25.円満解決、先の旅路へ
「隊長、大丈夫っすか?」
「大丈夫だ。ざまあねえな。はははっ」
近衛兵のエースは隊長のカールを助け起こしていた。蹴られた馬も大きなケガはないようだ。
「ナイス視線誘導でした隊長。それにしても、姫さまの技は一体……」
「城の練兵場でいつもお付きのメイドと訓練してたやつだな……。乱戦では使えないと思うが、威力はすごいな……。人間が相手なら黒焦げになった上に真っ二つだ」
「ひえっ」
「馬車を棄てる?」
「そう」
バーバラは、マリアに誘拐被害者を乗せている馬車をこの場に放棄する提案をしていた。
「さっきの魔族っぽい男、後ろの馬車を自分で用意したものだって言ってたのよ」
「私たち、知らず知らず盗賊との取引の指定場所に来ちゃったのかしら?」
「その可能性もあるけれど、あの魔族は馬車に自分だけに分かる印を付けてたんじゃない? 魔力で探知できる系の」
「どうしてそう思ったの?」
「あいつ、誘拐された人たちが乗っているのが後ろの馬車だって知ってたのよ」
「後ろの馬車には幌が付いていないから、女性と子供しか乗っていないのは見れば分かるわよ」
「あのね、そのへんは言い出したらキリが無いから、一旦置いといて欲しいんだけど」
「分かったわ」
「アタイの仮説が正しかったとして、あの魔族が傷を治した後に取る行動はどう予想する? 最悪の場合を想定して」
「……もう一度、商品を受け取りに来ます、か。今度は仲間を引き連れて」
「正解」
「慎重を期してってことね。分かった」
かくして誘拐被害者たちが乗っている馬車はこの場に放棄することになった。馬は馬装をすべて外して放し、子供たちはマリアたちの馬車に乗せる。大人の女性は徒歩だ。ストロベリーは子供たちを見て、マリアとサリーも女性たちと一緒に歩いて次の町サーストリアに向かう。
「騎士さまはどこで魔法を学ばれていたのですか?」
「マルボークで勇者認定を受けて魔王討伐に向かわれるのですね」
「恋人はいらっしゃるんですか?」
マリアは女性たちに囲まれて質問攻めにあっていた。魔族との戦いの活躍で、彼女らの心を射止めたらしい。
(勇者認定って何? 巷の冒険小説の受け売りかしら?)
マリアは嫌な顔一つせず、笑顔で対応している。”騎士”という設定は身分を隠すための方便だ。旅の途中、極秘裏に盗賊討伐の任務中だったカールたちにたまたま協力する形になった、という体の話をした。
「じゃあ、サーストリアに着いたらお別れなんですね。残念」
「ええ、でもウネンドリッヒまではカールたちが送っていくから安心して」
「これからはどちらに向かわれるのですか?」
「うーん、とりあえず東の方」
マリアは濁しながらも正直に答えた。
「姫さま大人気っすね……」
やや離れた位置からマリアたちの様子を見ていた近衛兵のエースがぼやく。彼女らの”英雄の称号”がマリアだけのものになっているのが不満らしい。
「仕方ねえだろ。俺たちは戦場での作法とはいえ、盗賊を一方的にぶち殺した上に首を切り落とした。あの娘らの目の前で。引かれるのも当然だ」
「それはそうですけど、俺ら10日ほどかけてあの娘たちを送らなきゃならないんすよ。少しは打ち解けておきたいなぁ」
「なるようにしかならんさ。諦めろ」
サーストリアまでの道のりは思いのほか遠く感じた。到着時には日が落ちようとしている。マリアは、誘拐被害者たちを王国管轄の役所に預け、眼帯の盗賊を教会に連れて行き療養と更生のための教育を依頼した。
誘拐被害者たちの移動のための馬車は、商店街からの協力を仰いで調達する方向なるそうだ。これで、ウネンドリッヒの誘拐事件は全て解決したと言える。マリアは、その日の夕食を近衛兵も含めた一行全員で囲って皆の働きを労った。
───翌朝。
「カール隊長、ウネンドリッヒまで彼女たちの護衛をお願いします」
「はっ」
「その後は、王都へ戻って財務官のロイにこの手紙を届けてください」
マリアは、一通の封書をカールに渡す。
「承知いたしました」
近衛兵と別れたマリアは、サリーの手を取って馬車の御者席に座る。馬車はゆっくりと歩み始めた。
「今の手紙は?」
「定期連絡よ。それとカールたちの任務終了と恩賞支給の指示」
「任務終了? どうして?」
「えっとね、表向きはロベールたちのおかげて護衛の数が足りてて、さらに近衛がいると目立ちすぎること」
「本音は?」
「お金使い過ぎた」
「……どうしてそうなった」
「昨日、馬車を棄てたのがトドメになっちゃたなぁ……。代わりの馬車の手配が想像以上の額になったのよ」
「カールさんに追加予算を持ってきてもらう訳には?」
「ロイの一存で通せる予算なんてないのよ。待ってる間にこちらが干上がる公算が高い……、かな」
「先行き不安ですねえ……」
「ロベールたちが自費負担で来てくれてるのが、今となってはすごく有難い」
「これから先は、面倒ごとに首を突っ込み過ぎないようにしてください」
「気を付けます……」
マリアたちの一行は、街道を東に進む。
マルボークへの道のりは、ようやく3分の1を過ぎたところだった。
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