26.雪花
サーストリアを出て街道を東へ進む一行の中、ジェットは一人浮かない顔をしていた。昨日の魔族との戦闘中、銃が使用不能になったことについて考えている。
(やはり、あの男が結界のようなものを展開していたことと関係があるんだろうか)
昨夜ジェットは、宿で銃を分解して点検していた。異常は無かった。銃身の底に仕込んである火花を起こすための魔法印も機能していた。
結局、ジェットはその日の昼食時に銃の件を皆に相談した。
「そっか、あの結界は銃の攻撃に対する対応だった可能性が高い、と」
マリアは、魔族の男が結界を展開しているのは確認していたが、その内容は把握していなかった。
「今は、銃は問題なく使えるんですよね?」
「ええ、大丈夫です」
「最後の剣の攻撃のダメージが想定より低かったのは、直前のバーバラさんの投剣を防いだ物理障壁のせいだとして、あの結界を出した意図はそれ以外には考えられませんね。状況的に」
サリーは、マリアの考えを後押しする。
「問題は、初見であろう銃への対応を知っていたことなんですよね……」
ジェットは、そのあたりがショックらしい。
「初見じゃない可能性は、ある」
「……あ、そっか」
「噂に聞いていた騎士団と魔族の軍の戦闘があったのは本当だった。で、そこで銃が活躍していたと」
「銃への対策はすでに考案、共有されていて、昨日の戦いは実践サンプルにされてしまった」
「あ……」
マリアとサリーの考察を聞いていたジェットは血の気が引く思いをした。
「まあまあ、そんな青くなりなさんなって。騎士団だって、それくらいは織り込み済みさ」
バーバラがジェットを励ます。
「奴さんとの戦闘経過は、騎士団長への土産には十分だと思うよ」
「なるほど、その通りね」
バーバラの発言へのマリアの同意が、この会議の締めとなった。
サーストリアを出発してから1週間、一行はトラブルもなく旅の中間点であるサノセクの街に到着した。
交易都市であるサノセクは、王国にも騎士団にも属していない。商業ギルドによる自治都市である。
砂漠……、正確には砂漠の”淵”の部分だが──を越えて東の国へ向かう隊商のために豊富な補給物資を揃え、盗賊から身を守る護衛を雇うための傭兵ギルドもこの街にはある。乾燥した空気のこの街は、非常に活気があった。
商人や、傭兵と思われる冒険者風の人々が行き交う街並みの中を、マリアはサリーと二人で王国の出張機関である役所へ、定期連絡の手紙を出すために向かった。
「はい。財務官のロイさん宛ですね。承りました」
役所の職員は、マリア王女がマルボークへの旅程の中継点として当地を訪れることは王都からの連絡を受けていて当然知っている。マリアからの手紙の送付の依頼を滞りなく受諾して、マリアへの連絡事項があることを伝えた。
「姫さま、実は、マルボークからお迎えの人員がこちらに派遣されていまして、現在当地に滞在しています」
「えっ? そうなんだ。今どちらにいらしてるの?」
「ここから2ブロック北にある、オアシスという宿に滞在されいます」
「そう。ありがとう。尋ねてみるわ」
マリアとサリーは、早速その宿へ向かう。
「姫さまがマルボークへ向かっていることは、あちらにも知られているのですね」
「そうみたいね。……その連絡に魔法通信設備を使うという事は……」
「なにか思うところがおありで?」
「この縁談、あの人が絡んでるのかな」
「……なるほど。そう考えれば合点がいきますね」
ほどなく二人は”オアシス”に到着する。
宿の受付で、役所で聞いていた”合言葉”を伝えて使者を呼び出してもらう。オアシスの1階は酒場になっていて、マリアはまだ日も高く人影もまばらな酒場のテーブルについて使者を待つことにした。
数分後、使者は二人の前に現れる。その姿は少し異様だった。
年の頃はマリアたちと同じくらいの女性なのだが、黒い髪に黒い瞳、服装もブラウスからスカート、タイツからブーツに至るまで漆黒に統一されている。
「お初にお目にかかります。マルボークから姫さまをお迎えに派遣されてまいりました。セッカ・カタバミと申します」
セッカは、両手を腹部で揃えて深々とお辞儀をした。丁寧だが、王国圏の作法とは違う挨拶だ。
「マリア・エスティノアールです。お出迎え感謝します。こちらは侍女のサリー」
マリアの後ろに控えていたサリーが軽く頭を下げる。
「お迎えはあなた一人だけ?」
マルボークからサノセクの街道は盗賊が出ない代わりに魔物が出る。そこを1人で来たというのなら、かなりの手練れだと予想できる。
「いえ、所用で外していますが後二人います。二人とも千人力の勇者です。この先の道中は安心して旅をして頂けますよ」
「あなたは?」
「はい?」
「あなたの実力は?」
「ああ! ワタシは全然戦えません! 武器も魔法もからっきしです!」
「あら、そうなのね……」
自分は戦闘での戦力には全くならないと自分で言い切る。そんな人物がこの道中の迎えに派遣されるのはいささか不自然である。マリアは先ほどから感じていた核心に触れることにした。
「セッカ、あなたは何処の生まれなのかしら?」
「……」
セッカの黒い瞳と黒い髪は、サルカンド大陸の人間には全く見られないものだ。砂漠の向こうの東の国の生まれの人には見られる事もあるが、彼らは肌も浅黒い。だがセッカの肌は白かった。
セッカは観念したように言った。
「あーあ、王女様となると、多くの人と会ってるからすぐバレちゃうんですかねぇ……」
「どういうことなんです?」
サリーは要領が得ない。
「ワタシはこの世界の生まれではないんです」
「えっ?」
「ワタシは、いわゆる異世界から来た転移者なんです」
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