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8.姫様の矜持


「あー、そう言うつもりはないんだけど結果的にはそうなっちゃうかなー……」

「言い過ぎですよ、バーバラ」

 アリスがバーバラをたしなめた。


「はいはい。喜んでお供させていただきます。姫様」

 ベッドに腰掛けたままのバーバラは、マリアに向かって形式に基って頭を下げ礼をして見せた。


 マリアは、その礼を受けて立ち上がりバーバラの手を取りお礼を述べた。

「ありがとうバーバラ。あなたの働きに期待しています」


 バーバラは、マリアに真っすぐな笑顔を向けられて思わず見惚れてしまう。

「は、はい」

「それでは失礼しますわね。準備が整ったらまた連絡しますので。よろしくね」

 そう言うと、マリアは部屋から退出した。


 先ほどのやり取りを見ていたアリスが言った。

「とんだ()()()()よね、姫様って」

「うん、思わず見とれちゃったわ」

「お仕事の参考にはならないけど」

「ああいうのはマニュアルからは外れるわねー」



 マリアは、アリスたちの部屋を出た後王宮を出て王城内にある作事舎に向かった。ストロベリーの服の為の採寸が終わってなければ付き合って教会まで送っていくつもりであった。

 だが作事舎の服飾係にマリアが行ってみると、ストロベリーはすでに帰っていたらしい。サリーが服飾係の職人と雑談をしていた。

「あら姫様、所用はもうお済みですか?」

「ええ、戻りましょうか」

 マリアとサリーは作事舎を後にした。


 帰りの道すがら、マリアはサリーに尋ねる。

「何を話してたの?」

「ええ、作成する服のデザインについてですね」

「あー、普段作ってるものとは方向性が真逆だもんね」

「街中で見かけるようなものでも問題はないのですけど、遠方までの旅が出来る者という設定ではあるので、その加減に思案しているようですね」

「サリーは何かアドバイスとかしたの?」

「私がご提案申しましたのは、服の耐久性についてですね」

「耐久性?」

「私が今着ているメイド服のような……、これ意外と丈夫なんですよ」

「そうなんだ」

「長旅になりますし、動くことも多くなります。丈夫な服を制作されるよう進言いたしました」

「さすがね」

「どうも」


 そんな会話をしながら二人が歩いていると、前方を横切るように歩いていた青年がマリアの存在に気が付いて駆け寄ってきた。

「マリア!」

「あら、ロベール。ごきげんよう」

 マリアに話しかけてきた青年は、ロベール・ラファイエットという。ラファイエット伯爵家の次男である。王国の貴族は、騎士団にそ所属する家系以外は当主の家族のうち一人以上を王都に滞在させることが義務化されている。ラファイエット家は、本人の希望もあってロベールが滞在していた。この制度はいわゆる人質ではあるのだが……。


「良かった! きみに会いに行こうとしてたんだ」

「そうなのね。なにか用がありまして?」

「あの、変な噂を聞いちゃったものだからさ」

「どんな噂?」

「きみの縁談の話だよ!」

「あらそうなの?」

「うん」

「私は知らないわよ」


 意外な返事にロベールは戸惑う。

「……はい?」

「だから知らないって」

「本当に?」

「逆に、どこからそんな噂が出てるの?」

「外務部」

「どんな内容?」

「非公式の使節の往来が増えてるらしくてね。水面下で交渉してるんじゃないかって」

「ふーん、ならそうかもね」

「そんな! マリアはそれでもいいの?」

「なにが?」

「自分の知らない所で勝手に結婚相手が決められることだよ」

「王族とはそういうものだわ」


 ロベールは思いつめたような表情をして、言った。

「僕は! 僕は……きみが、マリアが好きなんだ」

「知っているわ」

「きみが、きみの知らない所で勝手に決められた相手に嫁いでいくなんて絶対に認めない」

「ロベール、あなたは次男だから、あなたの結婚相手は比較的自由よ。身分の違いもある程度なら超えられる。それはあなたの自由にすればいい。でも私は違うの」


「僕は……僕は……」

 自分の気持ちをうまく言葉に出来ないでいるロベールの手を取り、マリアは言う。

「あなたの気持ちは受け止めているわ、ロベール。でも私は一国の王女で、結婚もその責務なの。私はその責任から逃げるつもりはないの。わかって」


「うわあああぁぁぁぁぁぁ」

 ロベールは何やら叫びながら走り去ってしまった。マリアとサリーは立ちすくむしかない。


「あらあら、姫様は罪な女ですね」

「もー……茶化さないでよ」

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