29-2:フォーメーション
サノセクの街にある宿・オアシスの酒場で女子会を楽しんでいるバーバラたちの元に、サイファーというエルフの男が現れる。サイファーはセッカ、ガーネットと共にマルボークからマリアを迎えに来た人員の一人だった。ガーネットは、サイファーの実力の一端に”姿が消せること”があると言うのだが……。
「姿を消せるというのは、”魔法で”ということですか?」
ガーネットの発言に興味を抱いたのはストロベリーだった。魔法学院出身のストロベリーでも、姿を消すことの出来る魔法の存在は知らない。
「そうらしいな」
サイファーがそっけなく答える。
「そうらしい、というのはどういうことです?」
「俺たちエルフの使う姿を消すだのの術の正体は、こちらの世界で言う魔法に近いものらしい」
「なるほど」
「そのへんの詳しい事は騎士団の魔法科分隊で研究中らしい。まだ成果は上がらんようだが」
「姿を消す魔法、見てみたいです!」
ストロベリーは瞳をキラキラさせてサイファーにお願いする。
「断る」
サイファーはあっさり断った。
「えー」
「自分の切り札というものは、易々とひけらかさないものさ」
「まぁそりゃそうだ」
バーバラはサイファーの考えを支持した。
翌朝、一行はマルボークへの旅を再開するために広場に集合する。セッカ以下マルボークからの使者3名はロベールとフランネル姉弟と対面した。
「ガーネットが乗ってきた馬を入れて騎馬が4騎か。全部姫さんの馬車に侍らすのは無駄が多いな……」
サイファーは一行の隊列について思案している。
「セッカとサイファーは、マルボークからここまではどうやって?」
マリアがサイファーに質問する。確かに、ガーネットはその体格に見合った大型の馬に騎乗しているが、セッカとサイファーの馬はいなかった。
「ああ、それは……」
「あー! えっと、サイファーは飛べるから!」
サイファーが答えようとするのを遮ってセッカが答える。
「え? ホントに?」
マリアは驚いた。飛行魔法は魔法学院では必修なので、マリアもサリーも、ストロベリーも魔法で飛ぶことは可能だ。しかし、大きな魔力消費と集中力の維持の問題で航続距離はそう長くはない。数日以上の旅路を飛行魔法前提で計画するようなものではない。というのはこの世界では常識だった。
「ああ、俺の飛行術はこっちの世界の飛行魔法とは根本から違うからな。女一人抱えての長距離移動など負担にもならん」
「え? か、抱えて?」
「あーもう! なんで言っちゃうの!」
セッカがサイファーに怒る。
「まずかったか?」
「恥ずかしいでしょうが!」
サイファーは、なにが恥ずかしいものなのか理解が追いつかず困った顔をした。
「あーえっと、それで何でしたっけ?」
マリアはそれた話題を戻そうとした。
「それだ。マルボークまでの街道に出る魔物は数が多くない。隊列を前、中央、後ろと3つに分けて、魔物が出てきたら前後の隊はやり過ごして中央の隊と挟撃する形を取るのが効率がいいだろう」
「具体的には?」
「ん?」
「編成の」
「そうだな。馬車に侍る2騎は最大戦力のガーネットと、姫さんの影武者だっていう嬢ちゃん……バーバラだっけ、お前さん馬には乗れるか?」
「もちろん」
「よし。貴族の坊ちゃんの馬を借りてくれ。坊ちゃんは馬車に乗って姫さんの最後の盾になれ。まあ、出番はないだろうが」
「承知しました」
ロベールは”最後の盾”という言い回しが気に入ったようだ。
「姉弟の二人は”しんがり”だ。後ろから馬車を狙う魔物が出たら引きつけながらガーネットの所まで誘い込むか、やり過ごしてから追いかけて挟撃する。やれるな?」
「そういう連携はお手の物です」
と、ミーナが答えた。
「セッカは、……馬車乗せてもらってくれ」
「はいよ」
セッカの返事はどことなくそっけない。
「サイファーはどうするの?」
「俺が1人前に出て斥候をやる。それが俺が一番得意な仕事だ」
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