30-2:街道の遭遇戦
ガーネットが大きく振りかぶって戦斧を振るう。
横なぎなに払われた一撃は双頭の魔物の右側の首元を捕らえて吹き飛ぶ。間違いなく致命傷になっただろう。
一方でバーバラが対峙するもう一頭の魔物は、バーバラに目標を据えた直後に背後からの攻撃を受けた。その攻撃は明らかに刃物によるものにバーバラには見えたが、その正体は分からなかった。首元の大きな血管が断ち切られたようで、血しぶきを上げている。
「これが挟撃ってことか!」
サイファーからと思われる攻撃で負傷した魔物の動きが鈍った所をバーバラも見逃さない。
「はあっ!」
バーバラの放った一撃は魔物の心臓を捕らえ、その命を絶った。
「この死体の処理は?」
バーバラは倒した魔物の処理法を、姿を現したサイファーに尋ねる。
「放っておいていい。次の町で騎士団に報告しておこう」
騎士団はサノセクからマルボークまでの街道を管理している。街道の途中にあるすべての町から毎日パトロールをしていて、王国圏深くへの魔物の侵入を防いでいた。パトロール隊の多くは非正規の騎士団の予備役か冒険者志望の若者のアルバイトだ。
「うちらにも魔物討伐の報酬って出るの?」
「出ないわよ。報酬が出るのは冒険者登録した冒険者だけだし、その対象は狭間の迷宮で倒した魔物だけ」
バーバラの質問に、幌の中から顔をのぞかせたセッカが答える。
「そうなんだ。旅費の足しになればと思ったけど」
「パトロール隊には出るけどね。だからこの魔物は死体処理をした隊員のお小遣いになるの」
「なにそれ、働き損じゃない」
「だからこっちの街道は通行量が少ないし、パトロール隊員は案外働き甲斐のある仕事ってわけ。基本給も低くはないしね」
「ふーん、なるほどね」
実際のところ、日銭を稼ぐのにいっぱいいっぱいの下級冒険者よりは安定した収入が望める職業ではある。
「ところでさ、サイファーの獲物ってなんだい?」
サイファーがつけた魔物の傷を見ながらバーバラが疑問を口にした。
「こいつか?」
サイファーが取り出したのは薄い円盤状の刃物だった。円盤はバーバラが掌を開いたくらいの大きさで、中央に大きな穴が開いていて、円盤の外側のすべてに刃が付いている。
「初めて見る武器だ」
「こっちの世界に来てから出会ったものだ。東の国のものらしい」
「重さがないから威力は期待できないけど、関節に入ればアタイの手首を落とせるくらいの切れ味はあるね」
と、ガーネットが言う。
「ひえっ」
「投擲による速度に、回転による力を乗せている感じですね」
一連の会話を聞いていたサリーが率直な感想を述べる。
「おしゃべりはこのへんにしておこう。次の町を目指そう」
一行は通常の隊列に戻り、再び歩み始めた。
その頃、不凍の森では──。
「先日の傷は癒えましたかな」
「大分良い」
盗賊に誘拐された人たちをめぐってマリアの一行と交戦した羊角の魔族がそこにいた。
不凍の森にあった亜人種たちの里は、彼らのマルボーク移住にともない放棄されていた。魔族たちは不凍の森の里にこの大陸侵略のための第一の拠点を築きつつあった。




