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2.メイドは無二の親友


「現騎士団長……?」

「いかにも」


 脇に控えていた左大臣が厚紙で閉じられた肖像画を持ってくる。姫様はそれを一瞥しつつ捨て置き国王に質問した。

「これは大公陛下もご存じなのですか?」

「うん? 公国には関係ないことであろう?」

「ありますよ」

「アーネスト家は王国に属する貴族である。王家の姫が降嫁しても問題はあるまい」


 そんなことはない。騎士団は王国と公国の力のバランスを均衡させるために存在している。この婚姻はその均衡を崩しかねない。姫様はそれを説明した。


「騎士団長を王家と縁戚にするということは、騎士団の持つ力を王国側に引き込もうとしていると認識されるでしょう! その意図がないというのなら、先に公国に説明するべきです」

「そうなのか? 大臣」


(どうして大臣に聞くの? 自分でやってることの自覚がないとは……)


 姫様は憤る。表情に出さないようにするのがしんどい。


「これは順番なのです。先代の騎士団長は公爵家の縁のものを娶りました。次の騎士団長の妻を王国から出しても文句は言いますまい」


 大臣が釈明する。姫様は大臣に向き直って反論した。


「だからって、何も説明しないのは問題にはならないのですか?」

「まあまあ、落ち着けマリア。先方の返事はな、『謹んでお受けするが、当面は騎士団長の仕事でマルボークを離れるわけにはいかないので、式などで王都シャンティーヌに出向くのは今しばらくお待ち頂きたい』と、いうことでな。まだ時間はあるから公国には使いを出しておこう」

 と、国王が慌てて取りなす。


(マルボークから離れられない、か)

 姫様は騎士団長が騎士団領の首都から離れられない理由には見当がつく。


「わかりました。では、わたくしがマルボークへ行けばよろしいのですね」

「いやいや、一国の姫の婚儀ぞ? 降嫁するにしても、王都で式をとり行わねば示しがつかん」

 それはそうかもしれない。と、姫様は考えた。


「まあ、遠からず婚儀を行うことになるから、心の準備はしておいてくれ。と言っておきたかった」

「はい。承知しました」

「では、下がって良い」


 姫様は、騎士団長の肖像画を受け取って退出した。



「ねえ、この縁談、サリーはどう思う?」

 私室に戻った姫様は、テーブルを囲みサリーと話す。二人きりの時は、魔法学院でルームメイトだった友人同士に戻っていた。

「おっ、なかなかのイケメンだね。ほら」

 華美な装丁が施された表紙を開いて、騎士団長の肖像画を見ていたサリーがそう言って肖像画を姫様見せる。

「そうじゃなくて!」

 姫様は、肖像画を一瞬見つつ表紙を閉じてテーブルに置く。


「たぶん、左大臣が進めた話なんだろうね。『公国に遅れは取りたくない』以上の意味はないんじゃないかな?」

「騎士団の現状を把握してる感じはしないしね。前の騎士団長に嫁いだ公爵家の関係者って知ってる?」

「あー……知ってる。うちの実家のご主人の何代か前が公爵家から取った養子だったはず」

「アルファーム家から嫁いでたの? ……って、全然遠縁じゃない!」

「そうなんだよねー。バランス取れてるとは普通言わないかなー」

「あちゃー。次は公爵令嬢が嫁ぐのは確定?」

「慣例化するね。間違いなく」

「野心家の騎士団長が生まれないことを願うばかりね」

「今はそれどころじゃなさそうなのが幸いかもしれないけど」


 そう言われて、姫様はハッとした。そうか、騎士団長が王都に来れないと言っているのは魔族との戦いの準備に追われてるのが原因なのか、と言うことを思い出した。


「ねえ、サリー」

「なに?」

「あたし、マルボークへ行こうと思う」

「えー? マリアってそんな情熱派だったっけ?」

「??? なんで?」

「押しかけ女房するんでしょ?」

「そうじゃない!」


「あははっ! ごめんごめん。最前線の様子を見たいって言うんでしょ?」

 姫様はムッとしながらも素直に頷く。


「でもさ、大陸の端から端まで()()()()()行こうっていう訳? まさか、お忍びじゃないよね?」

「もちろん、王国の姫として」

「本気で言ってるの? 名目は?」

「……そこまでは、まだ」

「……はぁ。王室としては承知してるけど、対外的にはマリア姫様は王都にいることにするのが現実的でしょうね」


 サリーはため息をつきつつも現実的な案を提示してくれた。

「公務はバレる恐れのない所だけ影武者にやってもらって、あとはお休みにしてもらえばいいでしょう」

「そうね」

「ルートはどうするの? フィラハ経由?」

「公国に入るのは顔バレが怖いかな……」

「あっ、そっか。じゃあサノセク経由だね」


 王都シャンティーヌから騎士団領のマルボークまでは大陸のほぼ端から端までの旅路になるが、街道が整備されているのは2つのルートしかない。シャンティーヌから北へ向かい公国の都フィラハを経由するか、東へ向かい砂漠の入口の町サノセクを経由するルートの二択だ。


「うん、サノセクから先は魔物が散発的に出るらしいから準備はしっかりねって感じかな」

「まあ、あのあたりって冒険者くずれがパトロールやってるんでしょ? 大丈夫じゃない?」

「冒険者くずれって……言い方ぁ」

「まあまあ、それより王様を説得する方法を考えなきゃね。お母さまにもちゃんと話しておかないと駄目よ」

「うん、わかってる」


 姫様はそう言われて、すぐにでも母に会いたい気持ちになった。マリアの母は近郊ではあるが王都の外に小さな宮殿を与えられて住んでいる。今日中に会う方法はないか思案してみた。



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