6.魔法への対処法
「ちょっと待って、いったい何が起こってたの?」
マリアには本当に覚えがない。
「姫様が私を襲ってたんですよー」
「ええっ?」
「原因はあなたでしょう! シスターストロベリー!」
「そ、そうなの?」
状況を客観的に判断すれば、ストロベリーの言う通り自分が彼女を襲っていたのかもしれないとマリアは思う。しかし、だからこそ生じる疑問があった。
「サリーは何か知ってるのね?」
マリアの言葉にサリーは一瞬表情が暗くなるものの、深呼吸をして心を落ち着かせると覚悟を決めて言った。
「彼女……、シスターストロベリーは無意識に使っちゃうんですよ」
「何を?」
「魅了魔法です」
「魅了魔法?」
「対面して話してる相手に対して……こう何と言うか、心を揺さぶられるようなことがあると……無自覚、無意識に」
「そんなことってあるんですねー」
他人事のように言うストロベリーに、サリーはジトっとした視線を向ける。
「でもどうしてサリーはそのことを知っているの?」
マリアがそう聞くと、今度はマリアにジトっとした視線を向ける。
「(ボソボソ……)……です」
「なに? 聞こえなかった」
「わたしも! 以前かけられたんです!」
「魅了魔法を?」
「そう!」
「ああ……! だからストロベリーは魔法学院の寮で1人部屋だったんだ!」
「あの時はびっくりでしたねー。気が付いたら同じベッドで寝てて……。裸で」
「ちょ……はだ……」
「そこまで言わなくてもいいじゃない! もう!」
「私って、迫られると流されちゃう性質でして……ポッ」
マリアは少しあきれ顔だ。
「とまあ、彼女はこんな風に性に対してあけすけなところがありまして、仮にも聖職者ですし何か間違いを起こさないかと心配で……」
「仮にもとは何ですかー! ちゃんとした聖職者ですー」
「その、無意識にかけちゃう魅了魔法って、対象は女の子だけなの?」
とマリアが聞くと、
「男性にキュンとすることも、もちろんありますよー」
ストロベリーは、あっけらかんと答えた。
「はぁー……」
サリーは顔を手で覆いため息をついた。
「うーん、そっかー……」
マリアは腕組みをして思案している。たしかにストロベリーの”悪癖”が男性にも向けられるのは危険かもしれない。
「けど……だけどね。あたしは対処可能な問題だと思うの。荷馬車は男女で分ければいいし、……要はその機会を作らせなければいいのよ」
「そうかもしれないけど、ストロベリーにも気を付けてもらわないとね」
「はーい。でも本当に自覚がなくってぇ」
思案していたマリアが、閃いた! とばかりに言った。
「ねえ、何か魔法の発動のキーになるような所作があるんじゃない?」
「と、言うと?」
「ストロベリーが”キュン”となる事が予備行動になってて、相手に対する何らかの動作が術式に相当するのだとしたら……」
「辻褄は合うわね……」
魔法を発動するための動作は予備行動からの術式という手順になる。予備行動として知られるのは一般的には呪文の詠唱である。予備行動によって魔力の効果を現実世界に引き出し、術式によって魔法の効果を発揮する対象、範囲などを指定する。高位の魔術士なら発声しなくても口の動きだけで呪文の詠唱が出来るし、手がふさがっていても目の動きなどで術式を展開できるのだ。
「感情の動きが予備行動になるのって言うのがちょっと釈然としないけど、治癒系の魔法は先天的に術者の身体にそんな仕組みが埋め込まれてる場合がごくまれにあるって授業で習ってたわね」
サリーはマリアの説に乗って検討してみる。
「ストロベリーは神官の家系の生まれだしね。可能性はあるかー。それがよりによって魅了魔法っていうのがストロベリーらしいっちゃそうだけど」
「それって、褒めてます?」
「褒めてないよ?」
「がっくし……」
「”キュン”となるのは防ぎようがないとして、術式に相当する動作をさせなければいいのよ。それで魔法は防げる」
「理屈の上はそうなるわね」
そこまで分かれば、ということでマリアはストロベリーに尋ねてみた。
「ねえ、ストロベリー。あなたが”キュン”とした相手を、次にどうしたいって思う?」
「そうですねー。……こう、ハグしちゃいます」
ストロベリーは、目の前の相手を抱きしめる風に両手を前に出した。
「それよ!!」「それじゃない!!」
ブックマーク登録や、感想を頂けるとうれしいです。