27.ガーネット
「2年前、この大陸に大量の亜人種たちが移住していたことはご存じですか?」
「ええ、彼らは全員、異世界からの転移者だと聞いています」
ここで言う亜人種はエルフ、ドワーフ、ノーム、イカロス、オークの5種である。
「そのうちの誰かとお会いしたことは?」
「無いわ」
「そうでしょうね。彼らのほとんどはマルボークに居住しています。今は」
「ちょっと待って、セッカはその亜人種たちと一緒にマルボークに来たの?」
「そうですね」
「つまりセッカは、その亜人種たちと一緒に異世界からやって来たのね?」
「違います」
「……どういうこと? 話が見えないんだけど」
その頃、バーバラとストロベリーは日用品の買い出しがてら街を散策していた。
「珍しく滞りなくお買い物出来ましたねー」
「さすがに大きい街だからね。ちょっとガラの悪いのが多い気がするけど」
二人がそんな会話をしていると、バーバラの視線の先で肩が触れたとか触れてないとか、そんな些細なことで喧嘩が起きていた。スキンヘッドの男がリーゼントの男に殴られて吹き飛ばされた。飛ばされた先では、カーキ色のマントを付けた大男がいてぶつかってしまう。
「おっと」
ぶつけられた大男は声が出てしまう。だが、その声色は明らかに女性のものだった。
(なんだあれは? 声は女だけど明らか女の体格じゃない)
目視で2メートルほどの体躯は、上背だけでなく筋骨隆々で、バーバラが女の体格には見えないと感じるる理由がそこにある。
「邪魔だよ」
マントの大女はそう言うと、スキンヘッドの男をごみを捨てるように投げ飛ばす。
「なんだお前は! 邪魔すんじゃねえ!」
リーゼントの男は激高している。往来の邪魔をしているのはこの男とスキンヘッドの男なのだが。
「そりゃ悪かったね。なんならあたしが代わりに相手してやるけど?」
マントの大女は自信満々にリーゼントの男に手招きをした。
舞台は”オアシス”に戻る。
「ワタシが2年前、この世界に転移してきたとき、周囲には亜人種たちの里があって、彼らはそこで平和に暮らしていました」
セッカは、自分がこの世界に転移したときのことを説明している。
「セッカより遥か前に、亜人種たちはこの世界に転移して来ていた……」
「そうですね」
「言葉は……、彼らと言葉は通じたんですか?」
マリアに後ろに控えていたサリーが素朴な疑問をぶつける。
「異なる世界で生まれていたものが、同じ言語体系の言葉を使っているとは思えません」
「たしかにそうね……」
マリアは、サリーの疑問を肯定する。
「ワタシが亜人種の里で保護された後、真っ先にかけられたんですよ。魔法を」
「なんの魔法?」
「この大陸……、王国圏の共通語が話せるようになる魔法」
「!!!」
「ほんとに?」
「本当です。文字も読めます。ワタシ、今の仕事は宮殿の書庫で司書をやっています」
「はー……、見えて来た。亜人種の存在は、ほんの一握りの人だけが知っているトップシークレットだったんだ」
「姫さまも知らなかったのですから、よほどの機密事項ですね」
「いや、私は政治の裏事情にまで首突っ込んでないし」
「ともかく、彼らは長い長い時間を里から出ずに過ごしていました」
「そういえば、その亜人種の里ってどこにあったの?」
「マルボークの東にあるイストヒリー平原のさらに先、不凍の森と呼ばれているところです」
「それって、魔族の巣窟とされているところじゃない!」
「ええ。でもそれはこの世界のとある人物による欺瞞工作でした」
「誰の!?」
「姫さまも、おおよその予想は付いていると思うんですけど」
「言って」
「……大魔導士ファムファテル」
「まあ……、そうでしょうね……」
マリアは神妙な表情を見せた。
その時、”オアシス”の扉が開いて、その扉に取り付けられている来客を知らせるための鈴が鳴った。カーキ色のマントのフード頭にかぶった大柄の女が入ってくると、セッカを見つけるなり声をかける。
「おっ、セッカ! ひょとして、そっちが姫さんかい?」
「そうですよ。ちょうど良かった。ご挨拶を」
「おう」
大柄の女は、酒場の中にドスドスと入ってくるとマントのフードを取ってマリアの前に片膝をついてマリアと目線を合わせた。
「ガーネット・トライスだ。よろしくな。姫さん」
「マリア・エスティノアールです。よろしくね。こちらはサリー・フェスティバン」
サリーはお辞儀をして挨拶とした。
「彼女はさっき言った、ワタシがこの世界に転移して来た時に亜人種の里に住んでいたオーク族の戦士です」
「強そうではあるけど、歴戦の戦士って顔立ちじゃないですね。おいくつ?」
「18だよ!」
「まあ」
「あれ、姫さまがいる」
ガーネットに付いてきていたらしいバーバラとストロベリーも酒場に入って来た。
「バーバラ、もう彼女と知り合ってたの?」
「ああ……、さっきこの娘の大立ち回りを見て惚れこんじゃってね。一杯奢りたくなってさ」
「ガーネットさん、揉め事は起こさないでって言ったのに!」
「なに、降りかかる火の粉を払っただけさ」
「もうー」
セッカは暴れ者のガーネットの制御に苦心しているようだ。
「セッカ」
マリアは立ち上がってセッカに耳打ちをする。
「はい」
「話の続きは私の部屋でしましょう。宿は大通りの”夕凪”よ。頃合いを見て訪ねてきて」
「わかりました」
「バーバラ、ストロベリー、彼女たちはこの先一緒に旅をする仲間だから親交を深めておいてね。でも飲む過ぎないように」
「はーい」
マリアは、サリーと共に”オアシス”を後にした。
ブックマーク登録や感想、評価をお待ちしています。




