29-1.サイファー
”夕凪”でのマリアとセッカの会談が真相に迫っていた頃、”オアシス”の酒場では宴に興じているガーネットに声をかけてる男がいた。長身のその男は、セッカと同じように全身に黒い衣装を纏っている。
「ガーネット、セッカはどうした?」
「今、姫さまに会いに行ってるよ」
「そうか」
「ガーネットさん、その人は?」
ストロベリーがガーネットに尋ねる。
「ああ、あたしらの連れだよ。エルフのサイファーだ」
「エルフって?」
今度はバーバラが尋ねる。
「あたしらとは別の亜人種だよ」
サイファーと紹介された男は、黒いマントのフードを取った。切れ長の目に少し長めの黒髪は人間と変わらない。特徴的なのは長い耳だった。それがエルフという種族の外見的特徴なのだろう。
(こいつは……かなりの使い手だね)
バーバラはそう直感した。
「サイファー、この二人は姫さまの従者なんだってさ。シスターがストロベリーで、もう一人がバーバラだ」
ガーネットに二人を紹介されたサイファーは、軽く頭を下げた。
「あんたも一緒にどうだい?」
ガーネットはサイファーにも酒を勧める。
「いや……」
と、サイファーは一瞬言いよどんだが、
「そうだな。酒は飲まんが、食事はここで摂らせてもらおう」
そう言うと、サイファーは空いている椅子に座った。
席に着いたサイファーは黙々と食事を始めた。そんなサイファーをバーバラは興味深げに見つめている。
「残念だけどバーバラ、サイファーは妻子持ちだからね」
バーバラの視線の先に気が付いたガーネットがたしなめる。
「えっ」
ガーネットの”忠告”をバーバラは笑い飛ばす。
「あははっ! 違う違う! アタイが気になったのはこの男がどの程度”やる”のかってこと」
バーバラは初見でサイファーがかなりの実力者であることは見抜いてはいるが、その中身については測りかねている。剣を使うのか、魔法を操るのか、ということろさえ見抜けない。
当のサイファーと言えば、バーバラの視線を気にするまでもなく淡々と食事を続けていた。
「ああ、こいつは強いよ」
ガーネットは素直にサイファーの実力を讃えた。
「ガーネットさんとはどっちが強いんですかー?」
ストロベリーが地雷になりかねない質問をした。一瞬場の空気が凍る。
「ストロベリー!」
「いいっていいって」
ガーネットは苦笑いして場を和ませる。
「そりゃ、単純な力比べならあたしが勝つさ。けどサイファーの懐に入れる気はしないな」
「冗談じゃない。お前と事と構えるようなことがあったら俺は逃げるぞ」
サイファーは食事をひと段落させて会話に参加した。
「サイファーに”逃げの一手”をさせたら誰も後は追えない。なんせ姿を消せるからね」
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