32-2.丘の上の堅城
マリア姫の一行はザグレーブの街の城塞を視界にとらえられる場所に来ていた。
ザグレーブはサノセクからマルボークへの街道の約3分の2の位置にあり、ここに到着すればマリアの旅の旅程全体の6分の5が過ぎることになる。ザグレーブから先は魔物の遭遇報告は少なく、ここに到着することは旅の無事終了を予感させることと同義であった。
「王都ほどじゃないけど、立派な城塞ね」
馬車の幌の中から顔をのぞかせたマリアがサリーに話しかける。
「そうですね。騎士団領では2番目に大きい街ですし」
魔族が三日月の森の迷宮からこの世界に侵攻を始めた時に、最初の目標と見られているのは騎士団領の首都であるマルボークだが、そのマルボークまでさほど遠くないザグレーブもその候補と考えられるため、街の防衛のために街の周囲に城壁が築かれている。
「南側には街の入口は無い感じですね」
「そうなの?」
「はい。街道は西側へ迂回するようです」
ザグレーブの街は、イストヒリーと呼ばれる丘陵地帯の南端にある。
東側がやや切り立った地形の丘の上に建設されたこの城塞都市は、西側と北側にしか入口が設けられていない。その門も跳ね橋を備えた空堀の先にあり、街の規模に似合わない難攻さがうかがえる城塞となっている。
「へえー……、なるほどね」
「どうかしたかい?」
意味ありげに感心したようにつぶやくバーバラにガーネットが声をかける。
「ああ、うん。魔族の軍がマルボークへ進軍するとき、この街を先に落としていくのかな? とか考えてたんだけどさ」
「うん? まあ少し遠回りになるけどね」
「そう。だけどマルボークへ進軍してる時に後ろから攻撃されるのは嫌じゃん?」
「まあそうだね」
「軍略のセオリーとしてはマルボークへ行く前にこっちを先に落としたい。だけど、この街の備えはそんな簡単じゃないように感じるね」
「ふうん。だけどさ、マルボークを落とそうって気持ちでいる魔族の軍がこんな街を落とすのにそんなに手こずるものかい?」
「問題は時間がそれなりにかかりそうってこと」
「時間がかかるとどうだって言うんだい?」
「マルボークから救援が来る」
「あー、そうか」
「街を包囲してる魔族の軍がマルボークからの軍に逆包囲されるとなると、もしも食料を現地調達でって考えてたら大変なことになるね」
「そうでなくとも挟み撃ちだね」
「そう。だから、魔族の軍はマルボークへ侵略するとき、この街を無視するんじゃないかな」
「そんなもんかねえ」
そんな話をしながら一行はザグレーブの西門を目指す。周囲への警戒を解いたサイファーは徒歩で馬車に侍っていた。




