仕掛けてくる。

 これまでカオスが片手の剣でラプトの二本の剣に対抗できていたのは、ラプトが魔球を警戒していたからに過ぎない。魔球を脅威でないと判断したラプトは、全力でカオスに襲い掛かる。


「くっ! マジかよ、旦那!? さっきまでのは本気じゃなかったのか!?」


 ラプトの本気の二剣に対抗するには、同じく二刀流で戦うか、ラプトを上回る圧倒的な剣速をもって対するしかない。しかし、片手剣のカオスにそこまでの力はなかった。ラプトの左手の剣はカオスの右手の剣で対処できたものの、対処しきれないラプト右手の剣がカオスに迫る。

 しかし、カオスに慌てた様子はない。


「悪いがこれは実戦じゃないんでな!」


 薙いでくるラプトの右の剣に、カオスは魔球を掴んだ左手を合わせにいく。

 瞬間、激しい音を立ててラプトの木剣が爆ぜた。


「卑怯よ!」


 叫んだのは二人の戦いを見ていたルージュだった。

 これが実戦で金属製の剣だったのならば、間違いなくカオスの手は魔球ごと断ち斬られていただろう。だが、今回の武器は木で出来た剣。耐久力は金属製の剣と比べるまでもない。カオスは魔球と剣が振れた瞬間に爆発させ、木製剣を破壊したのだ。

 ルージュの言うとおり卑怯とも言える手段ではあったが、闘技場のルールに違反したものではない。

 これで互いに武器は一本ずつ。とはいえ、カオスには剣に加えて魔球がある。


「悪いな、旦那!」


 ラプトはすぐにまた魔球を左手に作り出し、その魔球を握った手をラプトの眼前に突き出した。


(旦那、魔法は効かないって高を括ってるだろ? けど、俺の魔球は攻撃だけじゃないんだぜ!)


 カオスが魔球を握りつぶすと、強烈な光が発生した。

 今回の魔球は、攻撃力はないものの、代わりに閃光を放つものだった。ラプトの体に魔法の直接攻撃が効かないと判断したカオスは、すぐに方針を変更し、魔球を間接的に使う戦いに切り替えていた。


「もらったぜ、旦那!」


 閃光で目がくらんだラプトへ、カオスは手加減なしの剣を振り下ろそうとする。

 しかし、それよりも早くラプトは動いていた。

 閃光技は以前のキッド達との戦いでラプトは経験していた。とはいえ、さすがに今回のカオスの閃光技を読んでいたわけではない。不意の閃光で視力を奪われたのは今回も同じだった。しかし、そうなった時の心構えと対処法をラプトはすでに自分の中で描いていた。

 視力を失う直前の光景を頭に残したまま、現実がその画から変化する前に、ラプトは剣を捨てて一瞬で懐に入り込んで組み付く。組んでしまえば、見えずとも感触と感覚で相手の姿はわかる。剣を捨てたラプトは左手で、剣を握るカオスの右手を固めると、そのまま背負うようにカオスを地面へと投げ倒した。そして、そのままカオスの上にまたがると、右手で締めるように首を掴む。


「まだ続けるか?」


「降参、降参。こりゃ俺の負けだ。旦那、強すぎるぜ、あんた」


 素手もまた武器の一つ。闘技場のルールに反するものではない。

 ラプトの勝利を宣言する審判の声が闘技場に響いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ